第10話 気を遣われていただけです
文字数 2,408文字
「美味しい! こんな美味しいものは初めて食べたよ!」
公爵様は、手抜き料理をとても喜んでいた。
公爵様の部屋に行き、こうして食べさせたわけだが、泣いて喜んでいた。公爵様はカンナと二人きりで話したいというので、レンの姿はなかった。
「単なる味噌汁ですよ。そんな喜ばなくても……」
褒められているのに全く嬉しくなかった。
その理由はすぐわかる。こんなご都合主義な状況でなんの苦労もなく作った料理を褒められても、戸惑うだけだ。むしろ、ちょっとバカにされてる気分にもなってしまう。それはカンナの思い込みではあるが、公爵様は幼稚園児でも誉めているようにも見えてしまった。
「メリアも少し食べるかい?」
「え、ええ」
小皿に取り分けた味噌汁を公爵様から受け取った。
本当に子供扱いされているようだ。ただ、公爵様の優しさが伝わり、文句を心の中で呟いていた自分は恥ずかしくなってきた。
そういえば父の恵理也ともこんな風に一緒に鍋やおでんを食べた事があった。決して裕福ではない家庭だったが、たまに食べるそれはご馳走だった。鍋の日は朝から仕込みをし、ちょっとしたイベントでもあった。
このご都合主義世界に染まっていていいんだろうかと罪悪感ももちはじめた。母が死んでから父は料理にも苦労していた。よく失敗もしていて、教会のベテラン主婦から料理を習いに行っていた事も思い出す。
それに比べて自分は、今の自分は何の努力も工夫もせず、公爵様に褒められている。
野菜も肉も誰かが切ったもので、味噌も出汁もメリアが用意したものだ。自分は下拵えすらしていない。一言で言えば他人の褌で相撲を取っている状態で、褒められても全く嬉しくない。こう言ったシチュエーションで日本料理を作り褒められている漫画はよく見たが、いざ自分がその立場に立つと、別に嬉しくはない。
「メリア、どうしたんだ?」
「いえ、何でも無いです」
公爵様には誤解を受けそうだったので、カンナは無理矢理笑顔を作った。
ご都合主義世界で、簡単に料理も褒められた。状況はかなり甘いのに、なぜか全く嬉しく無い。むしろ、早く元いた世界に帰った方が良いのでは無いかと考え初めていた。
目の前に優しい公爵様はいるが、自分は本当にメリアお嬢様ではない。急に豪華な公爵家の館やドレスもチープに見えてきてしまった。豪華に飾り立ててはいるが、フェイクのようだ。ドラマや映画のセットの中にいるような気分になってくる。
口に味噌汁を含んで食べたが、全く美味しくない。公爵様が喜んでいるのも、気を遣っている可能性もありそうだった。子供が一生懸命ドヤ顔していたら、大人は苦笑しつつもノリを合わせてあげるというものだ。確か日本人以外の人からすると、味噌汁の匂いは苦手だという感想も多いという。やはり公爵様が気を遣って食べてくれている可能性が高い。本当はまずいと思ってるかもしれない。
自分は子供じゃないかと思い始めた。というか罪人。
聖書では全ての人が罪人とされている。神様を忘れ、好き勝手に生きる事を罪という。今も少女漫画世界で夢見ている状況は、どう考えても罪深い。
前にゲームや漫画にハマり過ぎて反省したはずだったが、そうそう簡単に自分の性質は変わっていないようで恥ずかしくもなってきた。クリスチャンになったからと言って、完全に清く正しくボーンアゲインするわけでもない。根強く残る罪の性質と向き合い、神様に祈り助けて貰わないとダメみたいだ。
気づくと、公爵様は味噌汁を完食していた。気を遣って完食してくれたと思うと、胸にぐっと込み上げるものがあった。カンナは、元いた世界に帰ったら父に料理のお礼を言いたいと思ってしまった。時には文句を言ったり、残していた事に罪悪感を刺激されていた。怒って父にコーンスープを投げつけた事もあった。本当に自分は馬鹿だと思った。
「ところで、レンの様子はどうかい?」
「え? レン?」
突然レンに話題になり、カンナは目を瞬かせた。
「別に変わりないはずですよ」
「いや、お前が家出した頃、レンの奇妙な姿を見た事があるんだ」
ここで公爵様が咳払いをし、事情を話してくれた。
仕事でこの屋敷の地下室に向かったところ、地下室にいるレンを見たそうだ。レンはなぜか、ゾンビか幽霊的なものをどっさりと引き連れていたそうだった。
「幽霊って……」
「それも奇妙な幽霊なんだよ。この国にいる娘ではなく、黒髪で男みたいなズボンを着ている幽霊で……」
公爵様は、スケッチブックに絵を描いてみせてくれた。さすが公爵様というべきか、多才なようで絵も上手だった。
「これが幽霊?」
「そうだ」
絵はどう見ても現代の日本人女性だった。日本人らしく黒髪で薄い顔。その上、小柄でO脚でヨタヨタした姿勢だ。そんな幽霊を引き連れているレンってどういう事?
「この絵をもらってもいいですか?」
「いいぞ」
「ありがとう。レンは本当にどういう人なんですか?」
「魔術師という噂もあるんだ」
「え……」
確かこの国は魔術が発達し、魔術師もいのが一般的だが。
「私もアイツを怪しいと思って何度もクビにしようとしたんだ。でもそのたびに記憶を操られたみたいで……」
そう言いかけた公爵様は、気を失ったように眠ってしまった。
「公爵様!」
そう叫ぶが返事はなく、いびきをかきながら眠ってしまった。
どういう事?
レンが公爵様の記憶を操っているのは、確かのようだった。だとしたらレンは何かを隠している可能性が高い。
それに日本人女性の幽霊を引き連れていたってどういう事?
もしかしたらレンが元いる世界に帰る方法を知っていたりしないだろうか。
今はレンについて調べるのが、一番良いようだ。
「神様、イエス様……」
気づくとカンナは祈っていた。自分は罪深くて頼りない。結局頼れるのは神様以外いないようだった。
同時に神様がいないこに世界の魅力が薄れてきてしまった。
早く帰りたくなった。
公爵様は、手抜き料理をとても喜んでいた。
公爵様の部屋に行き、こうして食べさせたわけだが、泣いて喜んでいた。公爵様はカンナと二人きりで話したいというので、レンの姿はなかった。
「単なる味噌汁ですよ。そんな喜ばなくても……」
褒められているのに全く嬉しくなかった。
その理由はすぐわかる。こんなご都合主義な状況でなんの苦労もなく作った料理を褒められても、戸惑うだけだ。むしろ、ちょっとバカにされてる気分にもなってしまう。それはカンナの思い込みではあるが、公爵様は幼稚園児でも誉めているようにも見えてしまった。
「メリアも少し食べるかい?」
「え、ええ」
小皿に取り分けた味噌汁を公爵様から受け取った。
本当に子供扱いされているようだ。ただ、公爵様の優しさが伝わり、文句を心の中で呟いていた自分は恥ずかしくなってきた。
そういえば父の恵理也ともこんな風に一緒に鍋やおでんを食べた事があった。決して裕福ではない家庭だったが、たまに食べるそれはご馳走だった。鍋の日は朝から仕込みをし、ちょっとしたイベントでもあった。
このご都合主義世界に染まっていていいんだろうかと罪悪感ももちはじめた。母が死んでから父は料理にも苦労していた。よく失敗もしていて、教会のベテラン主婦から料理を習いに行っていた事も思い出す。
それに比べて自分は、今の自分は何の努力も工夫もせず、公爵様に褒められている。
野菜も肉も誰かが切ったもので、味噌も出汁もメリアが用意したものだ。自分は下拵えすらしていない。一言で言えば他人の褌で相撲を取っている状態で、褒められても全く嬉しくない。こう言ったシチュエーションで日本料理を作り褒められている漫画はよく見たが、いざ自分がその立場に立つと、別に嬉しくはない。
「メリア、どうしたんだ?」
「いえ、何でも無いです」
公爵様には誤解を受けそうだったので、カンナは無理矢理笑顔を作った。
ご都合主義世界で、簡単に料理も褒められた。状況はかなり甘いのに、なぜか全く嬉しく無い。むしろ、早く元いた世界に帰った方が良いのでは無いかと考え初めていた。
目の前に優しい公爵様はいるが、自分は本当にメリアお嬢様ではない。急に豪華な公爵家の館やドレスもチープに見えてきてしまった。豪華に飾り立ててはいるが、フェイクのようだ。ドラマや映画のセットの中にいるような気分になってくる。
口に味噌汁を含んで食べたが、全く美味しくない。公爵様が喜んでいるのも、気を遣っている可能性もありそうだった。子供が一生懸命ドヤ顔していたら、大人は苦笑しつつもノリを合わせてあげるというものだ。確か日本人以外の人からすると、味噌汁の匂いは苦手だという感想も多いという。やはり公爵様が気を遣って食べてくれている可能性が高い。本当はまずいと思ってるかもしれない。
自分は子供じゃないかと思い始めた。というか罪人。
聖書では全ての人が罪人とされている。神様を忘れ、好き勝手に生きる事を罪という。今も少女漫画世界で夢見ている状況は、どう考えても罪深い。
前にゲームや漫画にハマり過ぎて反省したはずだったが、そうそう簡単に自分の性質は変わっていないようで恥ずかしくもなってきた。クリスチャンになったからと言って、完全に清く正しくボーンアゲインするわけでもない。根強く残る罪の性質と向き合い、神様に祈り助けて貰わないとダメみたいだ。
気づくと、公爵様は味噌汁を完食していた。気を遣って完食してくれたと思うと、胸にぐっと込み上げるものがあった。カンナは、元いた世界に帰ったら父に料理のお礼を言いたいと思ってしまった。時には文句を言ったり、残していた事に罪悪感を刺激されていた。怒って父にコーンスープを投げつけた事もあった。本当に自分は馬鹿だと思った。
「ところで、レンの様子はどうかい?」
「え? レン?」
突然レンに話題になり、カンナは目を瞬かせた。
「別に変わりないはずですよ」
「いや、お前が家出した頃、レンの奇妙な姿を見た事があるんだ」
ここで公爵様が咳払いをし、事情を話してくれた。
仕事でこの屋敷の地下室に向かったところ、地下室にいるレンを見たそうだ。レンはなぜか、ゾンビか幽霊的なものをどっさりと引き連れていたそうだった。
「幽霊って……」
「それも奇妙な幽霊なんだよ。この国にいる娘ではなく、黒髪で男みたいなズボンを着ている幽霊で……」
公爵様は、スケッチブックに絵を描いてみせてくれた。さすが公爵様というべきか、多才なようで絵も上手だった。
「これが幽霊?」
「そうだ」
絵はどう見ても現代の日本人女性だった。日本人らしく黒髪で薄い顔。その上、小柄でO脚でヨタヨタした姿勢だ。そんな幽霊を引き連れているレンってどういう事?
「この絵をもらってもいいですか?」
「いいぞ」
「ありがとう。レンは本当にどういう人なんですか?」
「魔術師という噂もあるんだ」
「え……」
確かこの国は魔術が発達し、魔術師もいのが一般的だが。
「私もアイツを怪しいと思って何度もクビにしようとしたんだ。でもそのたびに記憶を操られたみたいで……」
そう言いかけた公爵様は、気を失ったように眠ってしまった。
「公爵様!」
そう叫ぶが返事はなく、いびきをかきながら眠ってしまった。
どういう事?
レンが公爵様の記憶を操っているのは、確かのようだった。だとしたらレンは何かを隠している可能性が高い。
それに日本人女性の幽霊を引き連れていたってどういう事?
もしかしたらレンが元いる世界に帰る方法を知っていたりしないだろうか。
今はレンについて調べるのが、一番良いようだ。
「神様、イエス様……」
気づくとカンナは祈っていた。自分は罪深くて頼りない。結局頼れるのは神様以外いないようだった。
同時に神様がいないこに世界の魅力が薄れてきてしまった。
早く帰りたくなった。
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