第8話

文字数 1,061文字

 日本人は昔から弱いものや幼気(いたいけ)なものを愛でるという感情を持っているが、今の少女に性的な目線を向けるのとは全然違っている。今の人にはわからんと思うが(嘆かわしい)昔はちゃんとその感情が働いていたのだ。それが多分80年代に変容してしまったのだと、小さきものを愛でる愛するという感情が欲望にシフトしてしまったのだと言えるかもしれない。
 手塚治虫はディズニーアニメ「白雪姫」を100回位は観賞をし、その時の衝撃を表現に活かした。彼の子供向け作品には可愛らしいキャラがこれでもかと描かれていて手塚先生はこういういじましいの描かせたら天下一品だよ!と思う。並び立てるのは宮沢賢治くらいだよ!とも思う。劇画ブームになって「エログロナンセンス」が主流になってく中で手塚治虫は自分の持ち味を、最高の強みを活かせなくなってしまった。幼い頃私は彼の完全な子供向け作品に衝撃を受け、高校生くらいになって「陽だまりの樹」をチラ見して「手塚治虫は死んだ!」と思った。子供向けじゃない(というかその作品は手塚自身も気に入っていたらしい。自由に描かせてもらっていたのだろう)手塚作品は私には安直に見えた。
 私は子供の頃に読んだあの作風がよかったのに……。ずっとそう思っていたが世の趨勢(すうせい)に介入することは出来なかった。それから昭和と共に手塚治虫は亡くなった。私の怪しい記憶によるとそれから週刊少年ジャンプが黄金期を迎えたのは偶然ではないんじゃないかと思える。子供向けの漫画は彼らへの愛情を描くものだったのに、ジャンプを押し上げたのはそれまで「個人の欲望は社会のために殺すものだった」のが「個人的な欲望のストッパーを外してしまえ!」という潮流を作ったコンテンツであり、それは単にそれまで「やあやあ我こそは……」と名乗りを上げて戦っていた武士を数量で押したモンゴル兵……元寇みたいなものだ。
 販売部数600万部……それが黄金期の週刊少年ジャンプである。私も読んでいたがイマイチのめり込めなかった。私にとっての漫画はそうじゃないんだ……。
 それから幾年月が経ったのか数えるのが面倒臭い。幕末の大河ドラマ「青天を衝け」で幕末の大地震が描かれた時、ネットに「陽だまりの樹」でのその大地震シーンが流れてきた。年老いた母とそれをわが身を犠牲にして救う……えーと誰だっけ(笑)。その時そのシーンだけ読んで「これぞ手塚漫画の至高さだ……」と誰もわかってないと思うが私だけは知っている強み。世の中から嘲笑されようが認められなかろうが私はそういうのを愛しているのだと思うのだった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)
  • 小林よしのり作品は何故嫌われてしまうのか?

  • 第1話
  • これは本当に仏教なの?「阿・吽」

  • 第2話
  • 少女漫画を通ってきました「エリア88」

  • 第3話
  • 旧態然としたレールを外れろ!「ブルーピリオド」

  • 第4話
  • キャラを活かすために「地獄楽」

  • 第5話
  • 漫画の肝はやはりキャラ「阿・吽」

  • 第6話
  • 平面で頑張った!「鬼滅の刃」

  • 第7話
  • 手塚治虫の死と週刊少年ジャンプ

  • 第8話
  • 「ルックバック」と「鬼滅の刃」とあれこれ

  • 第9話
  • 漫画の画力について

  • 第10話
  • ワンオペJOKER

  • 第11話
  • パワーから抜け出せない漫画世界

  • 第12話
  • 恋愛様式?様式だけが生き残った

  • 第13話
  • 「プロが語る胸アツ『神』漫画」感想の手紙

  • 第14話
  • 「ピアノの森」と梶原メソッド

  • 第15話
  • 大人になるということ「売れっ子漫画家×うつ病漫画家」13話

  • 第16話
  • 私の愛するバトルおねえさん

  • 第17話
  • 「タコピーの原罪」が私にもたらしたもの

  • 第18話

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み