第5話(4)

エピソード文字数 2,258文字

「先程予想外と評しましたが、相手はその上を行っています。……アタシの封印を解いて数を減らさないと、勝ち目はありませんね」

 魅条さんは頭部に手を伸ばし、しゅるりとシニョンを解く。あの人はそうやると、溜めているパワーが解放され――丸1日異能を使えなくなるが、1時間だけ爆発的に強くなるらしい。

「アタシの力は、周囲にも被害を及ぼします。自分だけ残るのは納得できないでしょうが、そちらで見守っていてください」
「…………そう、するよ。必ず、元気に戻ってきてね」
「はい。アタシがいないと、貴男は何も出来ませんから」

 神蔵さんと魅条さんは抱擁を交わし、チャイナ服の美女は正面を向く。
 にゅむぅ。ゆーせーくーん、俺達まるで悪者だよぉー。

「……魔王使いチームさん、参りますっ。『龍神乱舞(りゅうじんらんぶ)』!」

 彼女が両手を左右に広げると、魅条さんの周りに2体の龍が出現。やがてそれは、彼女の周囲を縦と横に高速で回転し始め――あの人を中心として半径約10メートルの、龍によるバリアーが形成された。

「『龍神乱舞』は、攻防一体の奥義っ。このバリアはあらゆる攻撃を掻き消し、触れた者を傷付けます!」

 魅条さんはグッと膝を曲げ、強く発した語尾を起爆剤にしてスタート。拳銃から放たれた弾丸の如き速さで、周りを破壊しながら迫ってくる。

「魅里ちゃんのソレは以前、進軍してきた小隊を一つ一気に葬った! 少なくとも、一人は一瞬で倒れるよ!」
「と言っちゃったら、誰も倒れないんだよなぁ。フュル」
「やるぜよ師匠っ。『無(む)の回帰(かいき)』!」

 勇者魔法使いが、大仰に杖を振る。すると彼女がそうしただけで、だ。魅条さんを庇護する刃となっていた龍は、消滅してしまった。

「アタシの奥義が、消えたっ!? 一体何が……っ」
「コイツが使用したのは、魔法系統を『はじまり』に回帰させる――発動する前にしてしまう魔法。要するに、魔法関連のモンを全て無効化できるのさ」

 俺はしたり顔を作り、ここでガシッ。目の前まで来ていた魅条さんの手首を掴む。
 皆様、大変お待たせ致しました。究極の揺さぶりタイム、本番の幕開けです!

「きゃっ!? なにをするの!」
「大将戦の前に、ちょっとした余興を開こうかねぇ。シズナ、あれをやれ」
「畏まりました。『ドレイン・ボール』」

 魔法使い魔王がパチンと左の指を鳴らすと、魅条さんの周囲に薄くて黒い球体が発生。ソレは彼女を包み込んで浮かび上がり、高さ50センチほどで止まった。

「な、なんだその球は……っ。魅里ちゃんに何をした!」
「こいつは、中にいる人間の体力を吸ってくんだ。ジワジワと苦しみ転送される様をご覧ください、ってこったな」

 俺はSっ気全開で舌なめずりをして、内心で『しまったぁぁぁ! このシナリオはマズイぞ!』と叫ぶ。
 でも実行してしまったので、もうどうしようもない。神蔵さんがそこに気付かないことを願って、白金化作戦を続けよう。

「……シズナ、ショーの始まりだ。吸収させろ」
「はい。吸収、開始」
「ぁぅっ! からだの力が、抜けて、いきます……!」

 魅条さんは顔を歪め、少しよろける芝居をする。
 この魔王術は特に桁外れで、並みの生き物なら0・1秒で死亡しちゃいますからね。発動させたフリをしているのです。

「くっ、このままでは命が危ない……! 魅里ちゃんっ、今助けるよ!!
「シズナ、まだアイツの出番じゃない。足を止めておけ」
「仰せのままに。『ストップ・シャドウ』」

 デニールさんに用いた魔王術で、神蔵さんを動けなくしておく。彼にはそこでじっくりと、悲劇(お芝居)を見て貰わないといけないのであーる。

「おいおい、折角のショーなんだぞ。邪魔をするなよ」
「っっ、これがショーだって……っ? 色紙優星、ふざけるな!」
「王子様、俺はふざけてなんかいねーよ。人が苦しむトコを見るのは最高で、立派なショーじゃねーか」

 立てなくなってきた(ように演じてる)魅条さんを眺め、バッと両手を広げる。
 シナリオを執筆した支下執事曰く、この仕草はTHE・悪。こないだ観た映画で悪役がやっていて、とても嫌な印象を受けたそうです。

「ぅ……。はぁ、はぁ、はぁ…………王器、さま……」
「魅里ちゃんっ! 魅里ちゃんっっ!」
「ぁ、ぁぁ……。力が、入らなくなって、きました……」

 彼女はついに立っていられなくなり、女の子座りになる。
 おお、絶妙な弱り方だ。これはナイス演技です。

「く、くる、しい……。王器様、たす、けて……っ」
「…………………………悔しいし情けないけど、僕には無理だ……。だから――」

 彼は、空を見上げた。ベロリンガルこと、審判がいる空を見上げた。

「僕に助けられないなら、周りに助けてもらう! 審判さんっ、魅条魅里をリタイヤさせま――」
「アタシはギブアップしません!!

 魅条さんが、慌てて神蔵さんを止める。
 お、起きてしまった。恐れていたことが、起きてしまったよ……っ。

(私は――私達は、うっかりしていたわ)
(にゅ、にゅむ……)
(いくらルール先生を覚えるのが苦手でも、直前に使ったら覚えちゅうぜよ……)

 そう。神蔵さんはギブアップ宣言をしたばかりなので、魅条さんをギブアップさせてくるのだ。

『マズイな。超マズイな優星』

 ああ、謎の声。これ、どうしよ。
 どうやって白金化させよう……。
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登場人物紹介

色紙優星 16歳の少年


高知県生まれの主人公。

リリウという神様の聞き間違えで魔王使いになってしまい、おまけに『究極奥義』と呼ばれる力を何個も持ってしまった高校生。優しく他人想いなのだが、彼はとあるセンスが全くないのであった……。

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの能力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

プリースト神 年齢不明


茶操ユニが持つプリーストの杖に宿る、プリーストの神様。

実は……。

橙式エイリ 14歳の少女


伝説のモンスターテイマー、でありながら伝説の召喚士の能力を持つ。所謂スケバン然とした容姿と声を持つが、グループ最年少の中学生でみんなの妹的存在。でもレミアやフュルよりずっとまともで、ヤツらの方が妹的存在な気がする。

野菜が大好きで、とても詳しい。

タンザ・クー 年齢不明


橙式エイリの召喚獣で、俳句世界(はいくわーるど)の王女。

タンザが姓で、クーが名。

二万年後に、地球の傍に誕生する世界からやって来た。


色紙育月 16歳の少女


高知県大豊町在住の、優星の従妹。中学卒業と同時に本格的にピーマンの生産を始め、今ではテレビの取材を受けるほどになっている。


薄幸の美少女然とした容姿と、従兄想いの優しい性格が自慢の従妹です! by色紙優星

謎の声 年齢不明


優星にだけ聞こえる、不思議な声。

なぜか正体を明かそうとしない。

リリウ 神様


願いを聞き間違えて、優星を魔王使いにしてしまった神様。

神様の世界で流行しているゲームに夢中で、神様のお仕事はほとんどしない。

とってもダメな、神様(?)な神様。

麗平活美 16歳の少女


ストロベリーブロンドのドリルヘアーが特徴の、優星のクラスメイト。

お嬢様然とした容姿で気品があるように見えるが、非常に活発。実は……。

空霧雲海 16歳の少年


頼れる兄貴系の容姿と性格を持つ優星の同級生であり、悪友であり、重度のオタク。

作中に登場する名曲(迷曲)を作った人。

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