第1話チィチィ

文字数 658文字

 気がついたらチィチィのお家がなくなっていました。

 チィチィは暖かくて湿(しめ)った森の木の上で、おかあさんとふたりで暮らしていました。

 ある日小枝のベッドで寝ていると、突然、バリバリバリと聞いたこともないような音がして、森の木々が大きく揺れました。

「はやく逃げて」

 おかあさんがさけんだので、チィチィはピョンピョンと他の木に飛びうつって逃げました。

 しばらく草むらにかくれていて、まわりが静かになった頃にもどってみると、まわりにあった木といっしょに、お家が消えていました。

 後にはたくさんの切り株が残っていて、ガランとひろい地面があるだけでした。

「お家がなくなっちゃった。お母さんもいない」

 チィチィはこわくなりました。

 メガネザルは、体の重さが約百グラム。バナナの実一本分もないくらいの小さな猿です。顔のほとんどが目というくらい、メガネのような大きくて丸い目を持っています。

 いつも夜に動きまわって、木の枝から枝へ飛び移りながら、小さな虫を捕まえて食べています。

 お家の木がなくなってしまって、チィチィはどうしたらいいのかわかりませんでした。

 メガネザルは木の上で生活しています。体をかくす場所のないまま、いつまでもここにいては危険です。

 チィチィは首をぐるっとまわして、まわりを見まわしました。

 大きな目にはおひさまの光がまぶしいのです。
 夜のようにハッキリはみえませんでしたが、遠くの方に木が生えているような場所がぼんやりと見えました。

 チィチィは、お母さんが心配でしたが、森のある場所まで行ってみることにしました。
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