第2話 未来
文字数 1,439文字
「えーっと……それでは集会を始めます。今年の十六歳代表、林アキラと申します。マイナンバーは5520です。県内の十六歳の皆さん、どうぞ忖度ない意見を聞かせて下さい。宜しくお願いします」
パソコンの画面にはマイナンバーのバッジを付けた十六歳の面々が並んでいる。毎年、偶数歳の集会が全国のあちこちで開かれている。家族の問題、学校の問題、地域の問題など年齢に合った課題を集めて皆で解決していこうという趣旨で国が推進している政策の一環だ。自殺を防いだり地域の問題をいち早く解決できたりと成果を着実にあげているようだ。大きな問題は国全体で話し合う。少しでも皆が安全にそして幸せに暮らしていける日本にしようというスローガンを掲げて活動が継続されている。
僕は服飾の大学を目指している。高校は家から近い普通科へ進んだが、中学生の頃から将来は服飾の道へ進みたいと考えるようになった。年の離れた姉がいて、小さい頃から服や沢山のアクセサリーが身近にあった。服をデッサンして周囲に発表する事で自信をつけ、最近ようやくデザイナーになると決意したばかりだ。
両親は教師を退職して今はやりたかったことを満喫しているのだとかーー
父はハウスマジシャンだ。地域のイベントなどで小さな子供を対象にマジックショーを開催している。みんながその一瞬だけでも笑顔になってくれたら幸せだと自らも人生を楽しんでいるようだ。
母は趣味のカラオケを日々楽しんでいる。
子供の頃から勉強がよくできた姉は医者になりたいと医大へ進学した。そしてこの春、夢を叶えた。
僕の家族はそれぞれベクトルが違う方向へ向いているようで実は仲が良かったりする。たまに揃う食卓は賑やかだ。
両親はいつも子供の意思を尊重してくれた。だからデザイナーになりたいと相談した時も反対はされなかった。自分で選んだ道ならば一生懸命に生きなさいとーー
夜中、父が珍しくリビングで一人、ウイスキーを飲んでいた。
「眠れないの?」
「あぁ……昼間、五十年ぶりに同窓会があってな。タイムカプセルを開けたんだよ。二十年後の君へーーという……パイロットになると書いてあったよ。あの頃はそんな夢を見てみていたんだな。視力が悪くて夢を早々に諦めなければならなかった時は悔しくてな……それでな、その中に自殺した幼馴染の夢があってな。皆で開けてみて驚いたんだ。彼の家は代々医者でな。でもそこには医者の文字を消してデザイナーと書かれていたんだよ。当時、女っぽい彼の事を気持ち悪いと皆、無視していた……でも父さんは幼稚園の頃、一緒に遊んだ記憶があるんだ。十六歳の父さんは違う道を探し、時を同じくして十六歳の彼は夢を完全に諦めた……」
「それで眠れなかったんだ……でも父さんのせいじゃないだろう?」
「彼の人生は十六歳で終わった。でも父さんは生きている。人生ってなんなんだろうな……」
「僕は後悔しないように生きるよ」
「そうだな。石が転がるように生きてみるのも案外悪いことじゃないのかもな。もし夢が叶ったら、いろんな理由で夢を諦めた人達の事を考えてみてくれ……」
父さんは一口ウイスキーを飲んだ。
「お姉ちゃんがどうして医者を目指したか知ってるか?」
「いや……」
「高校生の時、親友を亡くしたんだ。そんな経験をした人間は強いな……アキラに話したら気分が楽になったよ……先に休むよ……おやすみ……」
父さんはウイスキーのグラスをそのままに寝室へ消えた。
僕はグラスの氷が溶けていくのをしばらく見つめていた。
パソコンの画面にはマイナンバーのバッジを付けた十六歳の面々が並んでいる。毎年、偶数歳の集会が全国のあちこちで開かれている。家族の問題、学校の問題、地域の問題など年齢に合った課題を集めて皆で解決していこうという趣旨で国が推進している政策の一環だ。自殺を防いだり地域の問題をいち早く解決できたりと成果を着実にあげているようだ。大きな問題は国全体で話し合う。少しでも皆が安全にそして幸せに暮らしていける日本にしようというスローガンを掲げて活動が継続されている。
僕は服飾の大学を目指している。高校は家から近い普通科へ進んだが、中学生の頃から将来は服飾の道へ進みたいと考えるようになった。年の離れた姉がいて、小さい頃から服や沢山のアクセサリーが身近にあった。服をデッサンして周囲に発表する事で自信をつけ、最近ようやくデザイナーになると決意したばかりだ。
両親は教師を退職して今はやりたかったことを満喫しているのだとかーー
父はハウスマジシャンだ。地域のイベントなどで小さな子供を対象にマジックショーを開催している。みんながその一瞬だけでも笑顔になってくれたら幸せだと自らも人生を楽しんでいるようだ。
母は趣味のカラオケを日々楽しんでいる。
子供の頃から勉強がよくできた姉は医者になりたいと医大へ進学した。そしてこの春、夢を叶えた。
僕の家族はそれぞれベクトルが違う方向へ向いているようで実は仲が良かったりする。たまに揃う食卓は賑やかだ。
両親はいつも子供の意思を尊重してくれた。だからデザイナーになりたいと相談した時も反対はされなかった。自分で選んだ道ならば一生懸命に生きなさいとーー
夜中、父が珍しくリビングで一人、ウイスキーを飲んでいた。
「眠れないの?」
「あぁ……昼間、五十年ぶりに同窓会があってな。タイムカプセルを開けたんだよ。二十年後の君へーーという……パイロットになると書いてあったよ。あの頃はそんな夢を見てみていたんだな。視力が悪くて夢を早々に諦めなければならなかった時は悔しくてな……それでな、その中に自殺した幼馴染の夢があってな。皆で開けてみて驚いたんだ。彼の家は代々医者でな。でもそこには医者の文字を消してデザイナーと書かれていたんだよ。当時、女っぽい彼の事を気持ち悪いと皆、無視していた……でも父さんは幼稚園の頃、一緒に遊んだ記憶があるんだ。十六歳の父さんは違う道を探し、時を同じくして十六歳の彼は夢を完全に諦めた……」
「それで眠れなかったんだ……でも父さんのせいじゃないだろう?」
「彼の人生は十六歳で終わった。でも父さんは生きている。人生ってなんなんだろうな……」
「僕は後悔しないように生きるよ」
「そうだな。石が転がるように生きてみるのも案外悪いことじゃないのかもな。もし夢が叶ったら、いろんな理由で夢を諦めた人達の事を考えてみてくれ……」
父さんは一口ウイスキーを飲んだ。
「お姉ちゃんがどうして医者を目指したか知ってるか?」
「いや……」
「高校生の時、親友を亡くしたんだ。そんな経験をした人間は強いな……アキラに話したら気分が楽になったよ……先に休むよ……おやすみ……」
父さんはウイスキーのグラスをそのままに寝室へ消えた。
僕はグラスの氷が溶けていくのをしばらく見つめていた。