第1話

文字数 889文字

 「通り抜け無用で通り抜けが知れ」という川柳がある。「”通り抜け禁止”と看板などに書くことによって、かえって他人に ”ここは通り抜けができる” ということを知らせてしまう」という意味である。
 似たようなことは他にもある。とある分譲住宅の建築現場で、「安全第一」の看板の隣に「空き缶、弁当の空箱ポイ捨て厳禁!」という看板が掲げてあった。さて、ここの建築現場ではポイ捨てが日常茶飯事…?
 看板、掲示物だけではない。個人またはその組織内での会話の一言に、レベル、水準が垣間見えることがある。以前住んでいた東京の湯島で、新築の26階建てマンションの建設現場から、朝礼で現場監督が出す指示の一部が漏れ伝わってきた。「…、いいですか、柱は真っ直ぐに、真っ直ぐに立てて下さい。」果たして立派なマンションが建ったが、少し怖い…。
 また、その個人、組織だけが到達できた高いレベル、水準を感じさせる言葉もある。
 母校の大学では、外科研修の最初の2年間は消化器外科、一般外科、循環器・呼吸器外科、小児外科、形成外科、麻酔科などをローテーションで回る。卒業して外科系研修医の歓迎会の時、祝辞を述べた、猛将として知られた消化器外科助教授の外科の極意は「bluten(ブルーテン)*させないこと」だった。(bluten(ブルーテン) … ドイツ語で「出血する」)それを聞いて気持ちが高ぶった。その外科助教授の手術に参加して、その言葉の本当の意味が理解できた。そして、40年近く経った今も外科医の基本だと思っている。
 さて、2021年10月23日「庄内空港開港30周年記念・空の日」に、ブルーインパルスが庄内上空に飛んできた。写真は、前日の予行飛行の写真である。飛行高度が高く、当院の建物と(から)めた写真は撮れず、天空を見上げて撮る「天井打ち」という撮り方だ。

 地面を時速 300 km/h で走る新幹線や F1 と違って、前後左右上下のある3次元空間を時速 1,040 km/h で曲技飛行する飛行隊長は、一体どんな訓示をするのだろうか?
 少なくとも「操縦桿はしっかりと握り、前をよく見ろ」ではなさそうだ。

 んだんだ!
(2021年12月)
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