仏花

文字数 732文字

 在宅勤務で、仏壇部屋で仕事をしている。光の工事をする際に調べて貰ったところ、家の中でwifiが正常に繋がるのが仏壇部屋だけだったのだ。他の部屋ではすぐ切れたりするので仕方なくここにパソコンを持ち込んでいる。怖くないの? と友人に訊かれる。確かに最初は落ち着かなかったが、もう慣れてしまった。
 私の目の前に仏壇があり、顔を上げると位牌が目に入る。位牌の両脇には花が活けられた花瓶がある。秋なら専ら菊。菊は祖母の好きだった花だ。

 祖母は長年糖尿病を患い、最後は癌を併発して亡くなった。まったく養生せず、医者の言うことをきかず好きなものを好きなだけ食べ、入退院を繰り返していた。ベッドの下にお菓子を隠して食べていたのを知っている。食べているのを見つけると私にもくれたので母には黙っていたが、今から思うと止めなければいけなかったなあと反省する。

 古今東西、古代から棺の中に花を入れる風習があった。ツタンカーメンの棺には矢車菊の花束が入っていたし、藤ノ木古墳の棺からは紅花の花粉が検出されている。
 大学四年の秋。祖母の納棺時、棺に菊を入れようと言ったのは私だ。祖母の育てていた赤、白、黄色の菊が庭に咲いていた。それを折り取って花束にし、彼女の好物だったまんじゅう十個と共に棺に入れた。

 仏壇の花を見ていると納棺の日を思い出す。仏壇には祖母の好物のお菓子が欠かせないが、家族の誰もお菓子をそう食べないので買い忘れる時がある。すると、お菓子の切れている間はなんとなく花の枯れるのが早いのだ。私が花を替える当番だし、毎日仕事をしながら見ているから分かる。
 だから外出した際にはまんじゅう(祖母はあんこものに目が無かった)やカステラを必ず買って帰る。私以外にもう誰も買わないから。









ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み