氷下魚

文字数 636文字

 腹が鳴った、深夜零時。
 おれは一夜干しの氷下魚とトンカチを持って外に出る。
 そして、近所迷惑をお構いなしに、氷下魚(コマイ)を丸い石の上にのせて力いっぱいカンカン叩いた。
 氷下魚の別名は寒海(カンカイ)だ。
 トンカチでカンカン叩くから寒海なのかと、訳のわからぬ解釈がふと脳裏をよぎる。
 魚の骨と皮がしんなりとやわらかくなった。
 家に戻ると、
 トンカチをぽいっと放り投げた。
 TOSHIBAの液晶テレビの画面がけたたましい音とともに粉々に砕けた。
 思わず悲鳴をあげる。
 後悔した。
 眼をとじて、
 反省した。
 かっと眼をあけた。
 反省おわり。
 よっしゃ、とことん飲むぞ!
 冷蔵庫の扉を乱暴に開けた。
 ちらかった冷蔵庫のなかからマヨネーズ、醤油、大関のワンカップを取りだす。
 冷蔵庫の扉を乱暴に閉めた。
 台所から七味唐辛子を手にとり、
 食器棚から小皿を取りだした。
 居間のこたつにどっかり腰をおろした。
 小皿の上に残り少なくなったマヨネーズのチューブをぎゅっと絞る。
 屁のような音。
 思わず苦笑し、
 その上から醤油と七味唐辛子を豪快にぶっかける。
 小指でかきまわす。
 小指を舐める。
 氷下魚の身を指で引き裂き、
 それに特性調味料をたっぷりつけて、
 もぐもぐと噛みしめる。
 ワンカップの栓をあけた。
 ちびりちびりやると、
 五臓六腑に日本酒がじわじわと染みわたる――オレゴン州で、おれは故国の味を堪能した。
 
 
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