第四二話 この世、唯一の正義の在りか
文字数 2,272文字
こ、これでも色々考えてきたわよ、色々と……。私の頭のなかでは、もうすごいことになってるんだから。明日くらいには『ドリームアームズ』が世界を征服しててもおかしくないわ。魔境銀行とか王国政府なんてデコピン一発よ。
僧侶の妄想のなかでは、本当に凄まじい物語が織り成されているんだろうな。僧侶の場合は下手に『ドリームアームズ』の業務に携わろうとするよりも、頭のなかを脚本化して、劇団にでも売り込んだほうが仕事になるかもしれんよ。まぁほとんど儲けにはならないだろうが。
そう改まって言われると緊張しますね……。コホン……。
振り返れば、ここまで色々ありました。それでも皆さんが一生懸命協力してくれたおかげで、色んな困難を乗り越えてくることができました。
一時は破滅の危機にあった『ドリームアームズ』だったのに、王国の指定商人にしてもらったり、販売マニュアル策定で武器屋業界におもてなしを採り入れたり、武具講座を軌道に乗せたり、魔法剣の製造・販売を成功させたり、月賦販売で魔境銀行と提携したり……すごく長い長い道のりを歩いてきたようにも、あっという間の出来事だったようにも思います。
でも、これからですよ!
まだまだ私たちの冒険は中盤戦を迎えたところに違いありません。魔王さんはずっと遠くを進んでいて、その背中がようやく滲んで見えるくらいでしょうか。それでも、魔王さんの背中を捉えることができただけで、びっくりするような進歩なんじゃないかとも思うんです。
このまま『ドリームアームズ』の経営拡張を図って、私たちも共に社会に対する見聞を深めて経験も積み、まだ見ぬ新しい未来を切り開いていきましょう!
ラジャーだな。
『ドリームアームズ』経営で散々右往左往してきたが、いつの間にかこの人間社会がどんな風に成り立っているのかが見えてきたようにアタシは感じてる。闇雲に魔界に侵攻してたときを振り返ると、自分はなんて世間知らずだったんだって反省したくなっちまうよ。
魔王も悪っちゃ悪だが、それより悪どいヤツらは回りにゴマンといて、アタシらなんか悪いヤツらの間で軽く利用されてるだけのバカな存在だったんだろうな。
そんなの自分のためでしょ。
前も話したけれど、教皇庁を脅かす存在として最も手強かった魔王を打倒すれば、私には大司教の座が約束されていた。歴史上初の女性教皇にだって手がかけられるわ。そのあたりを冷静に計算し、私は私なりの正義に基づいて働いていたのよ。
バカなの? ねぇどうしてそんなにバカなの?
教皇を打ち倒して、私に何の得があるわけよ? 総合的な損得を見極めれば、システムに乗っかったほうが圧倒的に有利じゃないの。諍いなんか起こさず、あらゆる歴史と権威を正当に譲り受けるのが、最も合理的というものだわ。
人それぞれ、自分なりの正義があればいいんだと思います。
多くの人は日々の暮らしを漫然と生きているだけだと思うんですが、色んなことに頭を巡らせて、着々と実行していく僧侶さんは本当に賢い人だなって思います。