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文字数 2,490文字


 結局、あたし達は解放され、勇気の自宅に帰り付いた。何故か、「靖国神社」の「従業員」から奪った銃器をお土産にもらって。
「私達だ」
「次のいちご狩りは?」
「来年の2月」
 部屋の中に居た「香港のクソ金持ちの子供」が玄関のドアを開ける。
「正義くん達は?」
 荒木田さんは首を横に振った。
「そう……」
「すまん……お前のモバイルPCを使わせてもらえるか? その事で(らん)と相談したい事が有る」
「まだ……正義くん達が助かる可能性が有るの?」
「まぁ……何とかな」
「ところで、聞くの忘れてたけど……何で、ここが判ったの?」
「お前が、ここに置いてった鞄」
「えっ?」
「あれに瀾からもらったヌイグルミを入れてただろ……万が一の為に、あの中にGPSを入れてた」
「……ええッ? ちょっと待ってよ……」
「お前のせいで博多で、どんだけの騷ぎが起きたか忘れたのか? その位の用心はするに決ってるだろ」
 部屋の中に入ると、「香港のクソ金持ちの子供」は、モバイルPCを鞄から出して立ち上げ、更にビデオ・チャットを起動。
『その顔だと、うまく行かなかったようだな……』
「えっ? こいつが……さっきの電話の相手? どう見ても……中学生……」
 勇気が率直かつ喧嘩売ってるようにしか思えない感想を述べる。
 たしかに、画面に映っている女の子のは、中学生かまでは不明だけど、少なくとも、あたしより年下っぽい。
『その馬鹿は無視していいか? ともかく、あの後、何が起きた?』
「馬鹿ってなんだよ⁉」
「馬鹿でしょ」
 勇気のツッコミに更にツッコミを入れるあたし。
 荒木田さんは、これまでの経緯を説明した。今度は、嘘も隠し事も無しで。ただし、「担当弁護士のスタン・ガンさん」は省略。
『その「魔導師」の情報は丸っ切りの嘘とも思えんが……多分、その情報を元に行動すれば、結果として、そいつは、自分の手を汚さずに、利益だけを得る事になるだろうな。「利益」が何かまでは判らんが……』
「だが、手掛かりは……それしか無い。で……私達は、どうやるのが正解だったと思う?」
『すぐに行動した事は正解。でも、考え得る限り巧くやっても合格点ギリギリだっただろう。そもそも、メンバーが……』
『あ〜、光さん、どうしたの?』
 妙にニヤニヤしながら画面に手を振る荒木田さん。やれやれと云う顔の「香港のクソ金持ちの子供」。
 画面の中には、もう1人女の子。先に映ってた方より若干、年齢は高そう。
「いや、ちょっと……面倒事に……」
(ヒゥ)君が、また、何かやったの?』
「なぁ、その、応援に……」
治水(おさみ)を、そっちに送れって? すまん、ウチは、今年、初盆で、明日が法事だ。あと、もう1つ』
「何だ?」
『海の真ん中に有る人工の浮島に「水の神」の力を使える奴を送るのか……。治水(おさみ)が何かポカやったら、島ごと沈む』
「じゃあ、そっちの……その……」
『下関と筑豊の「正統日本政府」のシンパに変な動きが有って、使えそうなのは出払ってる……らしい』
「じゃあ、攫われた子供が少年兵として『出荷』されるのも……」
『それと関係が有るかもな……。あと、そっちの港で手荷物検査が有る以上、銃も刃物も無しで、そこそこ戦える人間じゃないと……』
「銃なら有るよ」
 あたしは、モバイルPCの画面に映ってる女の子に、「靖国神社」の従業員から奪った銃を見せる。
「これで、ほんの一部」
『なら、心当りを探してみるが……期待はするな。で、話を元に戻そう……。少年兵にされそうな子供は、漁船に偽装した船で「出荷」されると言ったな……。なら、「出荷」日は……明後日……一六日の夜まで延びる可能性が有る』
「どう云う事だ?」
『近隣の海産物の卸売市場は盆の間休みで、一七日から営業。卸し先が営業してないのに、漁船が海に居たら、あからさまに怪しまれる』
「じゃあ……まだ……取り戻すチャンスは有る訳か……」
『ああ。だが、もしやる気なら、その時に、必要なモノが有る。それも、こっちで手配出来なかったら、あと1日2日じゃ入手困難なモノがな……』
「何だ?」
『さっき、当のあんたが言ってたモノだよ。応援だ。あんた達に協力してくれる「そこそこに強いが化物級(チート)って程じゃない誰か」だ』
「私達だけじゃ、やっぱり無理か……」
『そうだ。あんた達はゴジラみたいなモノだ。「強い誰か」と戦う事には向いてても、「弱い誰か」を護る事には向いてない。ゴジラには平気でも、人間には致命的な「何か」を見落してしまう危険性が有る』
 そうだ……それこそが、この数時間で何度も起きた事だ……。
「なら、方法が有る」
『ちょっと待って、心当りが有るから、今、電話する』
 モバイルPCのこっちと向こうで、同時に声。
 こっちの声は勇気で……向こうの声は2人目の女の子だった。
『待て‼ 今、誰に電話してる⁉』
『望月君と今村君が、今、「千代田区」の中古電子部品の即売イベントに行ってるでしょ』
「ええっと……あと……こっちには……強化服(パードスーツ)が1つ有るんだけど……」
『見せてみろ……待て……それ……()()()()()()()()()()()()()()‼』
「駄目元で聞くけど……修理する方法なんて……」
『制御コンピュータは生きてるか? あと、3Dプリンタは有るか?』
「えっ?」
『なら、セルフ・チェック・プログラムを走らせて、そのログを送れ。あと、欠けてる装甲がどこか洗い出せ。一〇〇%の性能は望めんし、思いっ切り暴れた後に完全にブッ壊れてる事になる可能性が高いが、それでもいいなら……方法が有るかも知れん』
「そもそも……この……偉そうなチビ……誰なんですか?」
 勇気は荒木田さんに聞いた。
「えっと……その……色々とややこしくて……」
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登場人物紹介

石川勇気
主人公その1。
十年前の富士山の噴火で多くの人々の命を救った「英雄」の息子。
妹と弟が人身売買組織に誘拐された事と、亡き彼の父親に代る「新しい英雄」を望む者達の存在により、少しづつ運命を狂わされてゆき……。

玉置レナ
主人公その2。
十年前の富士山の噴火の際に、ある「恐るべき力」を受け継いだ少女。
石川勇気と同じ学校に通う幼なじみ。

暁(ヒゥ)
ネットゲーム仲間とのオフ会の為に日本を訪れていた香港の小学生。
金持ちの息子だが、気さくで温厚。だが、彼こそが全ての事件の発端。
数日前にも、博多で何か騷ぎを起していたらしいが……?

荒木田光
福岡市の私立大学に通う大学生。
勇気の弟や暁(ヒゥ)のネットゲーム仲間。
博多で騷ぎを起した挙句、「無法地帯」である通称「秋葉原」に向かった暁(ヒゥ)を連れ戻しに、「秋葉原」が有る「Neo Tokyo Site01」(通称「千代田区」)に来る事になり……。
レナと似て非なる力の持ち主。

高木瀾
同じ世界設定の「世界を護る者達/御当地ヒーローはじめました」の主人公。
ある理由で、「師匠」から「破門」中の「正義の味方」見習い。
「本土」から勇気・レナ・光に助言をするが……。

眞木治水
同じ世界設定の「世界を護る者達/御当地ヒーローはじめました」の主人公。
光・暁(ヒゥ)・勇気の弟とはネットゲーム仲間。
「水」を操るチート能力を持つが、「そんな能力の持ち主が『人工の島』で何かポカをすると島ごと海に沈みかねない」と云う理由で、今回の事件からはハブられる。

望月敏行
瀾の同級生で、「本土」から来た応援。
後方支援担当。

今村亮介
瀾の同級生で、「本土」から来た応援。
獣化能力者で前線担当。

「総帥(グランドマスター)」
「Neo Tokyo Site01」の4つの地区の1つである通称「神保町」の自警団「薔薇十字魔導師会・神保町ロッジ」のリーダー。
「魔導師」としての名前は被免達人(アダプタス・インセプタス)「エメラルドの永劫(アイオーン)」。
勇気の父親を殺した人物だが、同時にその事に罪悪感を抱いており……。

「緋色の皇帝(エンペラー)」
「薔薇十字魔導師会・神保町ロッジ」の魔導師だが、魔導師としての「階位」は「下から2番目」「係長になったばかり」。
だが、魔導師としてはまだ未熟(≒魔力が少ない)であるが故に、「強い魔力・呪力を持つ者/物の出入りを検知する」結界が張られている「九段」地区に侵入する事が可能。

「メガネっ娘」
「薔薇十字魔導師会・神保町ロッジ」の魔導師見習い。(一般企業で喩えるなら、正社員ではなく正社員に採用される予定の研修員)
魔導師としての名前は「紫の女司祭(プリーティス)」。
ただし、組織内でも「ドジっ娘」と呼ばれている模様。

「お姫様」
玉置レナに取り憑いている「神」。
レナが子供の頃に、とんでもない真似をしでかしたせいで、他の「神」から要注意人物扱いされているらしいのだが……。

「荒祭宮」
荒木田光に取り憑いている「神」。
太陽や炎の関する力……特に「浄化」や「生命力の検知・操作」に特化した力を持つ。
同じく「炎」に関する力を持つ「お姫様」に比べて、特殊能力的なモノは豊富だが、発生させられる物理的な熱量に関しては劣る。
「日本の神」を名乗りながら、何故か、ここ数十年ほどアメコミにハマっているらしい。

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