第3話(6)

エピソード文字数 3,222文字

「レミア、フュル、シズナ、ここだよ。これが、伯父さんと爺ちゃん達の家です」

 ほんのり茜色になってきた空でトンビが舞い、地上では蝉が合唱している中、タクシーを降りた俺は大きめの家屋を指差した。
 なお車内での出来事は、全てカット致します。なぜなら急用発生で幼馴染さんとは帰る直前に会うことになり、代わりのよく存じ上げていない方が運転してくださったからでございますはい。

「にゅむむーっ。えとえと、和洋折衷(わよーせっちゅー)さんの素敵なお家だねーっ」
「褒めてくださり、どうもです。ここは人生で初めて住んだ家だから、そう言ってもらえると嬉しいよ」

 わたくしめは南国市出身なのですが、幼稚園に入るまではココで育った。現在は二世帯住宅となり若干変わってしまったけど、とても思い入れのある家なのです。

「にゅむっ、そーなんだっ。ゆーせー君の、最初の場所だったんだねー」
「レミア先生、『めった』ぜよ! ワシ、『めった』やきね!」

 土佐弁『めった』とは、弱ったや参ったという意味。相も変わらずうろ覚えだ。

「……広い駐車場があって、石段を上った先に二階建てのお家があるのね。それで周りには綺麗なお庭と立派な松があり、その奥には蔵と枯山水まであるわっ」
「蔵も枯山水もねーよ! あるのは、駐車場と石段と家と庭と松だ――あーもう!」

 また嵌められた。気を付けていても引っかかる、それがシズナマジックだ。

「はぁぁんっ、んぁっ。従妹に会う前に、興奮しとかないと、ね……!」
「意味不明。レミアフュル、アホを連れてきてくださいねー」

 俺は長息し、駐車場と階段を通って家の前に行く。いつもは、この辺りで迎えてくれるんだけど――お、来た来た。

「いらっしゃい優星君っ。久し振りだね」
「お久しぶり、優星くん。長旅お疲れ様」

 ちょっぴり髪の毛が薄くなった男性とソバージュが特徴の女性が、勢いよく玄関ドアを開けてくれた。
 もちろん男性の方が伯父さんで、女性の方が伯母さん。どちらもとても性格が良い、素敵な人なのです。

「高志(たかし)さん、芽花(めばな)さん、こんにちは。またお世話になります」
「こちらこそ、いつもありがとね。助かるよ――っと、そちらにいる方々が学校のお友達かい?」
「はい。申し訳ないと思ったんですが…………みんな高知に興味があるので、連れて来ました」

 滞在中は、この設定で通す。伯父さんファミリーに命狙われを話すと心配してしまうから、伏せとくのだ。

「僕らは大歓迎だし、眠れる場所はいつでも用意できる。全然構わないよ」
「ええっと、黒真ちゃん、金堂ちゃん、虹橋ちゃんだったわよね? アタシは芽花、この人は高志と申します」
「にゅむっ、初めましてっ。ゆーせー君と契約(けーやく)してる、黒真レミアですー」

 З!?

「ワシは、金堂フュル! 師匠に土佐弁を教わり、ワシは身を守る関係ながよっ!」

 ЗЗ!?
 唖然となっている間に、危険な自己紹介が行われる。

「私は、虹橋シズナです。色紙優星君とは――」
「ちょっとタンマ! 高志さん芽花さんスンマセン!」

 唖然となっていた俺は三人を引っ張り、数メートル後退して円陣を組ませた。
 いかんよっ。いかんてこれは! やっちゃ駄目なやつだよ!!

(おい2バカっ、こら2バカっ、店でした打ち合わせはなんだったんだよ! クラスメイトのフリをするようになってたでしょ!!

 俺は、静かに吠える。
 ボク達、ちゃーんと決めたよね? 決めたよねっ? なにやってんの!?

(にゅむっ! ウキウキしてて忘れてたよぉ……っ)
(師匠、すまざった。一生の不覚ぜよ……!)

 レミアとフュルは顔を見合わせ、俯いて肩を窄めた。
 はぁ。コイツらは、ホントうっかりさんだな……。

(まあ、ワザとじゃないならいいよ。シズナ、アナタはちゃんとやってよね?)
(従兄くん。それは、ちゃんとやるなよ、の合図よね?)
(もぅ、シズナちゃんってばぁ。あんまりふざけてると、ハイキックを打ち込んじゃうぞっ☆)

 滞在中は何があっても、コイツに激怒してはいけない。よってわたくしは、スマイル全開にしました。

『優星よ……。やっぱし、この女は留守番させるべきだったな……』

 そうだね、謎の声。俺さ…………お守りがああなったのは多分、心労で死ぬからだと思うんだ。

(繰り返すぞ、シズナ。真面目にやってね?)
(分かったわ。きちんとするから、見ていてください)

 魔法使い魔王は凛然と頷き、テキパキと行動。折り目正しく、伯父と伯母の前に立った。

「改めまして、こんにちは。色紙優星君の、従妹をしています!」
「テメェいい加減にしろぉっ!! どこが『きちんと』してんだよ!!
「きちんと、関係をお伝えしてみましたっ。んぁっ、たまら、ない……!」

 白いミニのワンピースを着た大和撫子が、太腿と太腿を擦り合わせる。
 ええはい。それはもう酷い光景です。

「……高志さん芽花さん、スミマセン。コイツら、ちょっとヘンなんですよ……」
「ふむ、これが噂の中二病というのかな? 初めて見たよ」
「都会の子は違うわねぇ。面白いわ」

 禍福は糾える縄の如し。ナイス解釈ありがとうございます。

「こういうタイプの子は、近所に居ないからねぇ。あの子に、良い影響を与えてくれると思うよ――」
「あの子!? それって、怨敵――従妹さんの事でしょうか!?

 頬を朱に染めていたアホシズナの、目の色が変わった。なんだか漆黒のオーラが溢れ出してる気がするなぁ。

「そ、そうだよ。もうすぐ来ると思うんだけど……」
「あら、丁度来たわね。みなさん、この子がアタシ達の娘です」

 家の中から出てきたのは、薄幸の美少女然とした女の子。色素の薄い長い髪と、保護欲を掻き立てられる儚い系の顔。そして、線の細い体躯が目を引く少女だ。

「…………成程。成程成程。成程成程成程」

 そんな従妹を目にした自称従妹が、何か言い出した。もう…………どうしたのさ……。

「成程、成程。シンプルなTシャツとスカートで更に薄幸感が増しており、垂れた瞳と透き通るような肌でトドメを刺してくる綺麗な子が、従妹さんなのね」

 怖い、アンタ怖いよ。分析しすぎ。

「成程。成程、成程ぉ。成程、成程ね」
「れ、レミア、フュル、それにシズナも、紹介するね。この子が従妹の、色紙育月(いろがみいくつき)。妹となっているけど、俺と同い年だよ」
「こ、こんにちは、育月……です。優星兄様(ゆうせいにいさま)の、従妹……です」

 ハープのような柔らかい声音で挨拶をして、緊張気味に頭を下げる。
 それを見たニセ従妹が、(中身も手強そう……っ)と切歯。下がった育月の頭部を斬り落とそうとするような素振りをしたのは、気のせいではない。

「にゅむっ、育月ちゃんこんにちはー。仲良くしてねっ」
「よろしゅう頼むぜよ、育月先生。四日間お世話になるきね!」
「は……はぃ。と、ところで……兄様」

 ここで、育月の瞳がやや鋭くなる。

「随分、仲がよろしいみたい……ですね。まさか、彼女さん……ですか?」
「ええそうよ! 私は従妹であり、お嫁さん候補の一番手――」
「はーい妄想少女は引っ込んでてねー。およびじゃねーんだよー?」

 バカの首根っこを掴み、笑顔で黙らせる。
 が、我慢しろ優星……! コイツに、『チェンジ・マナ』を使っちゃいけない……!

「……やっぱり、相当親し……そう。兄様、来て……ください」

 育月が細い指で俺の手を掴み、家の裏にある野菜等を洗うスペースに連れて行く。
 一瞬『離れたらマズイ』と思ったが、この距離は問題ないので移動継続。『アホ女に「遠見」をさせないでね』とレミアに目配せをして、裏に回った。
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登場人物紹介

色紙優星 16歳の少年


高知県生まれの主人公。

リリウという神様の聞き間違えで魔王使いになってしまい、おまけに『究極奥義』と呼ばれる力を何個も持ってしまった高校生。優しく他人想いなのだが、彼はとあるセンスが全くないのであった……。

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの能力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

プリースト神 年齢不明


茶操ユニが持つプリーストの杖に宿る、プリーストの神様。

実は……。

橙式エイリ 14歳の少女


伝説のモンスターテイマー、でありながら伝説の召喚士の能力を持つ。所謂スケバン然とした容姿と声を持つが、グループ最年少の中学生でみんなの妹的存在。でもレミアやフュルよりずっとまともで、ヤツらの方が妹的存在な気がする。

野菜が大好きで、とても詳しい。

タンザ・クー 年齢不明


橙式エイリの召喚獣で、俳句世界(はいくわーるど)の王女。

タンザが姓で、クーが名。

二万年後に、地球の傍に誕生する世界からやって来た。


色紙育月 16歳の少女


高知県大豊町在住の、優星の従妹。中学卒業と同時に本格的にピーマンの生産を始め、今ではテレビの取材を受けるほどになっている。


薄幸の美少女然とした容姿と、従兄想いの優しい性格が自慢の従妹です! by色紙優星

謎の声 年齢不明


優星にだけ聞こえる、不思議な声。

なぜか正体を明かそうとしない。

リリウ 神様


願いを聞き間違えて、優星を魔王使いにしてしまった神様。

神様の世界で流行しているゲームに夢中で、神様のお仕事はほとんどしない。

とってもダメな、神様(?)な神様。

麗平活美 16歳の少女


ストロベリーブロンドのドリルヘアーが特徴の、優星のクラスメイト。

お嬢様然とした容姿で気品があるように見えるが、非常に活発。実は……。

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