第1話(1)
エピソード文字数 1,639文字
次の日――14日の午前8時15分。角を曲がれば校門という地点で、俺はレミア達3人に頭を下げた。
「にゅむっ、お任せくださいだよーっ。屋上(おくじょー)からしーっかり見守ってるねっ」
彼女達は立ち入り禁止の屋上で待機して、『戦場空間』が展開されたら駆けつけてくれるようになっている。
現在地球人にはプリースト神のバリアーがあるし、優星には『金硬防壁』がある上に追跡魔法もかかってるからね。誰にも危害は及ばないのです。
「このバッグにゲーム機やら漫画やらを詰め込んできたんで、暇潰しにどうぞ。もし全部飽きたら、図書室で何か借りてくるから『遠言(えんごん)』で話しかけくださいな」
「ありがとう、従兄くん。でもご心配なくよ」
「きっと飽きはこないし、ワシらは出し物を――なんでもないがよ! さささっ、さささ登校してや!」
フュルは高速で首を左右に振り、両手で『どうぞどうぞ』と促す。
出し物で焦ったのが気になるが、遅刻はマズイからね。行くとしますか。
「私達はチャイムが鳴り、人気がなくなったら潜入するわ。従兄くんは、何も気にせずに登校してください」
「そーだよそーだよー。あのね、あのねっ。出し物のコトは少しも気にせず、学校生活(がっこーせーかつ)を送ってねーっ」
「お、おぅ。行ってきます」
俺は挙動不審な三人に背中を押され、出発。いつものように門を潜って下駄箱で上履きを履き、廊下と階段を利用して2階にある1年C組の教室に入った。
「久しぶりの、1C。相変わらず、なんでか心地よい空気が漂ってるなぁ」
と独りごちながら闊歩し、窓際最後尾の自席に腰を落とす。そうして教科書や筆記用具を机に入れ――……。明らかにシズナが入れたであろう、坂本龍馬の記念館のパンフレットをそっと鞄に戻す。んで今のはなかったことにしてセッティングをしていると、ワックスで髪を立てた男子が歩み寄ってきた。
「ういーっす、ユウ。久し振りだな」
頼れる兄貴系――と評するのが、適当かな。やや怖そうな野性味を含みながらもどこか柔らかさを感じる男が、白い歯を零す。
「おはよ、雲海(うんかい)。おひさだな」
コイツは俺が引っ越して最初にできた友人で現悪友、そしてクラスメイトの空霧(そらぎり)雲海。優星の笑いを理解できるレベルの高い者であり、『神魔法少女イウ』の作詞作曲をした者だ。
「あそうそう、ほいお土産。御家族で召し上がってくださいな」
俺は鞄ちゃんを探り、お洒落な箱をお渡しする。
これの中身は、高知産のユズをふんだんに使用した口当たりが優しいブッセ。高知県民の大半が食べたことがある(当社調べ)有名なお菓子で、コイツの大好物なのだ。
「どうも優星様、有難く頂戴します。オレは来週帰省するから、お返しを楽しみにしていろでございますよ」
「ほいほい、期待して待ってます。ただ、去年のアレはなしだかんな?」
オレが拵えた愛情たっぷり八つ橋(とても不味い)、は要らん。アンタのおばあ様が拵えた、プロの八つ橋をくれ。
「ぇ~、なんだよつれねーな。……オレがこんなコトをするの、ユウだけなんだぞぉ?」
「上目遣いやめろ語尾を小さくするな。吐き気がする」
「おおっ、久々のツッコミが入りました! なんかキレが増してんなー」
「そりゃあねえ。そうさせる出来事が多々ありましたから」
特に怒られ星人のおかげで、随分上達したなぁ。無駄な部分が伸びたなぁ……。
「ん? なにかあったん?」
「うん、色んなことがあったんだよ。間違いなく、世界で一番劇的な変化をしてます」
職業 高校生→魔王使い。どんなエリートも腰を抜かすほどの、超ランクアップだ。
「ほー、オマエも変わったのか。なんだかアイツと一緒だな」
雲海の目線が、左に動く。そこでソレを追ってみると、一人の女の子が教室に入って来た。