ハティナモン編(7)
エピソード文字数 2,343文字
その日の夕方。
宿に帰って来ていたナギとリンを、アビスとムジカ、そしてチャルターが訪ねて来た。
「みんなのおかげでね、コア・ステーション建設は白紙撤回させられそうだよ。アグル族のみんなの土地も、守れそうだ」
チャルターは上機嫌そうに赤い顔をして言った。
「誘拐された人達も帰って来れたし、何もかもみんなのおかげだよ!」
「すごいね、ナギ!」とアビス。
「やったねー、ナギー!」とムジカ。
ナギとアビス、ムジカは手を取りあって喜ぶ。リョータもはしゃいで飛び回る。リンは頬杖をついてそれを微笑ましく見ている。
「あの、さ、ムジカ、アビス、」
ナギが二人の手を握ったまま言う。何? と二人は首を傾げる。
「フロス、フロスは、今どこにいるの?」
アビスとムジカは顔を見合わせる。そう、もう一人の親友。
「そうだ、ナギ、フロスに会いに行ってあげてよ! フロスのいる国も大変みたいなんだ!」
アビスがそう言って、ナギの瞳を見つめた。
ナギはアビスにそう言われて、リンの顔を見た。この先どこに行けばいいのか、どこに行くべきなのか、ナギは全く知らない。リンは、知っているのだろうか。
少なくとも今日まで、ナギはただリンについて来た。イエスもノーもなく、ただそうするしかないと、びくびく怯えながらついて来た。
この先もそれでいいのだろうか。もっとも、ナギには行き先など決められない。リンに決めてもらうしか
「行きたいんでしょ?」
頬杖をついたまま、リンが言った。
「ナギ、アナタが管理者なんだから、アナタが決めていいのよ。アタシはアナタを手伝うだけだわ」
リンは手の平の上で、真っ紅なチェラシスをころころと転がす。自分が決める。なら、行こう。フロスのもとへ。フロスに会いに。
「え、と、どこにいるの、フロス?」
「南の島ー。ジオラモー」 ムジカが答えた。
ジオラモ。ナギはスコラで習った知識を思い出す。南の島、とても暑い国。青い海と、花サンゴの綺麗な島国。
「ジオラモの綺麗な花サンゴの海を潰そうとしてる人達がいるんだって! ナギ、行ってあげて! フロスも喜ぶよ!」
「ジオラモなら、是非お願いしたいな」
チャルターが発言した。
「実は、そこでもコア・ステーション建設計画が持ち上がってるんだ。そして、ノートンの話じゃ、またしてもモンスターがらみの事件が起きてるとか」
モンスターがらみ! リンとナギは目を合わせる。
「決まりね、ナギ。明日にでも出発しましょ」
とん。リンの杖が床を突く。
「それで、お願いついでにもう一つ、いいかな?」
チャルターが言う。
「入っておいで、ルナちゃん!」
チャルターに呼ばれて現れたのは、銀の髪と瞳を持つ、ゲオ博士の娘だった。
?
気のせいだろうか?
部屋に入って来たルナを見たリンの瞳に、ふと、翳りが射した気がした。
ルナちゃんがリンの怪我を不思議な力で治してくれたんだよ。
アロカーヌの森での戦いの後、ナギはリンにそう言った。その時リンは、とても複雑な顔をした。複雑な表情で、すぐにはお礼も言わず、ただルナの顔を見つめたのだった。
確かに、その後「ありがと」とは言った。でも。
そして今も。どうして? リンは、ルナに何を感じているのだろう?
「実は、ルナちゃんがお二人のお手伝いをしたいって言うんです。で。出来れば、連れて行っていただけないかなと思って」
「よろしくおねがいします。ボクは、おとうさまを殺したひとたちがゆるせないのです。回復の魔法ならつかえます。きっと、おやくにたちます」
ルナが頭を下げる。銀の髪が揺れて、空気が銀の雫になる。
「リン……いいかな……」
「アタシは別に。アナタが決めればいいわ」
どうしたの、リン? 寂しいよ、そんな言い方……
「あ、じゃ、じゃあルナさん、こちらこそ、よろしく」
ナギはルナに笑いかけて、右手を差し出す。
「ルナでいいです。よろしくおねがいします、ナギさん。よろしくおねがいします、リンさん」
ルナはそう言って、ナギと握手した。リンにも手を差し出す。リンも、「よろしく」と、一回り小さなルナの手を握った。
「あ。それから、アグル族のみんなから預かって来たものがあるんです。これ。一つしかないけど、とても貴重なものだから、大切に使ってください」
チャルターはそう言って、小さな巾着をナギに渡した。見てみると、木の実が一つ、入っている。
「命の実ですよ。食べればすぐに、体力が回復するんだ」
「ナギ、私達からも!」
アビスは小さな種を5粒ほど、ムジカは青いオカリナをナギに手渡した。
「その種はリョータちゃんにプレゼントしてね! 食べるとすごいパワーが出るんだよ! ツバメさんみたいに高く速く飛べるよ!」
「そのオカリナはねー、みんなを元気にするんだよー。ナギ、ピンチの時に吹いてみてー」
ムジカはそう言うが、ナギはオカリナを不思議そうに見ながら言う。
「私、オカリナ吹いたことないよ」
「大丈夫、簡単だからー。ちょっと練習すれば吹けるようになるよー」
「う、うん、練習してみる。みんな、ありがとう。フロスに、会って来るね」
南の国、ジオラモへ。ナギは決意した。
「また、会えるよね、アビス、ムジカ」
二人は力強く頷く。
「ナギ、絶対、絶対、パセム様に会えるからね! 元気出して!」 そう言ってくれたのは、アビス。
「うん、ありがとう。じゃ、行ってくるね」
ナギは、二人と固く手を握った。握り合った手が、とても温かかった。
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宿に帰って来ていたナギとリンを、アビスとムジカ、そしてチャルターが訪ねて来た。
「みんなのおかげでね、コア・ステーション建設は白紙撤回させられそうだよ。アグル族のみんなの土地も、守れそうだ」
チャルターは上機嫌そうに赤い顔をして言った。
「誘拐された人達も帰って来れたし、何もかもみんなのおかげだよ!」
「すごいね、ナギ!」とアビス。
「やったねー、ナギー!」とムジカ。
ナギとアビス、ムジカは手を取りあって喜ぶ。リョータもはしゃいで飛び回る。リンは頬杖をついてそれを微笑ましく見ている。
「あの、さ、ムジカ、アビス、」
ナギが二人の手を握ったまま言う。何? と二人は首を傾げる。
「フロス、フロスは、今どこにいるの?」
アビスとムジカは顔を見合わせる。そう、もう一人の親友。
「そうだ、ナギ、フロスに会いに行ってあげてよ! フロスのいる国も大変みたいなんだ!」
アビスがそう言って、ナギの瞳を見つめた。
ナギはアビスにそう言われて、リンの顔を見た。この先どこに行けばいいのか、どこに行くべきなのか、ナギは全く知らない。リンは、知っているのだろうか。
少なくとも今日まで、ナギはただリンについて来た。イエスもノーもなく、ただそうするしかないと、びくびく怯えながらついて来た。
この先もそれでいいのだろうか。もっとも、ナギには行き先など決められない。リンに決めてもらうしか
「行きたいんでしょ?」
頬杖をついたまま、リンが言った。
「ナギ、アナタが管理者なんだから、アナタが決めていいのよ。アタシはアナタを手伝うだけだわ」
リンは手の平の上で、真っ紅なチェラシスをころころと転がす。自分が決める。なら、行こう。フロスのもとへ。フロスに会いに。
「え、と、どこにいるの、フロス?」
「南の島ー。ジオラモー」 ムジカが答えた。
ジオラモ。ナギはスコラで習った知識を思い出す。南の島、とても暑い国。青い海と、花サンゴの綺麗な島国。
「ジオラモの綺麗な花サンゴの海を潰そうとしてる人達がいるんだって! ナギ、行ってあげて! フロスも喜ぶよ!」
「ジオラモなら、是非お願いしたいな」
チャルターが発言した。
「実は、そこでもコア・ステーション建設計画が持ち上がってるんだ。そして、ノートンの話じゃ、またしてもモンスターがらみの事件が起きてるとか」
モンスターがらみ! リンとナギは目を合わせる。
「決まりね、ナギ。明日にでも出発しましょ」
とん。リンの杖が床を突く。
「それで、お願いついでにもう一つ、いいかな?」
チャルターが言う。
「入っておいで、ルナちゃん!」
チャルターに呼ばれて現れたのは、銀の髪と瞳を持つ、ゲオ博士の娘だった。
?
気のせいだろうか?
部屋に入って来たルナを見たリンの瞳に、ふと、翳りが射した気がした。
ルナちゃんがリンの怪我を不思議な力で治してくれたんだよ。
アロカーヌの森での戦いの後、ナギはリンにそう言った。その時リンは、とても複雑な顔をした。複雑な表情で、すぐにはお礼も言わず、ただルナの顔を見つめたのだった。
確かに、その後「ありがと」とは言った。でも。
そして今も。どうして? リンは、ルナに何を感じているのだろう?
「実は、ルナちゃんがお二人のお手伝いをしたいって言うんです。で。出来れば、連れて行っていただけないかなと思って」
「よろしくおねがいします。ボクは、おとうさまを殺したひとたちがゆるせないのです。回復の魔法ならつかえます。きっと、おやくにたちます」
ルナが頭を下げる。銀の髪が揺れて、空気が銀の雫になる。
「リン……いいかな……」
「アタシは別に。アナタが決めればいいわ」
どうしたの、リン? 寂しいよ、そんな言い方……
「あ、じゃ、じゃあルナさん、こちらこそ、よろしく」
ナギはルナに笑いかけて、右手を差し出す。
「ルナでいいです。よろしくおねがいします、ナギさん。よろしくおねがいします、リンさん」
ルナはそう言って、ナギと握手した。リンにも手を差し出す。リンも、「よろしく」と、一回り小さなルナの手を握った。
「あ。それから、アグル族のみんなから預かって来たものがあるんです。これ。一つしかないけど、とても貴重なものだから、大切に使ってください」
チャルターはそう言って、小さな巾着をナギに渡した。見てみると、木の実が一つ、入っている。
「命の実ですよ。食べればすぐに、体力が回復するんだ」
「ナギ、私達からも!」
アビスは小さな種を5粒ほど、ムジカは青いオカリナをナギに手渡した。
「その種はリョータちゃんにプレゼントしてね! 食べるとすごいパワーが出るんだよ! ツバメさんみたいに高く速く飛べるよ!」
「そのオカリナはねー、みんなを元気にするんだよー。ナギ、ピンチの時に吹いてみてー」
ムジカはそう言うが、ナギはオカリナを不思議そうに見ながら言う。
「私、オカリナ吹いたことないよ」
「大丈夫、簡単だからー。ちょっと練習すれば吹けるようになるよー」
「う、うん、練習してみる。みんな、ありがとう。フロスに、会って来るね」
南の国、ジオラモへ。ナギは決意した。
「また、会えるよね、アビス、ムジカ」
二人は力強く頷く。
「ナギ、絶対、絶対、パセム様に会えるからね! 元気出して!」 そう言ってくれたのは、アビス。
「うん、ありがとう。じゃ、行ってくるね」
ナギは、二人と固く手を握った。握り合った手が、とても温かかった。
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