第3話 対話

文字数 1,969文字

[人工生命管理局本部地下2階会議室]
「今回の事件をもう一度整理します。」
課長がレーザーポインターを持ってホワイトボードの前に立った。
「まず、今回の事件は川浜の中華街による暴力団が運営する風俗店で慰安用アンドロイドへの集団感染で発生しました。
昨日、一般人からの通報を受け、調査を行ったところ、3体のアンドロイドへの集団感染と人間を媒介主とする新型のウィルスのが確認され現在に至ります。」
話し終えると、短いため息をつき、気を持ち直す。
「そんな馬鹿げた話があるわけないだろ!もう一度徹底的に調べ上げろ!そんなことがあっていいはずがない!!」
副局長が声を荒げて怒鳴った。
机には怒りとともに衝撃が伝わり、映話越しからも副局長の恐怖と焦りがわかる。
遠くにいるせいか、少しばかりノイズが混じる。
副局長が映話を切ると、報告会が終わった。
電気がつき、感情を押し殺している課長が口を開く。
「さて、浜地と李はもう一度事件現場に向かえ。被害者の身辺を調べる必要がある。田中と輝井はリストアップされた団体をもう一度調べ上げろ」
「今度はどこに行ってんだ?」
課長の話を無視して、の福田に質問する。
「なんでも、孫にペンギンを見せてやりたくて、南極まで飛んでるらしい。経費から落としてるって噂だ。」
「最先端をいく仕事なのに、老人どもにでかい顔されちゃたまらねえな。」
福田は話の種を咲かせるかのように話すが、佐竹は内心怒りを感じていた。
朝早くに出勤して、1日中デスクで報告書を書かされる。
任務が入って来れば、外に出て、調査・検疫をしなくちゃいけない。
時には、命を張ってアンドロイドを処理する必要もある。
そんな仕事をして、手取りは月40万。
この不当な扱いに置かれている自身と南極に家族と旅行している副局長を比べると、決意するかのように拳を固く握った。
「佐竹、話がある。」
会議が終わり、自分の仕事へと向かう同僚を尻目に、課長の元へと向かった。
「お前にはこの件を引き継いでもらう。」
「最初からそのつもりでしたよ。」
苛立った様子で返す。
「これから特研に向かってもらう。今回のウィルスに関しての解析結果と報告書をもらってこい。」
「了解です。ところで、坂田は?」
「今は南の方で潜入中だ。なんでもアンドロイドが2年潜伏しているらしい。とにかく旅行以外で南極に行きたくなければ今すぐに仕事に取り掛かるんだな。」
渋々、会議室を後にすると、エレベーターに乗った。
かすかに風が吹いた気がした。
車のドアを開ける。
[特務人工生命秘密研究所]
受付には見たことのない型のアンドロイドが真っ白な服を着て対応していた。
「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「人工生命管理局検疫課の佐竹だ。」
「佐竹様ですね。お伺いしています。ただいま、職員のものをお呼びいたしました。あちらの応接室にてお待ちください。」
そこからは来客に対するおもてなしの感情は消え去っていた。
受付から渡されたプラカードを首にかけて、応接室へと向かう。
検問の機械を通ると、赤いタンプが点灯して、警告音が鳴る。
警備員が駆け寄ってきた。
「すみませんが、武器の携帯は禁止されています。」
青いトレーが出される。
「管理局員だ。通してくれ。」
「そう言われましても、こちらも仕事なので。」
諦めてホルスターから銃を取り出し、トレーの上に乗せる。
もう一度、検問機を通ると、赤ランプが点灯して警告音が鳴り響いた。
「すみませんが、弾丸やスタンガン等の形態も禁止されているので、こちらに出していただけますか。」

「お待たせしました。職員の福本です。」
汗を拭きながら太り気味の若者が入室してくる。
鼻息が荒く、服の皺などからも、焦って飛び出してきたことが窺える。
白衣に黒の横縞が入ったオレンジのトレーナーを着込んだその格好はなんとも滑稽で、少年時代のガキ大将を連想させる。
「管理局の佐竹です。」
報告書を受けとろうと手を出すが、若者はそれを握手と勘違いして、手を握ってくる。
ふくよかな手は汗で湿っていて、蒸し蒸しとしていた。
手を離すと今度は口頭で伝える。
「報告書をお願いできますか?」
「はい!こちらに。」
「今ここでみても?」
「どうぞ。」
USBメモリーが差し出された。
体外インプラントのUSBスロットに差し込んで確認をする。
『鑑識結果報告書.txt』
「確かに確認しました。」
USBを取り出し、ポケットにしまう。
「それにしても変なウィルスを持ってきてくれましたね。鑑識するの大変でしたよ。」
「ま、とにかく、後でじっくりと読ませていただきます。」
受付の自動挨拶を無視して外へ出ると、車に乗った。
深くため息をつくと、無線が鳴る。
「サウスにて銃撃事件発生。付近の局員は現場に急行せよ。」
目の前にマップがでる。
ここから1kmほどのところだった。
アクセルを踏み込んで、車を急発進させる。
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