#2 脳と手と目

文字数 2,530文字

新人さんの作品を拝見するときに
「いまおいくつですか」「これは何作目ですか」「満足度は何点ですか」
の3点を必ずお聞きします。

30歳以上は云々みたいなどうでもいい指標はどうでもいいのですが、
なぜこれを聞くのかというと
「この人が3年後にどうなっているか」を想像するためです。
それを想像するために、後述しますが、そのかたの「脳と目と手」を知りたいのです。

肉体がそうであるように、創作における成長期も人それぞれ。
何歳から始めても上手くなる人は上手くなるし、いま上手くてもそれが上限の人もいますからね。

では脳と手と目について説明申し上げますね。

「脳」は、その人が脳内で浮かべている映像のことです。構図はもとより、妄想力、着眼点なども入ります。これが優れていないと、優れた作品は描けません。映画や本、遊びなどでいくらでも訓練は可能です。最後に述べますが、広い世界に生きていることが大事かもです。

「手」は、脳内で浮かべた映像を原稿に再現する力のことです。これについては僕は非常に楽観しています。なぜなら練習すればするだけ伸びるものだからです。まあ伸びるかどうかは努力するかどうもそうですし、次に述べる良い「目」を持っているによるのですが。

「目」は、脳内映像が手によってどれだけ再現できているかを客観視する力のことです。これが劣っている人(自己評価が高い人ともいいます)は、現状に甘んじてしまうので決して上手くなることがありません。

今までお会いしたプロ漫画家さんの中で「僕は今までに一度も満足する絵を描けたことがない、ヘタすぎて恥ずかしい」と本気で言っていた漫画家さんが二人いました。
名前は明かしませんが、いわゆる「日本でトップクラスの画力」と称される方でした。
脳と目が発達しているからこそ、手にもどかしさを感じているんでしょうね。

さて、これをお読みいただいているかたの中には、
なかなかデビューできない、もっと上手くなりたいと考えている新人漫画家さんもいらっしゃると思います。
上記の「脳と手と目」論をふまえたうえで、
多い年で年に3000作品、平均して2000作品くらいの投稿作品を10数年間拝見してきた者として、こういう人はなかなか成長しにくい、と勝手に思っているタイプがあります。
(成長しなくてもすでにすごいレベルのかたは、別に成長しなくてもいいんですけどね)
・妄想力が弱い
・「自分の画風」が崩れることを恐れて模写練習をしない
・自分のいまの絵が最高だと思っている
etc.
それを判断するだけでは「編集者」ではなくただの「断定者・評論家」ですよね。
だから僕は担当した新人漫画家さんの、脳と手と目を常に向上させるべくお手伝いしたいと思い、伸ばすためのお話をしています。
僕が担当しているのは作品ではなく作家さんなので。

脳(妄想力)が弱い人は、インプットの少なさもありますが、それよりも、自分で「漫画とはこうでなければいけない」という「殻」を作ってしまっている人が多いです。
漫画は芸術ではなくエンタメですが、創作です。創作にはルールはありません。
ドアを叩く音は本当にコンコンですか?バナナの皮で滑った人を見たことがありますか?
旅人は村に着いたとき空腹で倒れたら面白いですか?依頼してきた町長が実は悪の張本人だったらびっくりしますか?女性が苦手な人は女性が近づくと本当に鼻血を出しますか?
上に挙げたものがつまらないと言いたいわけではなく、
これらのアイディア、その漫画のセリフは

ですか?今まで読んだ漫画の記憶ではないですか?と問いたいのです。
アイディアを出す際には「漫画ならここでこうなる」ではなく「自分が読者だったらここでこうなったら心が動く」という考え方にシフトしてみるといいのではないでしょうか。

手(再現力)が弱い人は、とにかく色んな漫画を模写しましょう。
いきなり自分だけの歌い方やバッティングフォームはできません。
憧れの歌手、野球選手の真似から始まりますよね。
絵柄ではなく技術を学ぶのが目的です。模写しようしたときに初めて読むだけではわかりえなかった先達の技術に気づけます。
大丈夫です、模写程度で消える個性は個性じゃないです。
ある書の名人は、王義之の書を模写することを日課としているそうです。
真似ようとしても真似ようとしても真似しきれない部分が個性だと言っていました。
その考え方って素敵だなと思います。

目(判断力)が弱い人は、自信家であることが多いです。
自信家になるには簡単で、世のあらゆる情報をシャットアウトするか、自分を褒めてくれる環境だけで生活すればいいのです。狭い世界で生きれば自信が生まれます。
反対に自信がない人は、あらゆる情報を取り入れ、書店に足を運び、いろんなすごい作品を鑑賞しているともいえます。広い世界に生きています。
商業漫画に関していえば、不特定多数のマスを喜ばせるものです。
広い世界に生きている人のほう向いていると思いますよ。
自信がない人ほど持ち込みをすべきですし、自信がない人ほど伸びしろがあると思います。
(補足すると自信とモチベーションは別です。自信はなくてもやる気は持っていてくださいね)

「メモ」という言い訳があるので、結論的なものは特にないのですが、
創作活動で行き詰っている人のなにかヒントになれば幸いです。

脳で妄想した映像が手で再現できたことが目でわかり、
脳と手の進化合戦を目で楽しめるようになったら最強漫画家ですね。

ちなみに僕が原稿を拝見して「担当させてください」とお願いする基準は、
脳>>>>>>目>>>手 が発達している順で惹かれるかなぁと自己診断。
最初の質問でいえば、仮に同じレベルの作品だとしたら、
18歳、5作目、自己評価100点よりも
45歳、1作目、自己評価20点のほうが、担当したい欲求湧きます。

次回は丸い絵、四角い絵、肉、骨について書こうかな←これもメモ。

















































ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み