第4話 海

文字数 1,040文字

初めての出会いから1ヶ月ほどが経った。
俺たち4人は帰りにアプドを溜まり場にして話す仲になっていた。
度々話題にしていたのが、そう。
「で!鬼の話!」
だんっと両手で机を押さえて前のめりになる空ちゃん。
「はいはい。だからもうわかったって空。」
何度も聞いた同じ話に呆れ顔の温ちゃん。
「空ちゃん、どこの海って言ってたっけ?」
突然会話に割り込む俺の母さん。
「神奈川の方です!」
そう答える空ちゃんの前にパンケーキを置いて、図々しく隣に座った。
「母さんは関係ないから。あっち行ってよ」
「もう、別に良いじゃない。」
母さんが不満げに立ち上がって厨房に戻ると、
「尋弥、反抗期?」
と心配そうに首を傾げる空ちゃん。冗談なのか本気なのかよくわからない。
「まあ、その話は置いといてだ。」
と今度は今まで黙っていた怜希が口を開く。
「置いとかない!」
とすかさず食い気味に返す空ちゃん。
「何回も聞いたし、行くって言ってるだろ」
「早く確かめたいんだって〜!」
温ちゃんは2人のやりとりを見ながら赤いストローが刺さったメロンソーダを飲んで目を細めている。
「俺も早くみんなで海いきたいな〜」
そう呟くと
「尋弥くんは海行きたいだけでしょ」
と鋭く温ちゃんが返す。
「バレたか」
「あー!早く夏休み来ないかなあ!」
空ちゃんはここ1週間ほど同じ話をしてジタバタしている。
「それより先に体育祭だろ」
「それもそうだ!」
怜希の一言でぱっと顔を輝かせる空ちゃん。
「体育祭、温ちゃんどんな髪型にしたい?お揃いにしよ!」
「もち。あ、団扇も買わないとね〜」
「私メガホンが良い!」
「あー、メガホンも可愛いよね」
「女の子は準備も大変だね〜」
「いや、ぜんっぜん大変じゃないよ!」
「むしろそれが楽しいんじゃん。ねー!空。」
「ねー!温ちゃん!」
と2人で楽しそうに話している。可愛い。
俺は今の温ちゃんしか知らないけど、空ちゃんからすると"前よりツンデレになった"そうだ。
他愛のない会話がひと段落する頃には、もう日が傾いていた。
3人を見送って店のドアを後ろ手に閉めると、厨房から食器を洗う音が聞こえて来る。
ここから夜にかけては仕事帰りのサラリーマン、OLさん達がやってくる。そんなに繁盛しないけど。
日本に帰ってきて自分の店を開くという夢を叶えたは良いものの、父さんは商売下手で、カフェで謎学割をしてみたり、仕事帰りの人たちにサービスで売り物のお菓子を配ったり滅茶苦茶だ。
そういうわけで、家計は火の車。俺は中学の時から父さんの知り合いの居酒屋でバイトをさせてもらっていた。
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