第12話 強気な泣き虫

文字数 1,149文字

ユ「何やってんだ!」
そう怒鳴りながら入ってくるユウ
あぁ、怒った顔がアヤメにそっくりだ

主「鍵かけてたはず」
ユ「かかってなかった
 そんなことより、何やってんだよ!!」
主「アヤメがいた、いたんだよ!」

バン
頬をおもいきりぶたれた
優しいユウはこんな事しない、こんな事できないと思っていたから驚いた

ユ「やめろよ!」
ぶたれた頬に手をあるヒリヒリと痛い
でもそれ以上に
主「・・・・・・苦しいんだ」
そらしていた目をユウのもとへやる

そこには、耳まで真っ赤になって、しかめっ面で頬が少し膨らんでいる
見覚えがある、彼女も同じだった
泣く前の顔
泣くのを必死に我慢する顔

この顔を見るといつも後悔していた
そんな顔をさせたかったんじゃない
でも、俺の幼稚な行動や言葉がそうさせてしまうんだ

あっ、ユウ泣く
そう思ったときにはもう、ユウの目から大きな涙が一粒、また一粒と流れ出した
ユ「ぼく、だって、同じ、ように、苦しっ・・・」
優しくしてあげたいけど、今の俺にはそんな余裕はなく
主「違う、同じじゃない」
そう静かな口調で言ってしまった
そう、同じであってあるものか

ユ「同じ、だ… 姉ちゃん、がっ…悲しそうに、見つめて、くるんだ」
主「やっぱりいるんだアヤメは! そうなんだろ?」
涙を服で拭いながら一所懸命に話すユウの体を掴み、揺らす

ユ「やめてよ!ヒロキ君!」ユウが俺突き飛ばす
俺は尻もちをついた

ユ「違うんだよ‼…姉ちゃんはもういないんだよ!
 何度も夢にでてきて、助けてほしそうに僕を見るんだ!
 どうしてほしいのか聞くのに、何も答えてくれない
 姉ちゃんのもとに行きたいのに、足が進まない
 ぐっすり眠れたためしがない」
主「・・・」
ユ「僕じゃダメなんだ
 きっとヒロキ君じゃないとダメなんだ
 助けてよ!
 お願いだからどうにかしてよ!」

ユウが泣きながらしがみつく
体力が落ちていた俺は、ユウを支えきる事もできず、そのまま後ろへと倒れこむ
ユウの流した涙が俺の顔に飛んできて、頬をつたい流れ落ちる
ユウの助けを求めるような泣き声だけが部屋中に響き渡った

ユウの背中をさすりながらベランダから見える空を見た
そこにはまるで何事もないような、良い一日を過ごせそうなくらいの陽気な天気

気づかないふりをしていただけで、本当はこのままじゃいけないことぐらい自分でも分かっていた
彼女がいない事も、うすうす気づいてはいた
でも、帰ってくるんじゃないかという期待は捨てられなかった

何やってんだ、彼女の大切な弟をこんなにも苦しめて
その日、俺は彼女がいなくなって、初めて泣いた
やっと泣くことができた

本当だ
ユウが言った通り同じだ
主「俺たち、同じ、だな」
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