私の大好きな家族

文字数 3,031文字

「ねぇーねぇー、おとうさんー。このきれいなひと、だーれ? 」

「どうした、こはる。あ、また物置から勝手に出してきて。怪我はしなかったか?」

「してないよ。そんなことより、このひとだーれ?」

「怪我してなくて良かった。どれどれ。あーこれは、こはるのお母さんだよ。よくこんな古いもの見つけてきたな。おかあさんが成人式の時の写真だよ。」

「せいじんしき?なにそれー。」

「大人になったお祝い事だよ。簡単に言うと、お祭りみたいなものかな。」

「おまつり!こはる、おまつりだいすき!おかあさんみたいに、きれいなおようふくきたい!おとうさん、きょうせいじんしきやろー。」

「ふふ、こはるはまだ5歳じゃないか。こはるが20歳になったら出来るよ。」

「20さい?こはる、あしたには20さいになってるかな?」

「そんなに早くこはるが大きくなったら、お父さん困っちゃうな。」

「なんで、なんで、こまるの?」

「いやーそれは...(困るもなにも寂しいじゃないか。お父さん泣いちゃう。)困るものは困るんだ。」

「えーー、こはるわかんない。なんで、なんで?」

「そんなことより、こはるが20歳になったらいーーーっぱいお祝いするよ。あ、そうだ。お父さん良いこと思いついちゃった。」

「え、なになに?こはるにもおしえて!」

「(ふぅ、なんとか誤魔化せた。こはる、ごめん。こんなお父さんを許して。)こはるが20歳になったら、お母さんが写ってるこの場所で写真を撮ろうか。」

「やったー。こはる、おかあさんとおなじところでとる!おとうさん、やくそくね。」

「うん、約束な。」

「こはるー、お父さん、お昼ごはん出来たわよー。」

「わーい、おひるごはん!」

「こはる、手を洗ってから食べなさい。」

「はーい!わかったー!」

「お父さんと何話してたの?」

「こはるが20さいになったら...」




あぁ、とても眠い。なんだかとても懐かしい夢をみていた気がする。俺はいつの間にか寝てしまっていたらしい。なんだろう、体がとてもふわふわする。それに、頭が痛くて最近の記憶がない。俺は昨日のことを思い出そうとしたが、何一つ思い出せなかった。ベットから起き上がり、カーテンを開けた。日の光がいっきに俺の部屋へと注ぎ込まれる。それと同時にカーテンの表面に付いていた埃が床に落ちた。きっと最近の俺は掃除をしていなかったのだろう。後で掃除をしよう。そういえば、今日は何年の何月何日だっけ。なかなか思い出せなかった。カレンダーを探したが、この部屋には無かった。俺は一階に降りて、リビングにあるカレンダーを見た。えぇと今日は2021年1月11日か。ん、何か日付の下に書いてある。

〔こはるの成人式〕

あー、そうか。今日はこはるの成人式か。こはるの成人式。こはるの...こ、こ、こはるの成人式ーーーーーーーー!?こはるはまだ20歳じゃないはず。あれ、おかしいな。少し冷静になろう。(深呼吸、吸って―吐いて―)
ふぅ、少し落ち着いたみたいだ。そういえば、こはるとお母さんがいない。やっぱり今日は成人式なのか。俺は時計を見た。15時30分。もし、成人式ならもう終わってしまってる。こはる、お母さん、俺をなぜ起こしてくれなかったんだ。あ、そうだ。こはるとの約束!今ならまだ間に合うかもしれない。俺は2階に戻り身支度をし家から飛び出した。


家を飛び出してから1時間ぐらいだろうか。俺はこはるとの約束のために走った。そして、目的地に到着した。あの時、こはるのお母さん―さゆりを撮った場所。あの時と全然変わっていないことにふと気がついた。この場所だけがあの時と同じ。誰かが時間という概念をこの場所だけ切り取ってしまったかのように。
少し遠くに2人がいた。こはるとさゆり。俺に背を向けてベンチに座っていたので2人の顔は見えない。さゆりの後ろ姿はあまり変わってはいないが、こはるの後ろ姿は俺の知っているこはるではなかった。あんなに背が高いはずがない。本当にこはるなのかな。少し不安になってきたがここで食い下がるわけにもいかない。
まだ2人は俺に気付いていないらしい。俺は2人に謝らなければならない。こはるが20歳になったらいーーーっぱいお祝いすると約束をしたのに。俺は2人の元へ歩み寄った。そして

『ごめんこはる、さゆり。俺はずっと家で寝てた。こはるとの約束をを破ってしまった。カレンダーを見るまで今日が成人式ということを忘れてたんだ。こんなお父さんで本当に申し訳ない。』

自分の思っていること、伝えたいことをそのまま声に出すとたまにおかしな文章になってしまうことがある。こんな謝り方で良かったのだろうか。
俺は顔を上げ2人の顔を見た。すると、背の高いこはるが泣いていた。こはるはさゆりの着物を着ていて、さゆりに似てとても美人だった。そこにいたこはるは、やはり俺の知らないこはるだった。だが正真正銘ここにいるのは、こはるだ。さゆりはあまり変わってはいなかった。

「こはる。もう泣かないの。大人でしょ。お父さんが見たらきっと困っちゃうわよ。」

「だって、お父さんとの約束守れなかった。お父さんに20歳になった私を見て欲しかった。お父さんとお母さんと三人でこの場所で写真撮りたかった...。」

「そうね。お母さんも3人で撮りたかったわ。こはるにはまだ言ってなかったけど、私の成人式の写真はここでお父さんに撮ってもらったの。」

「そうだったんだ。」

「そうなの。実はお父さんとお母さんは同じ大学の同じサークルだったの。それでね、成人式はサークルのみんなと行ったんだけど、途中でお父さんが「2人で行きたいところがあるんです。」って言ってこの場所に来たの。元々仲は良かったけどこんなに笑ったのは初めてだったわ。後で勝手に2人でどこかに行ったから、サークルメンバーに怒られたわ。でも、すごく楽しかった。いつの間にか私はお父さんのことが好きになってたわ。」

「私もお父さんのこと大好き。」

『そ、そうか、俺はもう...こはるとさゆりの世界にはいなかったのか。』

「あ、そうだ。お母さん良いこと思いついちゃった。」

「ちょっと、お母さん!お父さんのマネしないでよ。思い出しちゃうじゃん...私にも教えて。」

「ここで2人で写真撮ろうか。実はお父さんの部屋からこっそりカメラと三脚を持って来ちゃった。もう何年も前の古いカメラだけど。写真を撮ってお父さんの仏壇に飾りましょ。きっとお父さん、喜ぶわよ。」

「いいね。じゃあ、カメラと三脚貸して。セットするね。お母さんはベンチで待ってて。」

「はい。任せたわ。」




「お母さん、準備できたよ。あれおかしいな。お母さん、カメラのタイマー機能壊れてるよ。」

「えー、うそー。やだわ。カメラを持っていく時にお母さんが確認すれば良かったわ。」

「どうしよう...」





ピピピピピ...

「あれ、壊れてたはずなのにタイマー付いた!」

ピピピピ

「ふふ、あら不思議ね。お父さんが直してくれたのかしら。こはる、早く来なさい♪」

ピピピ

「はーい!お母さん♪」

ピピ

『こはる、20歳の成人式おめでとう。さゆり、こはるをよろしくね。』



『こはる、さゆり、撮るよー! ハイ、チーズ!』











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