第2話 次世代の光

文字数 7,679文字


伝道者 ~エヴァンジェリスト~
次世代の光

貧しくとも、君の生活を愛したまえ ソロー









 「続けー!!!!」

 雄叫びと共に、騎士たちは走りだした。

 すでに錆び付いた道具さえあるが、それでも彼らは奔るしかなかった。

 今日までにしてきたこと全ては、決して無駄にはならないと信じて。

 ドカン、ドカン、とあちらこちらで爆音が響く。

 「くそっ。やっぱそう簡単にはいかねぇか」

 「ロルダさん、どうします?」

 「まだ始まったばっかだろ。諦めるわけにはいかねぇよ。まだ爆弾余ってるか?」

 「はい、まだ充分あります」

 「ありったけ設置しておけ」

 ロルダはデルトと連絡が取れないままだったが、とにかくやるしかなかった。

 こんなことをして、無事で済むはずがない。

 だからこそ命を懸けた逃避行であって、ここで引き返すことは出来ない。

 「ちっ」

 これまでに溜めていた爆弾をセットするも、壁はほぼ無傷状態。

 どんな技術で作ったのかと、考えによっては安全なのだが、自分の置かれた状態を見ると安全というよりは籠の鳥だ。

 「ロルダさん!大変です!」

 「どうした?」

 徐々に空が暗くなってきた頃、ロルダのもとに情報が入ってきた。

 それはあまりに残酷なもの。

 「まさか・・・デルトが!?」

 デルトが、捕まった。

 「誰に捕まったんだ!?どこにいる!?」

 「それが・・・どうやらすでに中央の壁に磔にされているようで!」

 「なんだと!?」

 急いでデルトのもとに行こうとしたロルダだったが、そのとき、急にどこからか放送が流れてきた。

 《我等に背き、刃向かおうとしていた反乱者のリーダーと思われる男を一人、こちらで確保いたしました。直ちに処刑とします》

 「どこだ?どこにいる!?」

 ロルダはデルトといつも一緒にいる、イ―リスとマンダに会いに行く。

 「おい!デルトは何処にいる!?」

 「あ・・ロルダ」

 「デルトから、伝言を預かっています」

 「伝言!?そんなものいいから、あいつは何処にいるんだ!?案内しろ!知ってるんだろ!?」

 イ―リスの胸倉を掴んで叫ぶロルダだが、イ―リスもマンダも、唇を強く噛みしめているだけ。

 「おい!てめぇら!!!」

 「・・・すでに拷問を受けていると思います。あいつらに捕まってしまっては、もうデルトさんは生きて帰って来られません」

 「・・・!」

 それは、ロルダにも分かっていた。

 親からも祖父祖母からも聞いていた、これまでの残虐な歴史。

 一度捕まってしまえば、泣きながら命乞いをしても、心を入れ替えると懇願しても、何をしても無駄なのだ。

 昔から、この壁を壊そうとした者は何人もいた。

 殺される事を恐れる人々が多い中、立ち上がった若者たち。

 例え自分の身が滅ぼうとも、自分がしようとしてきたことが終わらないよう、そう願っている。

 「ロルダさん、デルトさんが・・・」

 どこからか、爆音に交じって誰かの叫び声が聞こえてくる。

 何かに耐えているような、悲痛の叫び。

 それは心の歪んだ人間にとっての愉しみにしかならない。

 「俺の意志を忘れないでくれ、と」

 いつかの自由を夢見ていた。

 少年たちは、自分たちが生まれてからずっと戦い続けなければいけないことに疑問を抱いていた。

 老兵も赤子も障害者も、みなが標的となり、みなが戦士。

 毎日同じ空を見て、同じ景色を眺め、仲の良い友人と顔を合わせる。

 ほんの百数年前までは、互いに本気で戦っていたようだ。

 屍があたりを埋め尽くすのが当たり前。

 だが、すでにそのとき、この戦いを終わらせようとしていた者もまた存在していた。

 それはまだ、彼らが生まれていなかった時代の話で、人づてに聞いただけ。

 その人物は儚くも散ってしまったが、少しでも希望を与え、今後一切の戦死による死人を出さないことをみなは誓った。

 その意志を受け継ぎ、戦うという行為自体を止めることは叶わなかったが、彼らはわざと殺さなかった。

 例え己が殺されたとしても、遺された者達が絶望など背負って生き無いようにと。

 その話を聞いた少年たちは、成長し、壁を壊すという実現に向けて戦った。

 時には喧嘩をし、分かち合えない時もあった。

 だが、それでも彼らは同じ未来を夢見て進んだのだ。



 翌日、何も話さなくなってしまったデルトの身体が、ある程度見える高さにまで下げられていた。

 それは、今までにも磔にされた者たちと並び、地獄絵図のようにも見える。

 その友人の姿を、ロルダはずっと見つめていた。

 「ロルダさん」

 「・・・しばらくは、今まで通りの行動をするよう伝えてくれ」

 「はい」

 忘れてはいけないのだから。

 皆の為に戦った男がいたことも、自分の友人のことも。

 ロルダは踵を返し、自分の陣地へと帰っていく。







 『きっと、俺達があの壁を壊してやろうぜ!』

 『馬鹿、そんなにうまくいくかよ』

 『俺達なら絶対出来る!こんな場所からさっさと出て、外の世界で自由に生きるんだ!』

 『それが出来るなら、もう親達だってやってるだろ』

 『なんだよ、怖いのか?ロルダ』

 『怖くなんかねーよ?全然怖くねーよ?』

 『じゃあ、決まりだな!俺達で終わりにしよう!こんな世界!』







 「お前が死んじまったら、ダメじゃねーかよ、デルト・・・」

 少年たちは大きく羽ばたいた。

 まるで、イカロスの翼のように。

 自由を求めて羽ばたいたイカロスの翼は大きく立派だった。

 だが、太陽に近づきすぎたため、翼は溶けて、イカロスは地へと落ちてしまった。

 そう、これはまるで彼らのようだ。

 彼らの翼はそれほど大きくはなかっただろう。

 きっと、必死に翼をばたつかせている雛鳥。

 彼らは自由を求めすぎて、同じように、地へと落ちて行くのだ。

 それでも彼らは、翼を広げる。







 「おい、島に着いたぞ」

 「こいつらは売るんだろ?売れんのか?」

 「ああ?売るしかねえだろ。こんなガキでも、好む馬鹿はいるもんだ」

 「そうだな」

 キュートは、乗っていた船が別の海賊に襲われたため、また別の船に乗っていた。

 自分の他にも、人が乗っていた。

 きっと自分は売られて、それから・・・それから先はまだ分からないが。

 島に着くと、男たちはキュートたちを連れて上陸した。

 「ここで待っていろ」

 そう言われ、キュートは大人しく待っていた。

 隣の女の子が泣きだしてしまい、キュートは「大丈夫だよ」と声をかける。

 男たちが戻ってくると、いよいよ自分たちが売られるであろうことが理解できた。

 「この子は俺好みだ」

 「ああ、私はこの子を貰おうかな」

 「私はこいつでいい」

 「俺は・・・ああ、なんでもいいや」

 男たちは金さえもらえれば良いようで、金を貰うとさっさと海岸に向かって去って行ってしまう。

 キュートを買ったのは、格好良いわけでもないが、金だけはありそうな男だった。

 品が良さそうに見繕ってはいるが、正直言うとそうは見えない。

 「さあ、こっちにおいで」

 男の手を掴んで家まで行くと、キュートは小さな部屋に案内された。

 「お楽しみは夜だ」

 男のその言葉の意味は、キュートには分からなかったが、小さく頷いておいた。

 しかし、異変はすぐに起こった。

 男の家に、泥棒が入ったのだ。

 金目のものが多く、男たちは使用人も含めてみな縛られてしまったようだ。

 泥棒は全ての部屋を見て回っているため、当然、キュートのいる部屋にも入ってきた。

 入口が分かりにくいところにあったようで、泥棒たちはある程度の時間が経ってから入ってきた。

 キュートは驚きはしたが、逃げも隠れもしなかった。

 「おい、なんだこいつ。こいつも縛っておけ」

 「でもこいつだけ汚ねぇ格好してるぞ」

 「あ?そういやそうだな・・・」

 「まあいい。おい、とりあえずここも探すぞ」

 三人の男が部屋に入ってきて、一人は後ろから二人の手伝いのように手に沢山の袋を持っていた。

 男たちは、キュートが暴れることも叫ぶこともしないと分かると、特に縛ることはしなかった。

 手伝いの男の子は、キュートより少し年上だろうが、きっと彼も無理矢理連れて来られたのだろう。

 その男の子と目が合い、キュートはじーっと男の子を見つめた。

 二人の男は、部屋に隠し扉を見つけた。

 「おい、もしかしてお宝があるんじゃねーか?」

 「まじかよ。おい、ここで見張ってろよ」

 「わかりました」

 「・・・・・・」

 二人の男は扉を開けて奥に行ってしまった。

 しばらくキュートたちの間には沈黙が続いていた。

 「・・・君、どこから来たの?」

 男の子に話かけられた。

 「んと、わかんない」

 「わからない?」

 「私の住んでた港町には名前なんてなかったし、もうそこは海賊に襲われてなくなっちゃったし」

 「・・・そうなんだ」

 またしばらくの沈黙が続く。

 すると、急に男の子はキュートの前に来て、手を握ってきた。

 「僕と、一緒に逃げてくれる?」

 「え?」

 男の子は、手に持っていた大きな袋を床に置くと、キュートの手だけを握り、そのまま家から逃げて行く。

 何が起こっているか分からないが、キュートは抵抗する気はさらさらなかった。

 自分と同じように真っ黒な髪の少年の手は、誰よりも温かかったから。

 家から出て少し走ると、さすがにキュートは疲れてきてしまった。

 「ま、待って・・・」

 「ごめん!」

 はあはあ、と肩を大きく上下に動かして呼吸をする。

 「僕はダンテ。君は?」

 「私、キュート」

 「キュート、良い名前だね」

 「・・・ありがとう」

 キュートとダンテは、走った。

 何処を目指すわけでもなく、二人は握った手を離すことなく、走り続けた。

 とても疲れたけど、キュートは思わず笑ってしまった。

 だって、こんなに生きてるなんて感じられたこと、久しぶりだから。

 二人が辿りつくのは、楽園か、それとも・・・・・・。







 数年前、ある一人の戦死が死んだ。

 戦争は未だに続いているが、殺したりはしていない。

 「ロルダさん、お願いします」

 「ダメだ」

 「なんでですか!」

 「・・・デルトが見せしめに殺されてからまだそれほど経っていない。まだ奴らだって警戒してるに決まってるだろ。それに、お前じゃまだまだ力不足だ」

 「けど!」

 「用が済んだら早く出て行け」

 デルトの意志を継ぐ者は、確実にいる。

 だが、今のままでは戦う為の武器も不足しているし、爆薬だってほとんどない。

 何より、デルトの死がまだ忘れられない。

 「ロルダさん、ずっと気になってたことがあるんですけど」

 「なんだ?」

 「キングダムの奴らって、俺見たことないんですけど、あります?」

 「ない。あいつらは俺達の前に姿を見せたことは、歴史上一度だってない」

 「一度もですか?」

 「俺だってお前らとそんなに歳かわらねーんだから、本当かどうかなんてしらね―よ。ただ、親父もじーさんも、見たこと無いって言ってたぜ。拷問だって直接は見えねーし、吊るされた死体だって、いつどうやってるのか、見たこともねーし」

 聞きたいことなんて、幾らでもある。

 なぜ自分達はこんな戦争を毎日毎日しなければいけないのか。

 それも、顔も正体もしらない奴らの言いなりのようなことで。

 「ほら、今日も疲れてんだ。早く寝かせろ」

 「はい、すいません。おやすみなさい」

 ベッドとは言い難い場所で横になり、天井を眺める。

 イ―リスがデルトの代わりにリーダーになり、また以前のように連絡も取っている。

 だが、それでデルトの死を乗り越えられるわけではないが。

 「頼むよ、ほんと・・・」







 「ねえ母様、どうして僕はここから出られないの?」

 「エドワード、良い子にしていれば、お外に出られるわよ?」

 「本当?」

 「ええ。だから、早く寝ましょうね」

 「わかった!」

 ここは、遠く遠くにある、とても裕福な国。

 以前はどこかの壁に囲まれた場所の中央で娯楽三昧だったようなのだが、いつからか、拠点を変えたのだ。

 そんな中、裕福な国に産まれた一人の少年は、大人達が見ている風景に、うんざりしていた。

 何が楽しいのかもわからない。

 エドワードは小さい頃から、この国を抜け出したいと考えていた。

 だが、母親も父親も上手に言いくるめるだけで、きっと一生この国のみならず、家からも出られないのだろうと分かっていた。

 だからエドワードは、成長すると、少しずつ行動を始めた。

 それは、とても小さなことから始まる。

 自分の家の物置部屋の隅を、毎日毎日キッチンにある、いつも使わない包丁で削っていたのだ。

 以前地震がこの国を襲った時、半壊したことがあり、まだ直っていない個所が幾つかあるのだ。

 その中でも、比較的忍び込みやすく、実行しやすいと考えたのが、この場所だった。

 家の鍵を開けて出て行けば良いと、皆は思うかもしれないが、そうもいかないのだ。

 外の世界を夢見ている息子を懸念し、父親は常に玄関に使用人を二人つかせている。

 だから、エドワードが家を出られるのは、両親のどちらかと一緒でいないと無理なのだ。

 家を出た時に逃げ出そうとも試みたが、家を出る時、逃げないようにと手錠をつけられたことがある。

 エドワードは、自分の力で逃げ道を作ることにした。

 「エドワードはどうだい?」

 「今のところ逃げようなんて行動は見えないわ。でも一応これからも使用人をつけて見張らせる心算よ」

 「ああ、そうだな。それがいい」

 ベッドに入ったエドワードは、まだ寝ていなかった。

 物置で見つけた本を読んでいたのだ。

 それは、歴史の闇に葬られた人間たちの物語。

 「コロシアムで殺し合っているのを娯楽として観戦するのが流行っていた・・・はー。酷いことするな。俺の両親みたいだ」

 両親達が日々集まっている場所にも、各家庭にも、大きな映像が流れてくる。

 それはまるで戦争のような光景。

 いや、実際に戦争なのかもしれないが、戦争というもの自体、言葉で説明を受けただけで、見たことはない。

 立場は違えど、まるで自分と同じようだと、エドワードは思っていた。

 「ふーん。英雄、オーディン、か。格好いいなー」

 この国にはそぐわない物は、絵本だろうと何だろうと取りあげられてしまっていた。

 そんなエドワードにとっては、書物は何よりも楽しいものだ。

 「俺もいつか、ここを抜け出して・・・」







 「キュート、熱くないか?」

 「大丈夫」

 キュートとダンテは、砂漠を歩いていた。

 昼間は焼けつくほどに暑く熱いのに、夜になると一気に寒くなる。

 拾った大きい洋服を着て、なんとか耐えることが出来ていた。

 先なんて、一向に見えない。

 「どこまで続いてるんだろう」

 「まるで、海みたいね」

 「・・・ごめんね。僕が連れてきたから、こんなことになって。あのままあの家にいた方が幸せだったかもしれないのに」

 「謝らないで。私が自分で決めたことなの。それに、怖くないの」

 「え?」

 フフ、と小さく笑うキュートは、大人の女性のようだ。

 「ダンテと一緒だから、怖くないの」

 そう言って微笑むと、空がだんだんと暗くなってきてしまった。

 ぽつぽつ、と小雨が降り出したかと思うと、一気に雨が激しくなる。

 「雨宿りできそうな岩場まで行こう!」

 「うん!」

 二人は走りだした。

 とても歩き難い砂漠の道のりだが、雨のせいで急激に気温が下がってきた。

 しばらく走ることになったが、なんとか岩場を見つけることが出来た二人は、その影で休憩をすることにした。

 身体を出来るだけ寄せ合って、体温を作りあげる。

 そして眠りについて次に目を開けたときには、すでに空は晴れ渡り、いつも通り暑い砂が出来上がっていた。

 「あれ?なんだろう」

 ダンテが、何かを見つけた。

 ここまで来るのにどれだけ時間がかかっただろうか。

 人が住んでいそうな建物があり、ダンテはキュートの手を握って走りだす。

 キュートも最初は嬉しくて走りだしたが、途中、足を止めた。

 「?どうした?キュート」

 「・・・私、この壁、嫌」

 見覚えのある、高く聳え立つその壁は、かつて自分を捕えていた籠。

 ダンテはそれでも、空腹も脱水もあって、キュートの手を強引に引いて行こうとする。

 しかし、壁には入口らしい扉が見当たらなかった。

 「すみません!誰か、いませんか!!」

 ドンドン、と壁を叩くダンテ。

 しかし、中からは誰も出てくる気配さえない。

 キュートは怖くなり、一歩、また一歩と後ずさっていく。

 諦めきれないダンテは、それから何度も何度も壁を叩く。

 ダンテの声を枯れてきた頃、二人がいる場所から少し離れた壁の一部が、開いた。

 そこから姿を見せたのは、自分達よりも背の高い男。

 手には剣が握られているが、今のダンテにはそんなもの目には入っていないようだった。

 「すみません、何か飲ませてください!」

 「・・・・・・」

 男は何も言わず、いきなりダンテを掴みあげた。

 「わっ!!!」

 「ダンテ!」

 ダンテを掴んだまま、男は壁の中から別の男を呼んでいるようだ。

 キュートは思わず、出しきれる力を全てだし、逃げ出した。

 「キュート!!!」

 名前が呼ばれたことも知っていた。

 だが、キュートにとっては再び壁に囲まれた生活なんてしたくなかった。

 それに、彼らが自分の味方をしてくれる保障なんてないのだから。

 ―ごめんなさい、ダンテ。

 一人逃げるキュートの背中を、ダンテはどんな顔で見ていたのだろう。

 そんなこと、今となっては分からない。

 だが、生きることは何よりも大切だった。

 キュートは砂漠の中をひたすら走り、一人、砂嵐の中に消えて行く。







 これは、歴史でもあり、未来図でもある。

 読んだ人にとっては過去の産物であり、読んだ人にとっては未来の出来事となる。

 かつて、いつの世にも姿を現す男がいた。

 彼の名を誰も知らない。

 時に時代の中に姿を見せるその男は、ただそこにある事実を記す。

 ただ自分の目で見た事柄のみを、文字として、また時には唄として遺す。

 それは人を動かすこともし、人の心を動かすことも出来る。

 人の心というのは、実に滑稽だ。

 長年、こうして戦争だの平和だの、時代の流れというものを見てきたが、過去も未来も大差ない。

 人は未来を良きものにしようと生き急ぎ、その結果、多くの犠牲を払う事となる。

 それでも人は学ばず、まるでバベルの塔を作っている愚かな人間のようだ。

 遥か遠いその未来を目指し、彼らはまた犠牲者となるというのに。

 彼らは今なお、分かっていない。

 自分達が生きるべき時代は、過去でも未来でもなく、今しかないということに。

 見てきた未来は悲惨なものだ。

 こうして文字として記しているが、書いていてもため息を吐いてしまう。

 かつて、師匠は唄にしていた。

 唄の方が誰の耳にも届くからといって、旋律に乗せて、唄っていた。

 今でも口ずさむことが出来る。

 唄う事はしないが。

 それでも書き記すことでしか、生きている証明を出来ないのもまた事実。

 自分を含め、人とは生き物だ。

 「この時代もまた、滅びゆくのみ、か」






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