お手本は彼

文字数 1,230文字

37歳になって老化を感じるようになった。昨年のことだ。
一昨年から痩せにくくなってきたとは思っていたが、他にも目に見えて老いを感じることが増えた。

例えば白髪。ハイライトでごまかせるけど、前髪らへんからツンツン出ているのを見るとやっぱりテンションは下がる。
丈夫で褒められることが多かった肌も、昨年から荒れやすくて治りが遅い。ドクターズコスメや美容クリニックに通っても良くならない。

老化の実感はこれからの人生を不安にさせた。

これから老けて見た目が劣化しても私は幸せに暮らせるのだろうか。
同棲している彼と今は順調だが、このまま子どもを授からずに老後を迎えたらどうなのだろうか。
やっぱり子作りすれば良かったと後悔しないだろうか。
子どもがいない中、彼に先立たれたら独りになってしまう。寂しくなったらどうしよう。二匹くらい猫を飼えば独りの虚しさを感じずに済むかもしれない。
けれど、そもそもいつ死ぬかなんてわからないし、私が彼を置いて先に逝くかもしれない。もしかしたら明日の可能性もある。
まだやりたいことも欲しい物もたくさんあるのに死ぬのは嫌だ。でも死ぬ可能性は否定できない。

こんな調子で不安は一気に広がった。ドツボになると考え込む性格がゆえ、ひとつ不安を感じると関係ないことまで考えてしまう。不安を作る達人の自分が笑える。



彼も出会った当初と比べて立派なおっさんになった。多分10kgは太ったはず。痩せるために得意のジョギングを試みるも雨が降ると走らず、結局そのまま。毎日500mlの缶チューハイ3本の晩酌を楽しみ、寝る1時間ほど前になると小腹が空いて何か食べる。そりゃ中年太りする。もう40歳なのに欲望のまま飲み食いして、この人は危機感を抱かないのだろうか。

「自分が老けたと思うことある?」

「ないよ。俺、老けてないし」

絶句した。本気で思っているのだろうか。

「いや、その顎見てよ。すごい太ったし、前より痩せにくいから老けたなとか思わないの?」

「痩せる痩せないは年齢のせいじゃなくて、普段の生活の問題だし」

怠惰な生活は自覚してるんだ。

「じゃあ痩せる痩せないは別として、他に老けたと思うことないの?」

「そうだな、白髪が増えたくらいかな?まぁ俺、老けてないから!」

この人はこれから見た目が劣化しても何も気にせず、どんと構えているんだろう。私がこんなに老いを嘆いていても、一緒にいる彼はぶぐぶく太ってもあっけらかんとしている。なんて楽観的な人なんだろう。

羨ましくもあり、自分がアホらしくなった。どんなに頑張ってアンチエイジングしても、老化を完全に防ぐことはできない。いつまでもきれいでいるためには細部まで入念にチェックすることが欠かせないが、しすぎると自分に絶望する。心もお金ももたない。自分に甘いくらいのほうが気楽に生きられる。

彼くらいノー天気になれたらもっと人生を楽しく生きられると思った。アンチエイジングよりも気楽に生きるほうがコスパもいい。

彼の気楽な生き方を私もマネしたい。

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