さよならをするために

文字数 526文字

「あんたなんてもう大嫌い!」ついカッとなったわたしは彼の頬にビンタを一発お見舞いした。

 ぴしゃんと乾いた音が彼の部屋じゅうに響きわたった。
 嫌なあんたにも、うじうじしたわたしにも、さようなら!
 わたしは心の内で絶叫した。
 さよならをするためには絶好の機会だったのよ!

「愛してるよぉ!」とつぜん彼はうわずった声でわたしをぎゅっと抱きしめた。「たまんねぇな!」
「ちょ、ちょっと……あんたビンタされて、なに抱きついてんのよぉ! このド変態!」わたしは力いっぱい彼の胸を押しのけながら叫んだ。「もうはなれて!」
「その高圧的態度は最高だよ! もっとぉ! その鋭い眼で、もっとぉ! もっとおれをさげすんでくれぇぇぇええええ!」すると彼は自分の腰の後ろに手をまわし、なにやら隠し持っている物をわたしの目の前に差し出そうとするのがわかった。「じゃじゃーん!」
「なによ!」わたしは眉間に皺をよせて叫んだ。

『ちびっこビンタ!』
『らぶらぶビンタ!』
『おしおきビンタ!』
『罵倒ビンタ百連発!』

 それは――M男向けのアダルトDVDだった……
 わたしは一瞬で青ざめた顔になった。
 イケメンの彼は満足げににんまりと笑った。






 


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