第1話

文字数 1,374文字

 「先生、頼まれたカップが届いていますよ。」
 「わぁぁ、届きましたか? やったぁ~~~! 」
 私がよく行く居酒屋のカウンターで、大将にお願いしていた物が届いた。
 それは小さな箱に入っていた。私はまるで、待ち焦がれたクリスマスプレゼントを手にした幼稚園児のようで、早く見たくてわなわな震えていた。箱を開けて取り出したのは、銀色に輝く計量カップ、jigger cup(ジガー カップ) だった。

 ジガー‐カップ【jigger cup】カクテルを作る際に用いる小さな計量カップ。二つのカップがつながり、(つづみ)形をしている*。(*goo 辞書から引用した)

 私はウイスキー「角」のハイボールは逸品だと思う**。(**拙者「がぶ飲みするハイボール」: NOVEL DAYS 一般小説:2022年8月9日 更新 を参照)
 私流の作り方は、ジョッキグラス8分目まで氷を入れる。レモンスライスを一切れ氷に載せる。ウイスキーを 1/3 まで注ぐ。炭酸水を注ぐ。マドラーで約2回転かき回す、だった。
 飲み方は極めて単純で、これをがぶがぶと飲んでいた。
 しかし、ジョッキグラスの飲み始めと、氷が融けた後半のウイスキーの濃さに違いがあり、またグラス毎のウイスキーの濃さにもばらつきがあった。総じてグラスを重ねる毎に、ウイスキーは濃くなっていった。
 そんなある晩、よく行く居酒屋のカウンターで角ハイボールを注文した。
 「あら?先生、今日はハイボール? 珍しいわねぇ。」
 「んだ、今日は猛暑日で暑かったからねぇ…。冷たいハイボールが飲みたくなったもんで。」
 女将は角ハイボールを作ってくれた。その時、ジガー・カップを使って角瓶からウイスキーのダブルの分量をササッ!とジョッキグラスに注ぐ手際のよさに、思わず感動し見惚(みと)れてしまった。
 ジョッキグラスの中の氷塊の大きさ、重なり具合はその時々で異なる。そのジョッキグラスに目分量でウイスキーを注ぐ。これではウイスキーの濃さに濃淡が出ても不思議ではない。私流のハイボールの作り方には、定量性が欠けていたのだ。
 それ以来、ジガー・カップが欲しくなった。

 「ボトルと氷を渡しますから、先生、自分でハイボールを作りますか?」
 「んだっ!」
 ()くして my jigger cup(私のジガーカップ) のデビューである。
 ジガー・カップの小さいカップの容量は約1オンス、大きいカップは2オンス***である。
 オンス【ounce】ヤードポンド法の体積の単位。液量オンス。1オンスは、英国では約 28.41 mL***。(***goo 辞書から一部引用した)

 ジガー・カップの大きいカップにウイスキーを満たす。ダブルの分量だ。カップには注ぎ口がない。ゆっくりとグラスに移すと尻漏(しりも)れしこぼれる。だからある程度の勢いでヒョイッ!とグラスに移す。その際、グラスの縁から氷が(あふ)れていると、氷にウイスキーが当たってグラスの外に飛び散る。
 初めてジガー・カップを使って角ハイボールを作ったが、既にこれだけのことを勉強した。新しいことには得るものが多い。そしてその道も奥が深い。
 ウイスキーをジガー・カップで計量して飲んで、ジョッキグラスの飲み始めから終わりまで味がほぼ一定で落ち着いた飲み心地だった。
 そしてそれは、2杯目以降にも続いた。


 その美味しさにホッとした。

 んだんだ!
(2024年9月)
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