頭狂ファナティックス

地下の管理人

エピソードの総文字数=2,522文字

 犬童に関する話が終わろうとしたとき、ショッピングモールの住人である生徒の一人が慌てた様子で部屋に入ってきた。その男が言うには、二人の生徒が激しく喧嘩しているとのことだった。一人が相手に自分の食料を盗んだという嫌疑をかけて、二人は言い争っているとのことだ。
わかった。すぐに向かう。瀧川と大室も来い。二人に風紀の維持をするためにどのように対処すればいいか教えてやるちょうどいい機会だ。
 三人は二階の東側の通路に向かった。そこでは二人の男子生徒が言い争いをしており、今にもコンプレックスを発動して戦闘になりかねないほど白熱していた。周りには他の生徒が集まり、成り行きを見守っていたが、誰も止めに入ろうとはしなかった。七星は水の入った2Lのペットボトルを持ってきていた。そして野次馬のあいだを通り抜けて、口論している二人に近づくと大声を上げた。
貴様ら、ここではいかなる理由によっても風紀を乱す真似は禁じている。それは貴様らも理解しているはずだ。よって貴様らには風紀紊乱に関与した罪科によって七十二時間の禁固刑を言い渡す。
 すでに七星はシンボルである注射器を具現化していた。またその注射器に自分の血液を吸い上げていた。二人の男子生徒がそれぞれ自分の言い分を声を大きくして七星に訴え始めたが、七星はまるでその声が聞こえないといった態度を装って、注射器に入っている血液をペットボトルの中に注入した。
 水と七星の血液が混ざると同時に、薄桜色になった水がペットボトルから溢れだし、それは二本の縄となり、蛇のようにうねりながら二人の男子生徒に襲い掛かった。七星の操っている水の力と速度は驚くべきもので、二人の男子生徒はあっという間に両手を後ろに回されて、水の縄で縛られた。
これから貴様らを地下倉庫に連れていく。抵抗するならば、さらに攻撃を加える。頭を冷やすだけの時間は与えてやろう。
 二人の男子生徒は憤怒のはけ口を失って頭を大きく振っていたが、相手が七星では反駁することもできず、そのうちに首を下げて従順な態度を見せた。
 七星は後ろに銀太と紅月、さらにその後ろに両手を後ろ手に縛られたままの男子生徒二人を従えて、地階へと向かった。その道中、紅月が七星にいくつか質問をした。
あんな大勢の前でコンプレックスを見せて良かったんすか? 普通、コンプレックスは隠すものですけど。
私のコンプレックスは人に知られたところで、対抗策を練られて無力化するような脆弱なものではない。瀧川と大室にも私のコンプレックスを教えてやろう。名前は『美しき水車小屋の娘』。シンボルは注射器。能力は自分の血液を混ぜた液体を自由に操る。自分の血液そのものは操れない。操るのに必要な血液の量はその液体の体積に比例する。だから自分が血液不足になるほどの量の液体は操れないな。
確かに対抗策を練りづらい、かつ利便性の高いコンプレックスすね。常盤先輩が敵じゃなくて本当に良かったすよ。ただそのコンプレックスをあっさりと人に教えるのは自信なのか、自惚れなのかまではわかりませんが。それともう一つ聞きたいのですが、今回の口論、食料を盗んだか盗んでないかが発端のようですけど、その真相を確かめずに二人とも拘束してしまっていいんすか? せめて事実の確認くらいは取った方がいいのでは。
勘違いするなよ瀧川。二人にはこれから風紀の維持の役目を担ってもらう。だからこれから私の言うことは頭に刻んでおけ。このショッピングモールは法治国家ではない。ここでは個人の尊厳よりも全体の秩序が重んじられる。風紀を乱した時点でそいつらは罰を受けなければならない。どんな失態を犯したかではなく、風紀を乱したことこそ問題なのだ。だからいちいち事実の確認は取らない。そこにどんな理由があろうとも風紀を乱した人間は容赦なく禁固刑に処せ。
なるほど。理には適っていますね。人道には反していますけど。しかし小規模な集団が籠城して生活するには、その法律が最適なんでしょう。
 五人は階段を使って地階に降りた。地階は狭い通路が入り組むようにところどころ折れながら伸びていた。通路には倉庫や従業員の休憩部屋のドアが並んでいた。
 七星は水の縄を解くと、二人の男子生徒を別々の倉庫の中に入れた。ショッピングモールではいくつかの倉庫を風紀を乱した人間を監禁するための監房として使っていた。七十二時間後に解放してやる、と七星が言うと、二人の男子生徒は素直にそれぞれの倉庫に入っていった。
問題を起こした住人はここで禁固刑に処せられる。ところで二人に紹介しておきたい人物がいる。この地下の管理人だ。つまり看守に当たるわけだが。幹部ではないが、このショッピングモールにおいて、重要な役職を担っているので紹介する。
 七星はさらに通路の奥へと進み、休憩室の一つのドアをノックした。すぐに中から返事が聞こえ、三人はその部屋に入った。休憩室は長机といくつかのパイプ椅子が中央に置かれ、壁際には銀色のロッカーが並んでいるだけの質素なものだった。その部屋に一人の女生徒がいた。その女生徒はウェーブのかかった髪を肩をあたりで切り揃えており、赤みがかった黒髪だった。
今日からここの住人になり、幹部に就任した瀧川紅月くんと大室銀太くんだ。きみとは直接、顔を合わせておこうと思って連れてきた。
そうですか~。話は聞いております。瀧川さんと大室くんですね~。私は二年五組の赤藤梨音と申します~。これからよろしくお願いしますね~。といっても、この地下で会うようなことはないと願いますが。私はこの部屋を割り当てられて、看守の役目を任されています。私のコンプレックスは人を閉じ込めるのに適したものですから~。
 赤藤は目尻が垂れ下がっており柔和な印象を与え、そして妙に間延びした話し方をした。
赤藤、B13号室とB14号室に新たに生徒を監禁した。すぐに鍵を閉めに行ってくれ。監禁期間は七十二時間だ。
了解しました~。確かに管理を引き受けます。
 赤藤は倉庫の鍵の束を持って、部屋から出て行った。七星が赤藤に話しかけるときの態度はいつも以上に穏やかなところがあり、彼女を特に気に入っていることを銀太と紅月は察した。

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