第1話 再争

文字数 3,959文字

時は令和 人の心が死に絶えた幽玄の時代に突入した
人の心はようよう戦乱の時代に翻弄され、虚に染まりきった世界で荒廃し、
誰もが慌ただしい時代の波に翻弄されていた

彼の地には霊障が溢れていたその悪しき理由
それは令和の時代に起こりえた人の愚かな第三の戦争が発端だった
その戦争は酷い有様で、世界の全てが滅したかの如く、
生あるものを無残な死へと追いやった

世界は混沌を極め、正ある者は、やがて消えゆく自然と共に姿を消し去っていった。

もはや世界を救う、運命を補正する力も働かず、世界は核戦争と
醜い人類の腐敗した争いによっていずれ死にゆく世界のみで、
希望すら残されてはいなかった

世界が死んだその時に、救世主も死んだのだ

人は争いに終止符が打てなくなるほど、醜く退化した

そして、戦争が終われば、又いつかやり直せると、希望をどこかで思い描いてもいたのだろう
争う力すらなくなりかけた時、世界各国の全ての民も己の過ちに気付いたが、それでも戦は止まらなかった

過ちに気付くのが遅すぎたのだ

世界からは資源も消え失せ、世界の人口も減少し自然の生命も潰えていった
かつては広かった世界地図もその様相を呈し、
大陸も、かつては豊かな景色の遺産も失った

気候も劇的に変化した。
その土地土地独特の気候や、草も生えぬほど極寒の日や、
はたまた地獄の様な暑さの日々・・
それによって、新しく生まれた虫の姿を借りた異形の化け物

そして核によって世界の物質法則すら崩壊し、
人類のこれまでの希望の柱だった「機械」の力も異形の力へと
変貌していった。
まるで世界を己で滅ぼしてしまう無知な人間に戒める罰かの様に、
世界には罪の傷跡だけが残った。

それは・・・


「怖い・・・怖いよ・・・私の中に・・誰かが・・いるの・・
お願い、私を・・食べないでーーー」



某 屍鋼村某所

「おい、聞いたか?本部から」

「あぁ、最近多いな、このままじゃ、下っ端の村民共がまた、黙っちゃいないぜ、だってこの間
長婆(おさばば)様から直々に苦情を上げられたそうじゃないか」

「あいつら、霊獣共を少し片付けられるからって、でかい顔をしてるからな、ただ、最近はやり過ぎだぜ」

「あぁ。今月で五拾人は供物にされたんじゃねぇか、マジで下の奴らは黙っちゃいられなくなる数だわな」

「あぁ、だから緊急の役員会議が今から極秘で行われるんだろ?こうなったのも、長婆がよりにもよって余所者を組織に組み込んだからって噂だしな」

「あぁ、聞いた聞いた。現実的には補佐の信長さん経由らしいが、最終的に権利を決定したのは婆さまだし、
こりゃ村人から今日の会議はやりだまに上げられて失脚したりしてな」

「馬鹿!?声がでけぇってんだよ。そんなの聞こえたら、いつか俺らも生け贄にされんぞ、くわばらくわばら」

「まぁな、今回の事件じゃ、顔無しか?霊獣?又は幻獣だっけか?ずっと前遠目から見た、あの、おっかねぇ
不気味な顔・・人を瞬く間に喰いまくって、恐ろしかったし、まだ信じられぇんだよな、俺」

「あぁ、おまえは初めて見たんだっけ?そりゃ小面だな、あいつら人に化けて襲ってくるから不気味よ」

「こおもて?あのおたふくみたいな面だっけか?でも、人に化けんだろ?俺が見たのはでっけぇぞ?」

「おまえ、何も知らねえのな、そんなんじゃ信長様の陣営から外されるぜ?おまえが見たのは霊獣がお怒りになられた神獣さ、何でも、元々は・・・」

「おい、おまえたち?」

「あぁ!なんだよっ・・・ってあぁ!の、信長さん?」

「そんな事を軽々しく噂されちゃ困るな・・村民にしろ、村へ集まってくれた各村長達にも、いい気持ちは伝わらないだろうからな。あまり変に騒げば、粛正の的になる・・君らには期待してるし、家族もいるのだろう?」

「これはこれは、へ、へい、すいやせんでした、信長様、しっかり、見張っておきます」

「いつだって気を許していけないぞ、昨今の霊獣被害も、今の村の有様をみればわかる通りだ。願わくば、村内の家族達に被害がこれいじょう出る前に、色々今日の日取りで全ての政(まつりごと)を終えねばな」

「そ、そんな、そこまで村の事を考えなさってくれて・・恐悦です信長様」

「第三の戦争から、ずいぶんと世界は変わってしまったのだからな。色々慣れねばならぬ、辛いだろうが、
これからも私を支えてくれ・・他に変わりは無いか?」

「へい、あっそういえば、又、未空(ミク)が長婆に会わせろと、連日ずっと苦情を門前に張り付いて言って来やがって、あのクソガキ、どうしてやりましょうか?それと、あと一つ、お耳に入れたいんですが、
なんだか、婆様が、又、余所者を呼ぶそうで?」

「口を慎め、・・それにしても、又あの小娘か・・巫女にもなれず、供物にもなれない、落ちぶれた巫女の娘が
何の要件を伝えようとしてるのだ?」

「な、なんか気が狂ったのか、自分の中に誰かがいる、だの、後、さっき言ってた、救いの救世主の夢を見たから
長婆に伝えたいとかなんとか、ほんと、わずらわしい、醜いクソガキですよね。村の落ち目が」

「ふむ、なかなか興味はある・・救世主・・ね。そんな者、是非お目にかかりたいものだ。先の戦でも、現れぬ
救世主とやらをね。そんな都合良い者なぞ、子供だからこそか、わからぬのであろうな、それこそ幼い夢だ」

「まぁ、その娘の事も私に考えはある。おまえ達はこの門を厳戒態勢で見張るのだ、未空には私が当たる
余所者は、私が許さん」

「おぅ、あぁ、たいそう心遣い痛み入りやす。やはり、時期村の役を治められるのは信長様だぁ、一生付いてきます」

「ふふ、一生か、言い言葉を聞けた。覚えておこう。村も私が守ってみせるから、安心して尽くせ」

「へい(両名)」

そういって、踵(きびす)を信長が返した時だった


「もぅ、・・・少し。もぅ少しで叔母様に会える・・」

「おぃ」

「ひっ」少女は声をかけられて、すくんでしまった

信長はただ黙ってその少女を見る


「こいつ、こんな小さな穴から、屋内に侵入してきたのか?大道芸じゃあるまいし、ってあぁ、やせっぽちなら
通るのか・・ぎゃははは、でも、残念だったな未空。信長様に見つけられたなら、覚悟してもらうぞクソガキ」

「・・・・ぇ?」か弱い少女は、後ろに控えてた男の威圧に固まった・・が

「おい、貴様、みくと言ったな。今日今から屋敷では政がある。婆様も忙しいのはわかるであろう?
要件なら、私が聞こうか?」

「なっ・・・えっ・・信長様!?こんなガキに」
ギロッと信長は見やる。男達は急に黙った

「どうした、話す言葉は見つからぬのか?申し訳ないが割く時間は足りぬのだ」

「えっと・・えっと、お、叔母様に直接・・あの、あの」
少女の声は今にも消え入りそうで泣き声に近くなる

「みくといったな、君の母親のことは、婆様や先代から聞いているよ。稀に見た幻の巫女・・だったらしいな」

「今は辛くないかい?虐められると聞いたのだが」

「えっぇっ」
少女はまともに受け答えすら出来ず、焦りで押し黙ってしまう
奇妙な沈黙が少女を駆り立て、ただただ無言の時間を取っていく

「すまないね。聞いてあげたいがもぅ、時間はない。悪いが行かなければならんので失礼・・」

「まっ、待って・・くだ、さい!」声をそれだけ振り絞り又、黙る少女

「直接じゃなきゃ・・駄目なの・・お願い、します」

「てめぇ、自分の立場わかってんのか?痛い目見せるぞ」

「ひっ」

「やめろ」

「先代の礼が、この娘にはある。それを傷つけるのは感心できぬ。どうか私の顔を立てて、荒立ててやってくれるな」

「えっ・・で、でも、そうしましたら信長様の立場が・・」

「良いのだ。たまには村の声にも直に耳を傾けねばな・・よし、未空よ。わかった。私が責任を持って、婆様に
会わせてやろう」

「ほ、本当っ!?」
未空の表情が歓喜に震えて瞳を見開いた」

「ふっ、めごい(可愛い)瞳よのぅ・・付いて参れ・・未空」

信長は微笑を浮かべ、屋敷の玄関に足を上げた。その後をおずおずチョコチョコと未空が付いていく

どうやら後少しで村の会議は始まる様だった

周りの空気が厳密に、そして慌ただしく動く屋敷の女中達
格式高さを装わせる集会所の空気と連帯感

そして、その間には少しだけ古風に、廃れかかってもいるが落ち着きある各間
そして、悪霊を薙ぐかの様に鎮座する仏像の数々や、
展望まで続く階段を上った先にある舞台から見える幽玄な景色の中に、
信長達も混じって行く

日本の美がようようにして過ぎゆく中、物語は始まって行こうとしていた
「神聖なる火を灯せ! 間もなく霊獣を誘き出す降霊の儀を今こそ執り行わん!」
「皆の者!我が信長の号令に従い、悪を討とうぞ」
「長婆さま・・舞台の準備整えましてございます・・号令の祝詞を・・!」

「うむ・・」

「掛けまくも畏き
かけまくもかしこき

伊邪那岐大神
いざなぎのおほかみ

筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に
つくしのひむかのたちばなのをどのあはぎはらに

禊ぎ祓へ給ひし時に
みそぎはらへたまひしときに

生り坐せる祓戸の大神等
なりませるはらへどのおほかみたち

諸々の禍事・罪・穢
もろもろのまがごとつみけがれ

有らむをば
あらむをば

祓へ給ひ清め給へと
はらへたまひきよめたまへと

白すことを聞こし召せと
まをすことをきこしめせと

恐み恐みも白す
かしこみかしこみもまおす」

「いくぞ!皆の衆!」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み