第3話

文字数 8,781文字

 もうあれっきりだと思っていたのに、けけポンの捜索は再開されることになった。
 オレたちは、ふたたびバスに乗って、ゆう花さんとけけポンが昔よく遊んでいたという大きな公園に向かった。よっちゃんがまた新しい作戦を考えたのだ。
 その名も「けけポン呼び出し作戦」。
「前、本で読んだんだけど、妖怪とかオバケって思い出の場所に住み着いているらしいよ。ヘタにあちこち探すより、ここでけけポンを呼び出してみるってのはどうかな?」
 って、よっちゃんは言ってるけど、今まででいちばんムチャクチャな方法な気がする。
「あのね、今日はこの本持ってきたの。よっちゃん、言ってたでしょ? なにかけけポンとの思い出の品があったら持ってきてって」
 ゆう花さんがカバンから取り出したのは、一冊の絵本。古いものらしく、ページが日に焼けていて、やや色あせた表紙にはプレゼントを抱えてほほえむ女の子の絵が描いてある。
「なになに、『だいすきな きみへのプレゼント』?」
 知らない絵本だ。
「これ、あたしとけけポンのお気に入りだった絵本なの。小さいころ、お母さんに何度も読んで読んでって頼んで、お話をまるごと覚えちゃうくらい好きだったんだ。だから、そのころはまだ字が読めなかったんだけど、この絵本だけはけけポンに読み聞かせてあげることができたの」
 ゆう花さんは、そのときのことを思い出したのか、なつかしそうに笑った。
 よっちゃんも見たことない絵本らしく、
「その本、そんなにおもしろいの? ねぇねぇ、ちょっと読んでくれない?」
「うん。あたしが読んでるあいだ、さし絵をよく見ていてね」
 さし絵? 絵になにかあるのか?
 ゆう花さんが絵本を広げた。最初のページには、頭に赤いリボンをつけた女の子。この子が主人公のようだ。
「今日はとくべつな日。だいすきなきみに思いをこめてプレゼントを贈ります」
 次のページでは、女の子の家に大きなプレゼントの箱が届けられている。
「箱のなかみはなんだろう? ドキドキ、さっそく開けてみよう。いち、にの、さん!」
 ゆう花さんがページをめくると、さっきのプレゼントの箱がパカッと開き、なかから大きなテディベアがあらわれた。
「わー、かわいい。ぼくも赤ちゃんのころ、こういうぬいぐるみ持ってたんだけど、ぼくがかじっちゃって、耳と片腕がなくなっちゃったんだ」
 よっちゃんは、しみじみとそう語った。同じなつかしさでも、ゆう花さんとは大ちがいだな。テディベアかわいそうに。
「あのね、この絵本にはヒミツがあるの」
 ヒミツ? どういうことだ、ゆう花さん?
 ゆう花さんは本を閉じると、本に小さな紙のようなものをはさんで、よっちゃんに手渡した。
「今度はよっちゃんが読んでみて」
「ぼくが? いいよ。えーと、今日はとくべつな日……」
 お話の内容は、さっきといっしょだな。どこにヒミツがあるんだろう?
「……さっそく開けてみよう。いち、にの、さん!」
 プレゼントの箱を開ける場面で、よっちゃんがページをめくってみると、
「あれっ?」
 箱の中から出てきたのは、テディベアではなく、いちごのデコレーションケーキ。
「おもしろーい、プレゼントの中身が変わってる!」
 よっちゃんが歓声をあげた。
「この本、しかけ絵本なの。ふろくのカードを絵本に差しこんでおくと、絵本を開くたびにプレゼントが変わるようになってるんだ」
 ゆう花さんは、オレたちにプレゼントのカードを見せてくれた。最初に出てきたテディベア、ケーキのほかにも、ペンダントにドレス、プラモデルやボードゲーム、図鑑にジグゾーパズル……。
「すげー。数えきれないほどいろんな種類があるんだな」
 確かにこんなにカードがあれば、何回読んでも飽きないかも。
「いいねー、この絵本。けけポンだけじゃなくてぼくも好きだよ……あれっ?」
 パラパラとカードをめくっていたよっちゃんの手が止まった。
「どうした?」
「見て見て、なにも描いてないカードがあるよ」
 よっちゃんが無地のカードを差し出すと、ゆう花さんは、あぁ、と口を開いた。
「それは予備のプレゼントカード。自分で好きなプレゼントを描けるようになってるんだけど、もったいなくて使わなかったんだ」
 すると、よっちゃんがポンッ! と手を打った。
「ひらめいたーっ!」
「わわっ。よっちゃん、急に大声出すなよ!」
「このカードにけけポンを描いて絵本にセットしたら、本物のけけポンが出てくるんじゃない?」
 なんだって?
「そんな手品みたいなことできるわけないだろ」
 けれども、よっちゃんは首を振った。
「ちょっと前にぼくが読んだ『魔法・おまじない大百科』には、そういう伝説が書いてあったよ。古い魔術書に精霊の絵が描かれたカードをはさんで呪文をとなえると、精霊を呼び出すことができるんだって」
「それ、おもしろそうだね」
 ゆう花さんが声をはずませる。
 おいおい、ゆう花さんも乗り気なのかよ。そんなのただのおとぎ話だろ?
「そんなわけで、タイヘーくん! これは、きみの重大任務だよ」
「はぁ?」
 重大任務???
「このカードに、けけポンの絵を描いてよ。そしたら呼び出せるかもしれないよ」
 よっちゃんが、オレにぐいっと真っ白なカードを突きつけた。
「だーかーらぁーっ! そんなんムリに決まってんだろ?」
「大丈夫! タイヘーくん、ぼくたちならきっとできるよ。ふたりの力と、ゆう花さんの想いがあれば、必ずけけポンを呼び出すことができるって」
「あたしからもお願い。絵描くのどうしても苦手で……」
 うーん、よっちゃんはともかくゆう花さんにまで頼まれたら、ちょっと断りづらいな。
「試しに描いてはみるけど」
 いきなりカードに描くと失敗しそうなので、代わりにいつも使っている自由帳をカードの大きさに切り、けけポンの絵を描いてみた。そして、ゆう花さんがオレの描いた絵をセットして本を読み上げる。
「箱のなかみはなんだろう? ドキドキ、さっそく開けてみよう。いち、にの、さん!」
 ゆう花さんがゆっくりと次のページをめくった。
 こんなんでホントにうまくいくのか? でも、よっちゃんとゆう花さんは、けけポンが出てくるのすっごく楽しみにしてるし、もしかしたら、ひょっとしたら、その気持ちがけけポンに届くなんてことが――。
 シーン……。
 やっぱ、あるわけないか。そんなうまい話。
「ほら、オレの言ったとおりじゃん」
 すると、ゆう花さんはオレの描いたけけポンをじっと見て、少し顔をくもらせた。
「ごめん、タイヘーくん。せっかく描いてくれたこの絵、上手だとは思うんだけど、ちょっとけけポンとはちがうかな」
「ちがうって?」
「この絵、けけポンがりっぱなキバ生やしてるでしょ? 顔つきもキリッとして強そうだし。でも、けけポンの歯はこんなに鋭くないの。四角くて真っ白な石みたいなんだ。こないだ黒板に描いてくれたみたいにフワフワしてて、もっとかわいい感じなの」
 しまった、ついアスモン描くときのクセが出ちまった。
 よっちゃんも、ゆう花さんの言葉にうなずく。
「ゆう花さんのイメージどおりのけけポンを描いたら、きっとうまくいくって。タイヘーくん、大変な仕事だけどがんばってよ。ぼくもお絵かきじゃないけど、タイヘーくんに負けないくらいがんばるから!」
 がんばるってなにをだよ?
 すると、よっちゃんは、いちもくさんにブランコまで走って行った。さては、先週ひとりでこげなかったのくやしかったんだな。
「ねぇ、タイヘーくん。あたし、前からずっと気になってたんだけど」
 ゆう花さんがポソッとつぶやいた。
「なに?」
「タイヘーくんと、よっちゃんはいつからそんなに仲がいいの?」
「お、オレたちが仲良く見える?」
 驚きのあまり、メガネがずり落ちかけたぞ。
「うん、だっていっつもいっしょにいるし、タイヘーくん、文句言いながら、なんだかんだよっちゃんのこと助けてあげてるじゃない」
「仲いいっつーか、くされ縁っつーか……オレたち、付き合いだけは妙に長いんだ」
「くされ縁って?」
「信じられないかもしんねーけど、オレとよっちゃん、まったく同じなんだよ」
「同じ?」
「生年月日に血液型。ふたりとも十一月十一日生まれのA型なんだ」
「そうなの?」
「でも、全然タイプちがうだろ? それに、共通点はそれだけじゃないんだ。生まれた病院もいっしょ、通ってた保育園もいっしょ。家も近所だし、小学校に入ってからも、今までクラスはずーっといっしょ。離れたことがねーんだよ。だから自然に友だちになったっつーか」
 よっちゃんがまとわりついて離れないっつーか。
「すごい偶然!」
 ゆう花さんが目を見開く。
「そう。そんな偶然が続いたから、よっちゃん事あるごとに『これは運命だ!』とか『キセキだ!』とかうるさくてさ。なんか思いついたときには、いっつもオレをひっぱり回すんだ。『ふたりならきっとできる!』って」
「でも、そこまで偶然が重なることってめずらしいよね。ふたりには、ほんとうに特別なパワーがあるのかも」
 ちょっとうらやましいな、とゆう花さんはほほえんだ。
「なぁ、オレも聞いていい? ゆう花さんは、なんでオレたちならけけポンを探せると思ったんだ?」
 オレたち、たびたびゆう花さんにたよりないところばっかり見せてたのに。
「タイヘーくん、こないだ図書室でみんなに虹を見せたでしょ。実はね、けけポンも虹を見せてくれたことがあったの」
「えっ?」
 ゆう花さんは、カバンから小さな箱を取り出してみせた。箱のなかには古びたクレヨンのかけらが数本転がっている。
「なんだこりゃ、ボッロボロだな」
 こんなにちびてちゃ、もう使えないよ。
「このクレヨン、けけポンがおやつとまちがえてかじっちゃったんだ。ちょうどぬり絵してたときで、『なんてことするの』って、あたしワンワン泣いてけけポンのこと怒ったの。そしたらね」
 ゆう花さんは、フフッと吹き出した。
「けけポン、いろんな色のクレヨンがべったりついた歯でニーッて笑って、そのままくるっと逆立ちしたの。そのとき、ニーッて笑ったまま逆さになったから、いろんな色のクレヨンがついたけけポンの口が虹みたいに見えたんだ。もうすごいの、けけポンの歯、真っ赤っかだったりオレンジだったり青だったり……あたし、おかしくってさっきまで泣いて怒ってたのも忘れて、けけポンといっしょに笑い転げたんだよ」
「このクレヨンにそんな思い出があったのか」
 ごめん、てっきりゴミだとかんちがいしてたよ。
「こないだ図書室で虹を見たとき、そのときのことを思い出してうれしくなったんだ。だから、ふたりといっしょにいたら、けけポンとまた会えるような気がしたの。あのニーッて笑ったクレヨンだらけの口元をまた見られるんじゃないかって」
「そうだったんだ……」
 なんか照れるな。オレ、別にたいしたことしてねーのに。
 ドオォーンッ!
「なんだ?」
 大きな音がしたほうにふり返ったら、よっちゃんが地面にしりもちをついていた。
「大丈夫?」
 急いでよっちゃんに駆け寄るゆう花さん。
「あーいたたたた、ブランコからずり落ちちゃった」
 よっちゃん、腰をおさえながらヨロヨロと立ち上がる。
「高くこごうとして、勢いつけすぎたんだな。あんまムチャすんなよ」
 よっちゃんはふたたびブランコに座ると、大きなため息をついた。
「ダメだー、何度やってもうまくこげない。ぼくだけ重力がひとの倍あるんじゃないかな? あーぁ、シャボン玉はカンタンに宙に浮かぶのに。ぼく、次に生まれ変わるときはシャボン玉になりたいな」
 よっちゃんは、ポケットからおもちゃのパイプを取り出して吹いた。パイプから色とりどりのシャボン玉が飛び出し、フワフワと宙を舞う。
「よっちゃん、まだそのおもちゃ持ってたのかよ」
 オレはあきれたけど、ゆう花さんはよっちゃんのシャボン玉パイプを興味深そうに見つめている。
「いいね、そのパイプ。うちの弟に見せてあげたら喜びそう」
「あ、ゆう花さんもやる? シャボン玉。タイヘーくんの分もあるよ」
 よっちゃんがポケットから新しいシャボン玉パイプを出してきた。
 どんだけ持ってんだそのパイプ。ま、せっかくだからやってみるか。
「わー、ちょっと風が強いね。すぐに飛んでっちゃう」
 ゆう花さんがシャボン玉を吹きながら笑った。
「しまった、割れた。吹くの強すぎたかな」
 シャボン玉なんてやるの久々だから、なかなか力のかげんができねーな。
「やった、大きいのができた。ほらほら、シャボン玉の中にも虹が見えるよ。シャボン玉ってどうして七色に光るんだろーね?」
 よっちゃんは、つやつやしたシャボン玉をひとつ、ふわりと飛ばした。水晶玉みたいに大きなシャボン玉が、小さなシャボン玉たちを引き連れて、ゆっくりと空にのぼっていく。
「みんなでシャボン玉やると楽しいね。こんなにたくさんのシャボン玉が飛んでるところ、けけポンにも見せてあげられたらいいのにな」
 ゆう花さんが空を見上げた。ゆう花さんは笑顔を浮かべていたけど、シャボン玉が、どんよりしたねずみ色の空に吸いこまれていくにつれ、その笑顔にはしだいにさびしさの色がにじんでいく。
 ゆう花さんの転校、もうすぐだもんな。けけポンと友だちだった毎日も、あのシャボン玉みたいに遠ざかっていきそうでつらいのかな……。
「あ、あのさ。ゆう花さんっ!」
 あれっ、自分でも予想外に大きな声が出た。
「なに?」
「さっきのボロボロクレヨン、ちょっと貸してくんない?」
 その夜、オレはいつものように机に向かった。と、いってもアスモンじゃない。けけポンのイラストを真剣に描いてみたくなったんだ。
 えーと、けけポンは耳がくたくたっとしてて毛がモフモフだったっけ。うーん、なかなか難しいな。何度描いても毛羽立ったモップのオバケみたいになる。これじゃ毛深いけどモフモフあったかくは見えない。
「そうだ、あれを参考にしよう」
 ゴチャゴチャッとした机の引き出しを探ると、あったあった。夏休みの自由研究でオレが描いた、二十歳のおばあさんネコ、ドドさんの絵。ドドさんの毛、長くてフワフワしてたんだよな。顔のまわりと前足としっぽの先は白くて、あとは真っ黒なんだ。
「この子、まちがえて小麦粉に突っこんじゃったって顔してるでしょう」
 飼い主であるピアノの先生が、ドドさんのモッサリした身体を抱き上げて見せてくれたのがなつかしい。絵のはしっこのほうに、よっちゃんによるレポートが書いてある。
――ドドさんは魚も好きですが、キャベツも好きです。キャベツをちぎってあげると、バリバリとかじりました。ヘルシーな食生活が長生きの秘けつなのかもしれません――
 そーいや、このごろよっちゃんからドドさんの話聞かねーな。ちょっと前までは、しょっちゅうドドさんがどうのこうの言ってたのに。あいつめ、あきっぽいんだから。
 けけポンの毛並みはドドさんをモデルに、目はお月さまみたいにまん丸だったな。もらったカードにきっちり描きこんでいこう。あとは大きな口と虹色の歯だ。ここは、ゆう花さんから借りたクレヨンを使って塗ってみよう。このクレヨン、古いしバッキバキに折れてるし、まるでゴミみたいだけど、ゆう花さんにとってはけけポンの楽しい思い出がつまった大切な宝物だ。よっちゃんみたいに本物のけけポンが呼び出せるとは思わねーけど、オレが描いたけけポンを見て、ゆう花さんがちょっとだけでもさびしくなくなれば、なーんて……。
「って、なにボーッとしてんだオレ!」
 いっけねぇ、うっかり塗るところはみだしそうになった。ダメだダメだ、アスモン描くときと同じように真剣に取り組もう。オレ、まだまだヘタだし、全然似てないかもしれないけど、できるかぎりていねいに心をこめて描くんだ!
 夜も更けて、机いっぱいに消しゴムのカスと色とりどりのクレヨンが散らばったころ。
「できたー!」
 時計を見ると、うわっ、もう十二時すぎてる。こんな時間まで描いてたのか。この絵をふたりに見せたらなんて言うかな? へへっ、楽しみだな。

「やっべー、遅刻だ!」
 あれからオレはそのまま机で寝てしまい、盛大に寝すごした。急いで家を出たけど、もう朝のホームルームはじまってるかも。どうしよう……。
 おそるおそる、教室のドアに手をかけたとたん。
「ちょっと、いいかげんにしなさいよ!」
 ピシャッ! と厳しい声が飛んできた。
「す、すみませ……あれ?」
 教室の中を見てみると、髪が長くて眉毛の太い女子がオレのほう――ではなく、よっちゃんを、ずーんと見下ろしていた。あれは武田さん? ゆう花さんと森野さんも近くにいるな。
「ごめん、ごめんね」
 武田さんに向かってペコペコと頭を下げるよっちゃん。あいつ、武田さんになにやらかしたんだろう?
「あんたたちのせいで、ゆうかりんが迷惑してるの分かんないの?」
 えっ?
「ちがうの、タケちゃん。これはあたしが」
 ゆう花さんは必死に説明しようとしてるけど、怒りがヒートアップしている武田さんの耳には入っていないようだ。
「探偵ごっこだか知らないけど、なんでいちいちゆうかりんのこと巻きこむの? 昨日も一日じゅうひっぱり回してたんでしょ?」
「ちょ、ちょっと待てよ、武田さん。これには――」
 オレは急いでよっちゃんたちのあいだに割って入ったが、よっちゃんはただ武田さんたちにペコペコあやまってばかりいる。
「ホントにごめん。ゆう……吉田さんが転校するって聞いたから、その前になにかいい思い出を作ってあげられたらな、って思っただけなんだ」
「でも、ふたりとも今までゆうかりんと別に仲良くなかったじゃない」
 森野さんがグサッとくるひとことを口にした。た、確かにそのとおりだけどさ。
 武田さんがオレたちに冷たいまなざしを向ける。
「なにがいい思い出作りよ。大ウソ言わないで。ゆうかりんがおとなしいからって、あんたたちのヘンな遊びに強引に付き合わせてただけでしょ? だいたい、いい思い出ならあたしたちのほうが、あんたたちより何倍、何十倍もゆうかりんに作ってあげられる。もうこれ以上、よけいなマネしないで!」
 よけいなマネだと?
「おい、オレたちはな」
「待った、タイヘーくん!」
 よっちゃんが、ぐっとオレの腕をつかんだ。こんなときになんで止めるんだよ?
「早く行こっ、ゆうかりん!」
 武田さんたちは困惑しているゆう花さんを連れて、ササーッとオレたちから離れていった。まるでオレたちに、二度とゆう花さんに近づかないで! と言わんばかりに。
 休み時間になったとたん、オレはすぐさま、よっちゃんを人気のない階段の踊り場のほうまでつれて行った。
「なぁ、なんでさっきホントのこと言わなかったんだよ」
「ホントのことって?」
 よっちゃんのヤツ、頭に?マークがたくさん浮かんでる。ああもうイラッとするな。
「ゆう花さんのことだよ。どうしてけけポン探しに協力してること、武田さんたちに話さなかったんだ?」
 すると、よっちゃんはオレを諭すかのように、
「タイヘーくん。探偵たるもの、クライアントの依頼は口外禁止だよ。ゆう花さんも、ヘンに思われるといけないから、武田さんたちにはけけポンのこと知られたくないって言ってたでしょ?」
「だけど、あんだけひどいこと言われてくやしくねーのかよ。大ウソだの、よけいなマネするなだのなんだの」
「くやしいよりも、すごいコワかったー」
 よっちゃんは、ブルブルッと身をふるわせた。
「だからって言われっぱなしでだまってんじゃねーっての!」
 マジでこいつビビリだ。情けねーな。
「でも、武田さんたちの気持ちも分かるから」
「なに?」
「武田さんたち、ゆう花さんと離ればなれになるのがきっとすごくさびしいんだよ。転校の日まで、できるだけたくさんゆう花さんとすごしたいのに、急にぼくたちがゆう花さんに関わりはじめたからおもしろくないんだと思う」
「でも、元はといえばゆう花さんがオレたちに頼んできたことだろ?」
「それは確かにそうなんだけど、今のゆう花さんの友だちは、けけポンだけじゃないんだよね。ぼく、そのことちゃんと考えてなかったんだ。ここは一度、作戦をリセットしたほうがいいかもしれない」
 作戦をリセットだって……?
「じゃあ、もうけけポン探すのあきらめるのかよ?」
 あんだけ探してみせるってワーワー騒いでたのに。
 オレたちのことさんざん引きずり回して、絵を描け描けって頼むだけ頼んで。
 それが、誰かにちょっと怒られたくらいで、これまでのことは全部なかったことにするつもりなのか?
「あきらめるわけじゃないけど――」
「あーあ、バッカらしいっ!」
 もうこれ以上ガマンできるか、こんなの。
「タイヘーくん?」
 オレはよっちゃんの顔を見すえると、マシンガンをぶっ放すみたいにまくしたてた。
「よっちゃんって、いっつもそーだよな。自分は思いつきでいろいろ言うばっかりで、厄介なことはみーんなオレに押しつけてばっかじゃん! 昨日言ってたけけポン呼び出すアイデアも、どーせめんどくさくなったんだろ」
「そ、そうじゃないよ。ただ、今までみたいにゆう花さんは誘えないから――」
 なにオロオロ言い訳してんだ。もうなにも聞きたくない。
「オレはもう二度と探偵ごっこには付き合わねーからな! やるならよっちゃんひとりでやれよ。どーせひとりじゃなにもしねーだろーけど」
「タイヘーくん!」
 オレの後をよっちゃんが追いかけてきたけど、もうあんなヤツ放っておこう。
 いつも、いつもいつもいつも協力したところでロクな結果にならないんだ!
 それにしても……。
「けっこううまく描けたと思ったのに」
 クリアファイルに入れておいたけけポンのカード、さっきまで大事に取っておいたのに、もう今はただのラクガキになっちまったな。
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