第二章 茶店と御菓子は嗜みです

文字数 1,244文字

 アタシは、ここ何週間も毎日同じ喫茶店に現れては丸一日居座り続けている男がいる、そういう噂を耳にした。

 本当に会社行ってるの?

 確かめるべく、その喫茶店に入った。
 そうしたら、まさかとは思ったけど本当に、アイツはいた……

 * * *

「こら、吾郎!」
「ゲッ! おふくろ!」
「『ゲッ』じゃないよ! アンタ、会社行ってると思ったら、なにこんなとこでサボってんだよ?! おかしな男がお店にいるってウワサになってるよ!」
「いや、サボっているわけじゃなくて、これには深いワケが……」

 オレが理由を話すと、

「いいわけすんじゃないよ!」

 あっ、やっぱり。
 それにおふくろが怒鳴るもんだから、周りの人も店員も、イヤな顔をしている。
 スミマセン……

 しかし、ここで引き下がっていたら仕事にならない。いや、おふくろの目からごまかせばいいが、少し面倒なことになる。
 そこで、取締役の若旦那からもらった似顔絵を見せて、さらに説明した。
 よりにもよって、写真ですらないんだぜ? 絵なんだぜ? しかもこんな中途半端な画力の。髪が長いとかくらいしか参考にならんぜ?

 似顔絵を見たおふくろは難しい顔をしている。やっぱ、ムリだよな……。
 そう思っていると、おふくろは、

「なんでアンタ、何週間も黙ってたんだよ!」

 怒られた。

「いや、2週間くらいだよ……」

「2週間か何週間かはどうだっていいよ! だいいち2週間も来なかったのに、こんなところで待ち構えてたって来ないだろうよ」

 それはもっともです……

「アタシも手伝ってあげるから手分けして見つけるよ!」

 えッ?!

「コンビニでも美容院でも片っ端から捜しまわりなさい」

 こうして、美容院をめぐってカットしてまわる日々が始まったのである。いつまで続くのか……。

 それにしても、うるさくしてスミマセン。

 * * *

 それにしても、近ごろの私は忙しい。ここ何週間も遊びに行けていない。毎日毎日ずっと残業続きでオフィスと家を往復する日々だ。
 私がいなければ会社がまわらないからしかたがない。残業代とか休日手当とかもらいたいよね。

 いくら忙しいといったって、強引にでも休みをつくったほうがいい。
 休みはもらうものではなくてつくるもの。それはこの仕事をするなら肝に銘じておくべきだ。休みをつくらないとつぶれてしまう。身体も、メンタルも、もたない。

 しかし、休日を丸一日とるのは難しいんだよね。また近場で遊ぶか。けど、どこに行こうか。
 うーん……。

 そんなことを思いながらネットで地図を見ていたら、ちょうどよさそうなのを見つけた。

 近所の高級ホテルの、スイーツ食べ放題。

 これだ……!
 これならオフィスとウチの近くだし、行き来しても短時間で済みそうだよね。スイーツ食べて帰っても酔っ払うほどのこともなさそうだし、仕事に響かなさそうだ。予算的にもちょうどいい。ぜいたくだといっても、たかがしれているし。

 そんなわけで私は平日に短い休暇をとって、ホテルのスイーツ食べ放題に行くことにした。


 《 続く 》
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