本編

文字数 6,410文字

あなたはある病院の一室に立っている。真っ白な部屋の中、真っ白なベッドに横たわるのは、固く瞼を下ろしたままのKPCだ。少し痩せたその頬を見ながら、あなたは一週間前の出来事を思い出す。

突然、電話が鳴った。見知らぬ番号からの着信に恐る恐る出ると、電話口の男性は驚くべき言葉を発した。
『……KPCさんが暴行に遭われ、現在意識がなく……』
あなたは病院へ駆け出した。あまりに荒唐無稽な出来事だ、信じ難い事だ。ああしかし、果たしてそこには、頬に大きく痣を残したKPCが眠っていたのだ。

あれから一週間、KPCは未だ目覚めない。
アイデアをお願いします。
成功→痩せている。このまま目覚めなければ衰弱死してしまうかもしれない。
失敗→痩せている。どうにかして目覚めさせたい。

穏やかな呼吸と共に昏昏と眠るその顔を見て、ため息と落胆をひとつ、あなたは病院を出る。高いビルが立ち並ぶ大通り、狭い空は心做しか灰色だ。

ふと、視界に見慣れないものが入った。
屋台型のリヤカーだ。
あまり見なれないそれに、あなたは思わず懐古の念を抱いて近づくだろう。

《リヤカー》
中央にある窪んだ場所には水が張られ、たくさんの氷の中に青色の瓶が沈んでいる。屋根の部分には紙が貼られており、奥に老婆が立っている。

リヤカー全体に目星:あまり汚れたりはしていないようだ。もしかしたらそこまで古いものではないのかもしれない。

《瓶》
目星:昔ながらの緑がかった青い無地の瓶。蓋があるわけではない、ビー玉で留められた懐かしい仕様。

《水》
透き通っていて美しい。氷もたくさんあり、とても冷えているようだ。

《紙》
目星or宣言:『ラムネ 夏 50円』と書かれている。お品書きのようなものだろうか?

《老婆》
腰の曲がったよぼよぼおばあちゃん。目が開いてるのか開いていないのか分からない。

(KP情報:少し耳が遠い。おおらかでのんびりなおばあちゃん。本来の姿は魔術師で老婆ではないが、今は中身までおばあちゃんになっている。よぼよぼ)

「いらっしゃあい。ぼうやもラムネ飲むかい?」
「はい。50円だよ」
「なぁんだってえ〜?聞こえないよ」
(どうにかして買ってもらおう!都合が悪い質問は聞こえないふりをして逃げよう!)

《買う》
50円を渡すと、老婆は枯れ枝のような腕を躊躇いなく氷のプールに手を突っ込んだ。青色の瓶を一本取り出すと、横の骨組みにかけてあった手ぬぐいでそれを丁寧に拭った。
「ここで飲んでいくかい?」
飲んでいく→老婆は手に取ったピンクのプラスチックでビー玉を落とし、零れた泡が収まってからあなたに手渡した。
持って帰る→ピンクのプラスチックを渡してくれる。
(ピンクのやつ伝わるかな!?あの、押し込んでビー玉を沈めるやつです)

買ったあとアイデアを振ってもらう。
アイデア成功→今どき珍しい屋台があるのに、どうして通行人は振り向きもしないのだろうか?
アイデア失敗→今どき珍しい屋台だ。どこからやってきたのだろう?

《ラムネを飲む》
透き通ったガラスは光を受けてキラキラと輝いている。そっと瓶を傾けると、舌にぴりとした感覚が走った。それを喉奥まで運び、つっかえるような水の塊を飲み込めば、独特だけれど爽やかな空気だけが口の中に残る。
ぷは、と口を離した時、急激な眠気があなたを襲う。ぐらりと揺れる視界、そのまま為す術なく、あなたは意識を手放した。

(ここからが本番!)

遠くから聞こえる蝉の声が耳の奥に響く。生温い風が肌を撫でる。
ゆっくりと目を開けると、見たことのない風景が広がっていた。
人工物ひとつない広い青い空、大きな入道雲、悠然とそびえ立つ山々に、奥へ奥へと続く道。
一体ここはどこだ?どうしてこんな場所に?SANチェック1/1d3
周りを見渡すと、少し離れた場所にバス停と待合所があった。

《バス停》
古びた薄い金属製のバス停。すっかり風化していて、時刻表の端はギザギザだ。
目星成功:停車場の部分に、辛うじて『夏』という文字が見える。

《時刻表》
律儀に24時間分あるが、そのほとんどが空欄だ。

《待合所》
簡素な造りの待合所。木製で、今にも崩れそうに見えるが、案外頑丈なようだ。雨よけがあり、幅のある壁で遮られているため、横からでは中が見えない。
そこから、つま先でやっと地面に届いている脚が、見える。
誰かが椅子に座っている。

《誰か》
小さな人影が、ちょこんと腰掛けている。緑青の瓶を傾け、喉を鳴らしてラムネを飲む。半袖の学生服、少し暑そうに胸元をつまんで空気を入れ、それでも堪えられずに汗が首筋を伝う。
ぼんやりと遠くを見つめるその幼い横顔は、どこかKPCの面影を宿している。
ぷは、と満足そうに瓶から口を離して、ゆっくりと視線をこちらに向ける。
「……山の向こうのひと?」
声を聞き、確信する。あどけない瞳でこちらを見るのは、在りし日のKPCであると。SANチェック0/1
(KP情報:中学生くらいのKPCです。この田舎町で生まれ育ったという記憶を上書きされています。PCとの思い出などはフレーバーとして出すとより楽しいと思います!なんとなくは覚えていますが、それが目の前のPCとは結びついていません)
「わたしはKPCだよ」
「どこからきたの?」
「……ラムネ、飲む?」

(会話が終わったらラムネを飲み干そう!)
空になった瓶を揺らしてKPCは立ち上がる。道路を挟んだ向かいにある木箱に、手の中のラムネ瓶を入れた。
「いつもはここにラムネの屋台があるの。今はいないみたい」
どこにいるのかな、とKPCは辺りを見回す。つられて視線を動かせば、あなたは驚くべきものを目にする。
カーブミラーに映る姿。己の立っている位置に見えるもの。それは紛れもなく、懐かしい制服を纏った、中学生の時の自分だった。SANチェック0/1

「ねえ、一緒にあそぼうよ。今日することなくて暇だったんだ」
KPCは大きく伸びをしたあと、無邪気にあなたへそう言った。
(遊ぶ流れまで持っていこう!)

《駄菓子屋》
「おこづかいもらってきたからなんでも買えるよ」
KPCに連れられ、あなたたちが来たのは小さな駄菓子屋だった。天井近くまで陳列された菓子はどうにも窮屈そうだが、子どもにとっては宝の山も同然だ。
KPCはキラキラと目を輝かせながら、両手も伸ばせないような狭い店内を見回している。
「いっぱいあって迷っちゃうね」
「でも今日、あついもんなぁ……」
「やっぱりアイスにしよう」
KPCは店の外へ行き、クーラーボックスから棒アイスを取り出した。店主の元へと持っていき、ポケットから小さな小銭入れを取り出して支払う。それを眺めながら、気づく。店主の老人の顔が、まるでそこだけ切り取られたかのように、黒い。KPCはそれを気にもせず笑顔で話している。SANチェック1/2
(KPCには普通に見えています。異分子であるPCには見えません)
「アイス、外で食べたいな」
KPCの言葉に、あなたたちは店を出るだろう。

《ベンチ》
駄菓子屋を出てすぐの場所に金属製のベンチがあった。骨組みが細く頼りない上に、ひどく錆びていて汚い。KPCはそれを意にも介さぬように躊躇いなく座った。買った棒アイスの袋を破り、早くも溶けそうなアイスを舌先でぺろりと舐める。
「暑い日はアイスだよね」
「食べたら次は何しようか」
(会話パートです。どんなお話をするかは自由ですが、KPCがここの生活を好んでいること、ずっと遊んでいたいことなど強調してください。『帰る』という単語を毛嫌いしています)

楽しそうに話をするあなたたちの間を、夏の緩やかな風が通り過ぎていく。一本道のわきに置かれたベンチからは、ぽつぽつと置かれている寂れた家々や、その向こうに広がる田んぼや揺れる無数の花の黄色が見えている。はじめはうるさく感じた蝉の声も、だんだんと心地よく感じられてくる。
「決めた!」
KPCはそう言うと、ほとんど溶けて液体になりかけているアイスをぱくりと口の中に入れた。棒を引き抜き、濡れた唇を舐める。そして椅子から降りて、あなたの前に立つ。
「山に行こうよ。神社の周りはかくれんぼできるの」
KPCはさっと身を翻し、悠然とそびえ立つ山へ軽い足取りで向かっていく。
KPCの背を追いかけベンチを立ち上がったとき、あなたは気づいた、気づいてしまった。
先ほどまでいた駄菓子屋の店主が消えていることに。そして、家々や店が立ち並ぶのに、自分たちの他に、誰もいないことに。SANチェック0/1

アイデア成功→KPCの生活にとって必要とされる人しか、ここにはいないのでは?SANチェック1/1d3

《山》
蝉がうるさいほどに鳴いている。茹だる暑さに頭が痛い。足元は険しく、道らしい道もない。歩けそうなのは辛うじて草花の潰れた細い隙間だけだ。しかしKPCは脇目も振らず、慣れた様子でずんずんと進んで行く。
(会話出来るヨ!)
と、前を歩いていたKPCが何かに躓く。ぐらりと揺れるその背中に、あなたは思わず手を伸ばす。

幸運成功→身体に腕を回し、抱きとめる。KPCは驚いたようにあなたを見て、ありがとう、とはにかんだ。

幸運失敗→服を掠めたものの、KPCはあえなく地面に倒れ込む。そこまでの衝撃ではなかったようですぐに起き上がるが、肘のあたりを大きく擦りむいてしまっている。
(RP楽しもう!)

ふと、開けた場所に着いた。そこだけは綺麗に木々が伐たれており、先程までの暗さが嘘のように明るい。
その中央、雨風に曝され色の褪せた鳥居の奥に、古ぼけた神社がある。縁石は崩れかけ、そこかしこに蔦が這っている。屋根は落ち、賽銭箱は割れ、本殿は空っぽの中が見えていて、内部に入ることは容易いだろう。

「かくれんぼしよう!最初はわたしが隠れるから、30数えたら探してね」
KPCはそう言ってどこかへ走っていった。あなたは困惑しつつも、仕方ないと鳥居に向き直り目を覆って数をかぞえ出すだろう。

30、と言うと同時に振り向く。辺りには人影がなく、さわさわと木々が揺れるのみ。さて、どこだろう?

目星成功→発見!影に隠れていたKPCは、覗き込むと驚いて、わっと声を上げた。残念そうに唇をとがらせている。

目星失敗→見つけられず降参!痺れを切らしたKPCがひょっこりと顔を出した。わたしの勝ち、と嬉しそうに笑っている。

「次は交代しよう。わたしが鬼ね」
KPCはくるりと背を向け、両手で双眸を隠して大きな声で数をかぞえ始めた。さて、どこに隠れよう?

幸運成功→KPCは見つけられないようだ。最初は自信満々に探し歩いていたが、段々と不安になってきたのだろうか、呼ぶ声が少し震えている。
(自ら出てもよし!泣かせてもよし!個人のお好みで!)

幸運失敗→みーつけたっ!とKPCはあなたの顔を覗き込んだ。見つけられたことが嬉しいのだろうか、にこにこと笑っている。

僅かに視界に薄闇がかかり始めている。もう間もなく日が沈むのだろう。KPCもそれに気づいたようだ。
「あのね、見せたいものがあるの」
KPCはあなたの手を握り、歩き出す。揺れる頭を横目に、あなたは木々の隙間に光るふたつの目を見た。ひとつ気づけばあとは連なって次から次へ。日の当たらない木と木の間、無数の人影があった。
ゾッと背筋を悪寒が走る。あれは誰なのだろうか、何なのだろうか。そう考えるあなたのすぐ後ろから、声がした。
『いつまで夏にいる?』
SANチェック1d3/1d6
闇の目玉に見つめられながら、あなたはただひたすらKPCの手の温もりを感じていた。

《夕暮れ》
「もう少しだよ」
KPCは歩く。あなたはその後を行く。どうやら山の上に向かって進んでいっているようだ。頭上を覆う木も少なくなっている。やけに空が近く見えた。
「ついた」
KPCの見据える方に視線を向けると、木々の避けたような空間、燃えるような美しい夕焼けが視界いっぱいに広がった。その光に焼かれた町はきらきらと輝き、空は手を伸ばせば届くほどの距離にある。
「きれいでしょ」
魅せられたように太陽を見つめるKPCの横顔は、日を受けて紅に染まっている。

(ラストスパート!)
「これを見せたかったの」
「明日も明後日も、ずっと遊ぼう」
「ずっとずっと、ここにいようよ」
KPCはどこか必死な、懇願するような声色であなたにそう言った。縋るようにあなたの袖を握る。その瞳は潤み、揺れている。
(KPCは現実が怖いから戻りたくない。だからずっとここにいようとするし、明日の約束をしようとする。ただそのままだと、現実では衰弱する一方なのでそのうち死んでしまう。守ってあげるから、味方だからとかそんなことを言ってくれたら、信じられたら帰る気になるかもしれませんね)
「だって、だって、帰ったって怖いことばっかりなんだよ?」
「もう痛いのはいやなの」
「…ほんとに?」
「信じても、いいの?」
あなたの言葉に、KPCは安堵したような顔をした。目を伏せた拍子に、瞳からぽろりと涙が零れ落ちた。

《帰路》
辺りはすっかり暗くなってしまった。ぐすぐすと涙を拭うKPCに先導を任せるのは憚られる。あなたは少し冷えたKPCの手を握り、闇の中へと歩き出す。
一歩、山を下りようと足を踏み出したとき、パッと地表に小さな明かりが灯った。それからぽつぽつと、まるであなたを先導するように、いくつかの明かりが道を作った。
あなたたちは、帰り道を歩いている。
(好きなようにお話しよう!なければカット!)
今通り過ぎたものを最後に、明かりは消えた。それと同時にあなたたちは山を出る。不思議と、景色は鮮明に見えた。通ってきた道を行き、それから始めのバス停へと戻る。
人気のない静かな場所。暗闇の中、そこにはぼんやりとした灯りを湛えた、あのリヤカーがあった。

《リヤカー》
病院の前にいたリヤカー。古びたランタンでぼんやりと辺りを照らしている。あの時と同じように、沈められた瓶の前に老婆が立っており、屋根には貼り紙がされている。

《瓶》
水の中でゆらゆらと揺れている。光を受けているからか、水面も硝子もまるで宝石のように輝いている。

《紙》
『ラムネ 帰路』と書かれている。値段は何も表記されていないようだ。

《老婆》
よぼよぼのおばあちゃん。目が最早線にしか見えない。
「こんな時間まで遊んで、悪い子さね」
「ああでも帰り道が分からないのかい?そうかい」
「それならこれをあげよう」
「わしゃ実は魔法使いなのさ」
老婆はラムネを二本取り出し、手ぬぐいで拭いて、ビー玉を落とした。
かぽん、という軽い音と共にビー玉が沈む。ラムネに浸ったそれは、闇の中でぼんやりと光を湛えている。
老婆はあなたたちにラムネを手渡した。KPCは光るビー玉を見つめながら、きれい、と呟いた。
「それが帰りまでの道標になってくれるだろうよ」
老婆はあなたたちがラムネを飲むのを見守っている。

《ラムネを飲む》
馴染んだ刺激が口の中に走る。それをそのまま飲んで、腹の中まで押し込む。喉に残るちくちくとした痛みが、なぜだか懐かしい。
ひとくち。それから、あなたとKPCは同時に口を離した。ぱちりと合った視線、未だ濡れているその瞳は何を考えているのだろうか。
そう思った瞬間、ぐにゃりと視界が歪む。足元の感覚が覚束なくなり、立っているかどうかすら曖昧になる中、ラムネ瓶が手から離れる感覚がした。そしてその空いた手を、誰かが握ったような気がした。

《おかえり》
不意に、意識が戻る。立っていたのは、今では少し遠くも感じられる病院の前。
目の前にあった屋台はすっかりなくなっている。あれは夢だったのだろうか。
そう思うあなたは気づくだろう。何かを握るその手に、空のラムネ瓶があることに。
KPCが目覚めていると、あなたは何故か確信を持っている。
どんな顔でこちらを見るだろうか。どんな声をかけるだろうか。
あの存在しない夏を、どういう風に語らおうか。
思わず駆け出すあなたの手の中で、からんと瓶のビー玉が鳴った。
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