第1話 ひまわりの観察日記
文字数 2,653文字
夏休みといったら自由課題。
自由課題といったら、いかにも夏休みらしい『ひまわりの観察日記』しかないでしょ。
ハムスターの食べ残しのひまわりの種をひとつもらって植木鉢に植えた。
たっぷり水をやる。
芽が出た。
たぶん双葉だと思う。双葉だと思うんだけど、葉っぱが4枚ある。
四葉のクローバーみたいで、なんかうれしい。
たっぷり水をやる。
本葉が出始めた。
たっぷり水をやる。
本葉が5枚になって30cmくらいの高さになった。
ひまわりの観察は5回目だけど、こんなに成長の速いひまわりは初めてだ。
4枚の双葉が長く伸びて茎に縦に真っ直ぐにくっついている。ちょうど東西南北に1本ずつ。これは突然変異なのか?
たっぷり水をやる。
もう、ボクの背丈くらいになってる。
異常な速さで成長している。
今年は水やりを毎日忘れないでやっているからか?
4枚の双葉は筋のようになって、茎と一緒に伸びている。
ウソみたいに成長している。
もう、2階のベランダに届いてる。
小さいつぼみが出てきた。
6日間でこんなに成長するひまわりは初めてだ。
4本の双葉は棒のようになって、下の方から離れてきている。4本の棒と茎の間にはジャバラにたたまれた膜のようなものがあるようだ。
植木鉢が小さくなったから大きい植木鉢に植えかえた。かなり重くて父と母に手伝ってもらった。
もう何があっても驚かないつもりだったけど、2階建ての屋根までの高さになって、大きな花が咲いた。
4本の棒は花の下から広がって、セミが羽化するように薄い膜を広げ始めている。まるで
こんなひまわり見たことがない。
夕方、水やりをしていると、植木鉢ごとゆっくり回転し始めて、浮いた!?
ボクの錯覚かと思ったけど、
植木鉢はちゃんと地面にあるけど、
植木鉢の跡が微妙にずれてる!!
また背がのびている。
さすがにこの高さになると目立って、近所の人や通行人が写真を撮っていく。
そして、ハネに気付いた人は、
「これ、ロケットみたいで面白いね。」
と、ボクがふざけて付けたと思ったようだ。
まさかひまわりがハネを生やしてるなんて、やっぱりあり得ない!ボクだってそう思う。
昨日のことがあったから、夕方の水やりの時、母にも来てもらった。
そして、太陽が沈むと、ゆっくり回転しながら、昨日よりも高く長い時間浮いた!!
ゆっくり回転したままゆっくり垂直に浮き上がって、ホバリングして、ゆっくり着地した。
そんな事あるはずがないと笑っていた母は慌ててスマホを取り出して、動画を取り始めた。
電線の鉄塔くらいの高さにまでなった。
ひまわりの花は首をのけ反らせないと見えない。
昨日、写真を撮った人たちが『#大きなひまわり』でSNSにアップしたらしく、朝から大勢の人たちがやってきた。
さすがにこの大きさになると、このハネが作り物ではないと気付いて、ボクや母は質問の対応に追われた。
話だけでは誰も信じてくれず、動画を見てもらったけど、それでも半信半疑だった。
お昼をすぎると、テレビ・新聞・雑誌・ユーチューバーの人たちからも撮影依頼があった。
そして、いよいよ日没の時間。
『おおおおおー!!』
という大歓声とフラッシュが沸き起こった。
その後、ボクと母はマスコミの人たちの質問攻めにあって、今までの観察日記を見せながら誇らしげに答えた。
ひまわりは花を咲かせたのに、まだ成長を続けている。
市役所の人と観光協会の人がやってきた。
ひまわりを郊外の丘の上に移して観光資源にしたい、と提案してきた。毎日欠かさず水やりも手入れもしてくれると言う。
父も母も手に負えない巨大すぎるひまわりと押し寄せて来る多くの人にどうすることもできなくて、快諾した。
ボクが観察日記を続けることは問題ないと言ってくれたから良かった。
さっそくクレーン車が来てひまわりを運んで行った。
マスコミの人たちや野次馬の人たちに混ざってボクもひまわりを追って行った。
クレーン車で吊り上げた時、巨大植木鉢に植えかえた。
いつもの時間になると、ひまわりは昨日よりも高く長い時間飛んだ。幻想的な光景に集まった人たちは惜しげもなく大きな歓声と拍手を送った。
ひまわりは相変わらず成長を続けている。
こうなるとどこまで高くなるのか興味が湧いてくる。
ギネス登録の話が出たが、まだまだ成長しそうなので先送りすることになった。
ひまわりの周りには、物産展や屋台ができたり、キッチンカーが来たりしている。
観光客もたくさん来ていて、ひまわりの茎やハネに触ったりしている。
夕方近くになると、ひまわりの周りにロープが張られた。
そしてひまわりが飛び立って着地するまでの不思議な時間を満喫していた。
ひまわりはまだ成長している。
雲の上に花があって、花が見えない日もある。塔みたいな太い茎とバッサバサ揺れる葉っぱと4枚のハネは異様だ。
ひまわりに勝手に登る人が出て来たりして危ないからと、観光協会は、クライミング・バンジージャンプ・パラグライダーを安全に楽しめる設備を整えて、チケットを販売した。
夕方の飛行ショーも混乱を避けるため、観客席を整備してチケットを販売した。
少しずつだけど、まだ成長し続けている。背が高すぎて、目視ではよくわからない。
毎日、観測のためのドローンが飛ばされて、その映像が公式サイトにアップされている。
相変わらず盛況で、外国の観光客も多く見るようになった。
この頃、着地の時、ひまわりがふらつくようになった。
市役所の人たちが倒れたら危険だからと、巨大植木鉢ごと地中に埋めることになった。
植木鉢のすぐ横に大きな深い穴が掘られた。
ひまわりの飛び上がる力に負けないよう、巨大植木鉢が縦に3つくらいすぽっと入るほどの深さだ。
植木鉢ごと地中に落として土をかけ終わると、ひまわりの花が少しだけ大きくなったように見える。
ひまわりが飛ぶところが見られなくなっても、一向に観光客は減らない。
それぞれ思い思いに楽しんでいる。
ボクは帰ることにした。
と、その時だ!
グラッ!
地震?
周りで悲鳴が上がる。
ゆっくりと地面が回り始めている?
そして、スマホから警報が鳴り響く。
地球が軌道を外れて迷走し始めました。
緊急事態速報です。
地球が軌道を外れて迷走し始めました。
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