または十分なスペースの確保のしかた。

文字数 2,000文字

笹原(ささはら) 蜜花(みつか)


はーぁああぁ……。

近藤(こんどう) (あきら)


お? おいおいどうした蜜花、学校帰りの一歩目でそんな盛大なため息ついて……?

あのね、本屋に行きたいの。
お? おーう行け行け、てか俺も付き合うわ。行くの俺んとこの本屋だろ?
あのね、ウチの父はごくごく平凡なサラリーマンなの。よってウチもごくごく平凡な家庭なの。
おう。知ってるぞ、何度もお前ん()お邪魔したことあるからな! ってっかお前と俺と幼なじみだし!
じゃああたしの部屋も当然知ってるわよね。あたしの部屋には「ごくごく平凡な」スチール書棚が二つある、お分かり?
うん、知ってる。ってっかあの本棚、いつ行っても本がみっちり詰まってるよな! ふつうに「タテ並べ」だけじゃ済まなくて、空いたスペースにもみっちり横置きされてるし!
そこまで分かってたら、何で「ああ! 本屋に行きたいけど新しい本欲しいけど、置くスペースがスキマもないのよ!」って本好き少女の嘆きがすぐさま分からんのじゃあーっ!!
はは! ごめん、最初から分かってた! お前とのこのやりとりがないと、学校終わった気がしなくてさ!

くうう、余裕をかましおって……。どのみちアンタは「大手の書店のおぼっちゃんと、個人書店の一人娘が駆け落ち同然に結婚して」産まれ落ちた一人息子! 「孫が産まれた喜び」でほどなく結婚も認められ、今やアンタは立派な「大手書店のおぼっちゃん」!

あたしの「自室に本棚が二つしかない」庶民の悩みは全然ピンと来なかろう!!

絵に描いたような説明乙。てかさあ、そんなに本置くスペースに困ってたら、手製の本棚作ったら? ティッシュ箱とか段ボールとか活用してさ……。
ちょっと待ていきなり庶民的な発言ね! てか言われずともやってるわ! そのおかげで今あたしの部屋は足の踏み場もないくらいよ! なんならウチ来る!? しばらくこっち遊びに来てないでしょう!?
え? い、行って良いなら……。でもお前、俺んとこの本屋に来たらそのまま俺ん()あがるんじゃないの? ここんとこずっとそのルーティンじゃん?
そうよ! そりゃそうよ! アンタん家めっちゃ本あるんだもん! てかむしろ屋敷自体がすでにちょっとした図書館だもん! (しおり)さんにも会いたいし!
あー……。お前、ほんとウチの母親と仲良いなー。
そりゃそうよ、あたしたち同じ本好きだもん!
と言うワケで、場所は晶ん家(←豪邸!)

近藤(こんどう) (しおり)(晶の母)


うんうん、分かるわー! 本好きの一般市民には、本の置き場所はまさに永遠の悩みよねー!

そうなんですよー!

しかもあたし辞典とか事典とか、図鑑とかめっちゃかさばる本も大好物なんで、一冊増やすと本当に! 本棚の空きスペースが減るんです!

でも本当にみっちみちに詰めちゃうと、めちゃくちゃ力入れないと本が取り出せないキツキツさになるじゃないですか! あたしアレすっごく嫌なんです!

あー分かるー! 無理に力入れて本引っぱったら表紙やオビが破れたりね! あれほんと気分が落ちるわね!

本棚問題って言ったら、久世(くぜ)番子(ばんこ)氏のエッセイコミック「番線(バンセン)」はほんと本好きあるあるに溢れてるわねー!

あー、あれは絵柄と作風の好みが合えば、本好きが持っておきたい一冊ですよねー!
あのさ……。毎度のことだけど、なんで蜜花と母さんが話し込んで、俺が紅茶とお茶菓子用意してんの……。

*栞&蜜花

『黙れ。』

………………。

でもほんと、本好きにとってこの問題は切実ですよ……。あたしヘタっぴだけど絵も描くから、絵の描き方の本もめっちゃ持ってるし、何なら画材関係も本棚に入ってるし……。

あー広い家に引っ越したい! そんでこのお屋敷みたいに、ちょっとした図書館みたいな空間に住みたーい!

そうねー、実はわたしもこの家に住めるようになった時はそりゃあ嬉しくて……!

……あら? ねえ蜜花ちゃん、いっそウチにお嫁に来ちゃったら良いんじゃない?

!?!?!?
……お嫁……??
そうよ、そうしたら良いじゃない! どのみち蜜花ちゃん、今だって毎日ウチに来てくれてるし! わたしも蜜花ちゃんなら大歓迎よ、それに晶も毎日こう話してるのよ、「やっぱ俺、昔から蜜花が大好、」
わー! わー!! わー!!!
……そうか、そうですね! それじゃああたし、成人したら晶のお嫁さんになります! 末永くよろしくお願いします!
おい! お前もお軽いノリでうなずくなーーっ!!

こうして「本棚問題」の解決策として、幼なじみの本好きカップルがこの三年後にめでたく(?)結婚したのであった。ちなみに蜜花は調子に乗って本を集めすぎ、一人目の子どもの産まれた年に蔵書(ぞうしょ)の重みで屋敷の床をぶち抜いた。

その後十年経ち、二人は「晶・蜜花の夫婦図書館」を開設。「アキミツ図書館」の名で現在も広く親しまれている。めでたしめでたし☆

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登場人物紹介

*笹原 蜜花(ささはら みつか)


本好きの十七歳。なかなかのファンタジー脳なので、ふだんから「それっぽい」髪飾りをつけている。実家の「狭い本棚」問題に頭を悩ませる日々。

*近藤 晶(こんどう あきら)


蜜花と幼なじみのおぼっちゃん。蜜花とは本好きで話が合う。しかし「本棚のスペース問題」に話が及ぶと……?

*近藤 栞(こんどう しおり)


晶の母。元「個人書店の一人娘」。「大手の書店のおぼっちゃん」だった夫と駆け落ち同様に結婚した過去がある。

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