第2話 半年後に届いたメール

文字数 761文字

半年後の9月末に、Yの奥さんから思いがけないメールが届いた。
その内容は、おおよそ以下の通りであった。
「コロナワクチンの接種完了を待って、先日娘と一緒 に秋の墓参に行ったところ、
「JOLLY JIVE」のCDがお墓に供えてありました。
主人が亡くなって10年が経って、身内以外でお墓に参っていただいている方は限られているので、
こうしてお伺いしております。
失礼ながらお供えして頂いたのは沢木さんでしょうか?」

返信メールには、「確かに私がCDを供えましたが、それは4月の事です。
CDはてっきり霊園の清掃係の方が回収して処分されたものとばかり思っていたのですが、
半年近く、そのままの状態がキープされていたのですね。
Y君なら、きっと『同じCDを半年間聴かされ続けて、もう飽き飽きしたぞ!』
と苦笑しているでしょうね」と書いた。


すぐに再度のメールが来た。
お礼の言葉に加えて、「CDは昨日お供えして頂いたばかりのように墓石に向いて静かに佇んでいました。
梅雨の大雨や夏の日差しに耐えて、台風の暴風にも 飛ばされなかったことが奇跡のよう に感じられます。
パッケージが少し濡れていたので、自宅に持ち帰って乾かして今は仏壇にお供えさせていただいております。」とあった。
メールの文面からCDがあったことを静かに喜んで頂いている様子が感じられて、
そのことが望外の喜びであった。

そしてメールは次のような文章で締めくくられていた。

「先週、主人の夢を見ました。
出張先から帰宅したようでしたが、呼び掛けても返事がなく、よく見るとイヤホンを耳に着けており、何かを聴いているようでございました。
今なら、何を聴いていたのかが良くわかります。」


いろいろ厳しいことも多いけれど、時にこういう報せに接することができるならば、
まんざら人生も捨てたものじゃないなと思えてくる。
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