生き返るのをあきらめたお母さん

文字数 1,494文字

 むかし、むかし、アメリカの云い伝えでは、殺人鬼は13日の金曜日になると、ゾンビのようにむっくりと目を覚まして、たった一度だけ墓場から生き返ることができたそうな。
「まあ、わたしったらいつの間にかからだじゅうが泥だらけだわ――もうそろそろ墓場の土のなかから生き返らないと――どっこいしょ!」
 一人のお母さんが、鏡にうつる自分の顔をがっかりしました。
 お母さんは子どもたちが寝ているすきに、そっと湖へ出かけました。
 そして、きれいな湖にはいって、服を脱いで全身についた泥をさっぱりとあらいながしたのです。ついでに服のおせんたくもしました。
 こうしてお母さんは、すっかり生き返ってきれいな女のひとになりました。
「ああ、さっぱりした。お肌もつるつる! 生き返るって、ほんとうにすばらしいことだわ」
 きれいになったお母さんは、「殺して、ママ! 殺して!」とぶつぶつ独り言を言いながら、子どもたちのいるキャンプ場へ帰りました。
「みなさん! おひさしぶり!」
 キャンプ場の子どもたちは、すでに死体の山となっていました。
 ところがアイスホッケーのお面をかぶった子どもは、生き返ったお母さんを見てびっくりしました。
『あれ? 知らない人がきたよ』と言わんばかりに無言のまま首を傾げた。
 それをテレパシーで感じとったお母さんはあわてて言いました。
「なにを言っているの? あたしは生き返ったんだ。おまえのお母さんだよ」
 けれど子どもは、かぶりを振って叫びました。
『ちがうよ! お母さんはずっと昔に、おんなのひとに山刀で首ちょんぱされて死んだはずだよ』
「よくお聞き。今宵は13日の金曜日よ!」
『うぇぇ~ん、うぇぇ~ん。お母さんが、お母さんがいないよう。お母さんがぼくをすてて、どこかへ行っちゃったよ』
「だから、あたしがお母さんだよ。おまえを産んでからははじめてだけど、お母さんは墓場から生き返ってきたんだってば」
 でも子どもは、信じようとはしません。
 すっかり困ってしまったお母さんは、家を飛び出すとさっきの湖へ引きかえしました。
「ええーと、あのときの山刀――わたしの命を奪った山刀はどこにあるのかしら?」
 探してみると、錆びついた山刀はおんぼろ納屋に置いてありました。
「あったわ。一度生き返ると、もう二度と生き返ることはできない……でも、あのぼうやに嫌われるよりましだわ」
 お母さんは山刀を手にとると――覚悟を決めて、みずから自分の首をすぱっと切断しました。
 さあ、これでぼうやは、安心するでしょう。

 元の姿に戻ったお母さんがキャンプ場に帰ると、子どもがうれしそうにかけ寄って来ました。
『ただいま』
『お帰りなさい、お母さん』
『お母さん、今までどこへ行っていたの? さっき変なおばさんがやって来て、自分のことをお母さんだなんて言うんだよ』
『そうなの。でも、安心しておくれ。お母さんは二度とどこへも行かないし、そのおばさんも二度と来ないからね。13日の金曜日は、このキャンプ場にいるたくさんのひとを殺すことができるけど、うっかり誰かに殺されないように、しっかりがんばるんだよ……あたしのかわいいぼうや……ジェイソン』
 お母さんはばったりと倒れると、隠しもっていた頭が地面にどさりと音をたてて湿った地面に転がり落ちました――子どもは、ショックのあまり手にもっていた血まみれの長いナタを落っことしました。
『ママ……』


 あふれでる涙がアイスホッケーのお面をぐっしょりと濡らし、はるか彼方にかがやく星とおおきな満月がにじんでみえましたとさ。


 
 
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