全1話 約1100文字

文字数 1,093文字


 夏の某日──野外の発掘現場。
 オレは日焼けした顔で青空を仰ぎ見て思った。
(今日も暑くなりそうだな)
 オレは、クワのような農具で少しづつ地面をかいて、土を慎重にどける作業を続けた。
 オレの仕事は『埋蔵文化財発掘作業員』──埋蔵文化財と聞くと、大層なコトをしているように思う人もいるだろうが。
 早い話が素人の農作業員アルバイトのようなモノを想像した方がわかりやすい……調査員の先生が数名と作業員が十数名ほどで、大地を掘って昔の居住痕跡を探す地道な仕事だ。

 そもそも、この発掘バイトは失業していた時に。
 アノマノカリスのような性格の母親が「ブラブラ仕事もしないで家に居るのは、世間体が悪いからココで仕事募集しているから……働け」
 そう言って持ってきた仕事だ、高速道路建設の用地に一年くらいの期間限定でやった仕事だ。

 基本は縄文時代や弥生時代の集落跡を探し出すのが目的らしい。
 土日祝日は休み、当時は降水確率50%で休みの……晴耕雨読の仕事だった。
 賃金はそれほど多くはなかったが、自分にとっては一番人間らしい自然の仕事で気に入っていた。
 ひたすら、土をかき取り捨てる作業の繰り返しでも楽しかった。

 調査員の先生は、小中学校で歴史が専門の先生で期間限定で県から派遣されてくるらしい。
 ある日の作業中、こずかい稼ぎでバイト参加していた近所の主婦が調査員の先生に
「学校と発掘の仕事、どちらがいいですか?」
 と、質問しているのを作業しながら聞いた。
先生は「学校で生徒に会っていた方がいい」と、答え。
 自分はそんなもんなのかと感じた。

 好きで楽しかった、仕事に関しては、読み手側が興味を持つ小説みたいな、面白おかしい展開はない。
 好きな仕事というのは、案外地味で平凡で読む側からしてみたら面白味に欠けるものだった。
 何もデンジャラスな展開もなく、無病息災で平々凡々と過ごせる仕事が楽しくて良い仕事で、それが一番だと自分は思っている。

 発掘作業の中で唯一の
自分のニュースは、黒曜石の矢尻を発見したコトか……全長二センチほど、最初に土の中から出てきた時は、透き通ったガラス? かと思った。
 矢尻の制作者は、縄文時代か弥生時代かわからないが。
 矢尻を製作したおまえの証し、確かに受け取ったからな。

 一年が過ぎた秋、発掘作業員のバイトは終了した。

 バイト後の自分の変化は、博物館で古代の発掘物を見る時に、少しばかり興味深く見るようになった。

 身内〔特に祖母〕がアレコレ言おうとも〔ずっとできない仕事・雨の日は金にならない仕事〕埋蔵発掘作業のバイトは、今も自分にとっては楽しい思い出の良い仕事だった。

~了~
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