今は遠くて近い、貴方へ。
文字数 1,827文字
ワイルドストロベリー……というハーブをご存知ですか?
バラ科フラゴリア属。
和名・エゾヘビイチゴ。
別名・野苺。
のいちご、皆さんご存知かと思います。このハーブには、素敵な伝説がありました。
現在六月、丁度良いお話です。
「これね、これ」
「あー、この一番左のやつ」
「うん。お花、苺でしょ」
「ホントだ、でも、もう苺の季節終わったじゃん」
「ワイルドストロベリーはね、普通の苺と季節が違ってね、今からでも花が咲いて、実がなるんだよ」
「へー」
与えるお水は、お米のとぎ汁。エコだし、栄養もあるから御釜を抱えてベランダへ行くのが日課だ。
暑い季節なうえに、ここは直射日光が燦々と降り注ぐアパートの二階なので、足りない分は水道水で補った。
ワイルドストロベリー単独で育成せず、他四種のハーブと育てている。初夏の太陽の光を浴びたハーブ達は、ワサワサッ! と物凄い勢いで成長した。
葉っぱをそっとかきわけて覗き込むと、可憐な白い花が四つ、咲いている。他にも蕾があるから、もっと多くの花が咲くのだろう。
とても楽しみだ。
彼氏と水を与えつつ、じーっと、花を見た。
「これねぇ、不思議な話があるんだよー」
「苺の話?」
「そだよー。なんかね、ワイルドストロベリーの苗を購入して育て始めた人がね、一年でスピード結婚したんだって。それで、その育成してたワイルドストロベリーをね、たくさん増えたから、式に来た友達に何気なく配ったのね」
「うん」
「そしたらね、貰って育て始めた人達もね、次々と結婚していったんだって!」
「へぇー、結婚の花?」
「……っていう伝説がある、不思議なハーブなのだ」
ベランダの右上に、今年もスズメが巣を作った。
去年雛がベランダに落ちてきたから、今年は落ちてこないようにと願いつつ、毎日心配で覗いている。雛達の鳴き声が、今日も元気に聴こえているから大丈夫だろう。
私は思わず、笑った。
このワイルドストロベリーには、実がなるだろうか。
これだけ元気に育っているから、きっと数ヶ月もすれば可愛い実がぶら下がるに違いない。たくさん実ったら、ジャムにしてみよう。今から作り方を調べておかねば。
葉っぱも乾燥させて、ハーブティにしよう。香ばしくて美味しいから、たくさん作って常備茶にするのだ。自分で育てたハーブで作ると、また味も格別に違いない。
「日曜日、晴れるかなぁ」
現在、天気は超ご機嫌、晴天。
初夏を通り越して、真夏日じゃないかー、と突っ込みたくなるくらいの暑さ。
今度の日曜日苺狩りに出掛けるので、天気が不安だったりする。
ハウスなので天候は気にしなくてもよいけれど、どうせなら晴れた方が気分が良い。
終わりがけの、苺狩り。もう残り少ないだろうし、甘くないかもしれないけれど。
苺繋がりなのか、じつは普通の苺にも不思議な伝説があったりするのだ。この地区だけかもしれないけれど! 地区というか、私の回りだけかもしれないけれど!
苺狩りに彼氏と出掛けた私の友達は、その年にみんな結婚した。
驚くべきことに、全員。
無論、苺狩りに行っていなくても結婚している友達もいる。けれど、苺狩りに行って結婚した友達は、皆、幸せな家庭を築いているのだ。
これって……凄い事だと思う。
苺の、あの可愛らしい姿。二人で摘んで、二人で食べれば。
幸せな気分になれるから、かな。
そんなわけで私は、壁のカレンダーを何気なく見た。
苺狩り、の文字。初めて行く、彼氏との苺狩り。苺狩りなら、家族と行ったし友達とも行ったし。
けれど、そういえば彼氏と行ったことが過去になかった。
「結婚、出来るかな」
ぼそ、っと私は呟いた。
「出来るだろ、別に苺狩り行かなくても」
と、あなたが呟いた。
私は。
隣でカレンダーを見ていたあなたの手を取って、ぎゅっと、握ったのだ。
ベランダの、ワイルドハーブに願いを籠めて。日曜日の、苺狩りに祈りを籠めて。
大事な大事な、世界でたった一人のあなたと。
「これからも一緒に居られますように」
可愛い、可愛い、苺に願いを、祈りを。
「……さて、ワイルドストロベリーティーでも飲みますか! 自家製の」
私は、あなたに、笑った。
苺を、育てよう。
ベランダでも、お庭でも、苺を育てよう。
たくさん、たくさん、育てよう。
私と、あなたと、家族と一緒に。
緑の葉は、優しさを。
赤の実は、情熱を。
白の花は、安らぎを。
「届け、届け、私の想音」
目を閉じれば、苺を育てている私が見えた。
バラ科フラゴリア属。
和名・エゾヘビイチゴ。
別名・野苺。
のいちご、皆さんご存知かと思います。このハーブには、素敵な伝説がありました。
現在六月、丁度良いお話です。
「これね、これ」
「あー、この一番左のやつ」
「うん。お花、苺でしょ」
「ホントだ、でも、もう苺の季節終わったじゃん」
「ワイルドストロベリーはね、普通の苺と季節が違ってね、今からでも花が咲いて、実がなるんだよ」
「へー」
与えるお水は、お米のとぎ汁。エコだし、栄養もあるから御釜を抱えてベランダへ行くのが日課だ。
暑い季節なうえに、ここは直射日光が燦々と降り注ぐアパートの二階なので、足りない分は水道水で補った。
ワイルドストロベリー単独で育成せず、他四種のハーブと育てている。初夏の太陽の光を浴びたハーブ達は、ワサワサッ! と物凄い勢いで成長した。
葉っぱをそっとかきわけて覗き込むと、可憐な白い花が四つ、咲いている。他にも蕾があるから、もっと多くの花が咲くのだろう。
とても楽しみだ。
彼氏と水を与えつつ、じーっと、花を見た。
「これねぇ、不思議な話があるんだよー」
「苺の話?」
「そだよー。なんかね、ワイルドストロベリーの苗を購入して育て始めた人がね、一年でスピード結婚したんだって。それで、その育成してたワイルドストロベリーをね、たくさん増えたから、式に来た友達に何気なく配ったのね」
「うん」
「そしたらね、貰って育て始めた人達もね、次々と結婚していったんだって!」
「へぇー、結婚の花?」
「……っていう伝説がある、不思議なハーブなのだ」
ベランダの右上に、今年もスズメが巣を作った。
去年雛がベランダに落ちてきたから、今年は落ちてこないようにと願いつつ、毎日心配で覗いている。雛達の鳴き声が、今日も元気に聴こえているから大丈夫だろう。
私は思わず、笑った。
このワイルドストロベリーには、実がなるだろうか。
これだけ元気に育っているから、きっと数ヶ月もすれば可愛い実がぶら下がるに違いない。たくさん実ったら、ジャムにしてみよう。今から作り方を調べておかねば。
葉っぱも乾燥させて、ハーブティにしよう。香ばしくて美味しいから、たくさん作って常備茶にするのだ。自分で育てたハーブで作ると、また味も格別に違いない。
「日曜日、晴れるかなぁ」
現在、天気は超ご機嫌、晴天。
初夏を通り越して、真夏日じゃないかー、と突っ込みたくなるくらいの暑さ。
今度の日曜日苺狩りに出掛けるので、天気が不安だったりする。
ハウスなので天候は気にしなくてもよいけれど、どうせなら晴れた方が気分が良い。
終わりがけの、苺狩り。もう残り少ないだろうし、甘くないかもしれないけれど。
苺繋がりなのか、じつは普通の苺にも不思議な伝説があったりするのだ。この地区だけかもしれないけれど! 地区というか、私の回りだけかもしれないけれど!
苺狩りに彼氏と出掛けた私の友達は、その年にみんな結婚した。
驚くべきことに、全員。
無論、苺狩りに行っていなくても結婚している友達もいる。けれど、苺狩りに行って結婚した友達は、皆、幸せな家庭を築いているのだ。
これって……凄い事だと思う。
苺の、あの可愛らしい姿。二人で摘んで、二人で食べれば。
幸せな気分になれるから、かな。
そんなわけで私は、壁のカレンダーを何気なく見た。
苺狩り、の文字。初めて行く、彼氏との苺狩り。苺狩りなら、家族と行ったし友達とも行ったし。
けれど、そういえば彼氏と行ったことが過去になかった。
「結婚、出来るかな」
ぼそ、っと私は呟いた。
「出来るだろ、別に苺狩り行かなくても」
と、あなたが呟いた。
私は。
隣でカレンダーを見ていたあなたの手を取って、ぎゅっと、握ったのだ。
ベランダの、ワイルドハーブに願いを籠めて。日曜日の、苺狩りに祈りを籠めて。
大事な大事な、世界でたった一人のあなたと。
「これからも一緒に居られますように」
可愛い、可愛い、苺に願いを、祈りを。
「……さて、ワイルドストロベリーティーでも飲みますか! 自家製の」
私は、あなたに、笑った。
苺を、育てよう。
ベランダでも、お庭でも、苺を育てよう。
たくさん、たくさん、育てよう。
私と、あなたと、家族と一緒に。
緑の葉は、優しさを。
赤の実は、情熱を。
白の花は、安らぎを。
「届け、届け、私の想音」
目を閉じれば、苺を育てている私が見えた。