魔導運送士 アラン

文字数 814文字

魔導運送士――それが今の俺の仕事だ。

 手紙や書物、魔道具、時には人まで、あらゆるものを運ぶこの職業は、各地の土地柄や文化を知るにはもってこいだ。運ぶ品物を通して、その土地の特色が浮かび上がり、依頼人とのやり取りからは、その人の性格や生活が垣間見えることもある。旅をしながら、知らない街に出会い、その街の息づかいを感じることができる――これほど魅力的なことはない。

 そう、彼女は言っていた。

 護衛をしていた当時、その言葉の意味は深く考えなかった。旅の途中で、ただ彼女を守ることに集中していたからだ。けれど今になって、あの時彼女が何を感じていたのかが少しずつわかるようになった。街ごとに異なる風景や空気、そしてそこに生きる人々の営み。それを目にするたび、彼女が感じたかった世界の広さが俺にも伝わってくる。

 北の雪に覆われた村では、厳しい冬を越すための保存食が運ばれ、住人たちは小さな暖炉の前で、長い夜をしのいでいた。海沿いの港町では、新鮮な魚介類を船から下ろす漁師たちの声と、波の音が交じり合い、海の香りが風に乗って漂っていた。そして、砂漠の乾いた風が吹き抜ける小さな町では、遠くの山脈が空を裂くようにそびえ立ち、古代の遺跡が風化した砂に埋もれていた。

「いつか、自分の目で世界中の街を見てみたい」と彼女は言っていた。しかし、その願いは叶わず、彼女は旅の途中で去ってしまった。

 だが、彼女は俺に頼んだ。「私の代わりに、世界を見てきてほしい」と。その言葉を胸に、俺は彼女の代わりに世界を歩き続けている。

 街を歩き、風景を見て、香りを感じ、その土地の一部が自分の中に染み込んでいく感覚。運び屋としての仕事をこなしながら、俺は旅を通じて世界を広げている。時には疲れ果てることもあるが、新しい街に足を踏み入れ、まだ見ぬ景色や人々に出会う瞬間――それはいつも新鮮で、心が躍る。

 そして今日も、彼女の思いを胸に、俺はまた街から街へと積み荷を運ぶ。
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