第6話 駐車場での別れ
文字数 1,347文字
「園部さんはずっとうちの工場で働いてきたのに、辞めてくれと言われた時、どう思った? やっぱり嫌だったでしょう?」
こんなことを訊いてもいいのかと、この数日ずっと悩んでいたことだった。
「やっぱり会社に怒っているよね。兄貴だとか、親父だとか、俺に腹を立てているでしょう」
「坊っちゃんには正直に言いますけど、悲しいです」園部さんは歩を止めず、前を向いたまま答えた。「でもね、怒る、というのは違いますよ。仕方がないことなんですから」
駐車場の自分の車まで来ると、園部さんは紙袋を軽自動車のトランクに入れた。その様子を少し離れた場所から見ていた
「会社の経営が厳しくなっているのは、経理をやっている私にも分かります。直売所の売り上げが落ちていて、足を引っ張っているのは事実ですし、近いうちに廃止するだろうな、ということは分かっていましたよ」
何しろ私は四十年近く
「人を切るのなら私じゃないかな、という予想もありました。坊っちゃんが一人前になれば、権藤君だけでも十分なんです。しかも将来性を考えれば、どうせあと数年で辞めることになる私よりも、権藤君を残すのは当然なんですよ。だから社長や専務を怒る道理がありません」
そう言われても、啓佑は今一つすっきりしなかった。ますます自分が邪魔な存在に思えただけだ。
「誤解のないように言っておきますが、坊っちゃんは自分の半人前を反省するのではなく、一人前を目指してください」
そう言うと園部さんは助手席に花束と啓佑の
「ストールだと
「それは――」
啓佑は説明した。これから寒くなる季節であること。これまでマフラーをしているところを見たことがないこと。園部さんは冬でも襟元が広いセーターを着ることが多いので、タートルネックなどがあまり好きではないのかと考えたこと。だけど防寒には首回りの血管を温めたほうがいいこと――。
ストールを選んだことを責められているのかと思い、気持ちが怯んでぼそぼそと喋っていると、園部さんから跳ねるように近づいてきて、彼の両肩をポンポンと叩いた。
「坊っちゃん、素晴らしいですよ」
園部さんの赤くなった目尻には涙が溜まっていた。
「相手に寄り添って物事を考えるには、観察が第一歩です。それができる坊っちゃんであれば、これから先も安心です。今日は感激しました」
照れて恥ずかしくなった啓佑は園部さんから顔を背けた。園部さんはふふふっと笑うと、「実は私からもプレゼントがあるんです」と言って、後部座席からコンビニの袋を出してきた。
袋の中身は孫の手だった。新品でないのは、握り手部分のニスの剥げ具合から分かった。
「坊っちゃん、この間から背中が痒くて困っているでしょう。だから家にある使い古しを持ってきました。事務室で使ってくださいね」
「ありがとう」感謝の言葉は少しだけつっかえた。ビニール袋を持つ手に力が入った。
「痒みがこれからも続くようでしたら、病院に行ってくださいね」
「うん」
園部さんが指で涙を