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文字数 1,999文字

マナカ 「花火大会、ちほりんも行ってみない?」
ちほりん「うーん、考え中。」
マナカ 「一緒に行こうよー」
ちほりん「一人じゃダメ?」
マナカ 「ちほりんと一緒に行きたいんだよ」

 マナカが両こぶしを握って訴えた。

 夜空には満天の星々。そして、流れ星。

 *

 私には壁がない。

 敏感すぎる。魂にそのまま刺さってくる。
 ほかの人は防御壁みたいなのをもっているんだろう。自分に壁を作って他人と付き合ってるんだ。
 私は他人と距離をおいて、攻撃的でない人とだけ、必要なときだけ、関わるようにしている。

「もっと社会的になりなさい」
 親にも誰にもそう言われてきた。
「人間はそんな恐いものではありませんよ」

 昔から繰り返し繰り返し、人間慣れしようとしたよ。慣れようと色々試した。いつか鈍感になれるだろうと。子供の頃から、社会勉強しようとテレビ見てネットやって、やってきたし。
 でも学校でも、酷いことは言われる、物は壊される、盗まれる。暴力も。やっぱり人間は危険。
 大人になって。思い切ってスーパー店員もやった。数をこなしたら慣れるんじゃないかと。もう思い出したくない。
 人に慣れることはない。やればやるほど、ズタズタになっていく。

 リアルで推し活はヤバい。お金を出しているから大丈夫だと思っていたけど、あれはファン同士の戦い。ほかのファンからライバル視。ケンカ売られてストーキングまで。

 もうHPがない。

「自意識過剰なんだよ」
 そうも言われる。本当は逆。壁を作れる人は自意識の強い人。私にはそれが、ない。

 *

『異世界で自由な暮らしを始めよう!』
『顔も服装も思いのまま あなたそっくりのアバターもつくれる』
『お気に入りのアバターで、自分を解き放とう』

 ユートピアみたいな話。

 スマホのインカメラで自撮りすると、顔を元にアバターが作成される。美化される、いや、かなーり美化される。四頭身くらいで可愛い。

 この世界では物理的な暴力を振るわれることはない。ましてやプレイヤーキルが実装されているわけない。
 発言も自動でチェック、誹謗中傷は通報されて対処される。
 リアルより安全だ。リアルと違って親ガチャもない。この世界にはガチャ自体も実装されてない。
 課金でやれることもあるから貧富の差はあるかもしれないけど、大したことない。広告収入とかで成り立っているらしい。イベントもスポンサーの宣伝。

 マナカとは、そんな世界で出会った。

 *

 花火大会。
 スポンサーのアイテム配布。イベント限定のコーラとか。
 色とりどりの花火。本物の花火大会みたいにスポンサー企業名もアナウンスされる。

マナカ 「綺麗だねー」
ちほりん「そうだねー」

 CGなんだからそりゃ綺麗だ。まぁ本物の花火だって人工物なんだけど。

 流れ落ちるあれ、ナイアガラっていうんだっけか。

マナカ 「わあ」

 スポンサーのキャラクターの形をした打ち上げ花火。

ちほりん「笑」
マナカ 「楽しいね」
ちほりん「たしかに楽しいけど、私ね、」
ちほりん「いや、なんかせっかくの雰囲気が台無しだからやめとく」
マナカ 「なに? いいよ?」
ちほりん「ここでこんなことばかりしていていいのかなって」
ちほりん「リアルから逃げているような気がする。」
マナカ 「難しく考えないで気分転換くらいの気持ちで遊びに来ていいんじゃないかな。」

 丸い大きなのが一斉に何発も。

マナカ 「ちほりんは自分のこと好き?」
ちほりん「好きなとこもあるけど、嫌いなところもたくさんある。」
マナカ 「私も同じ。好き嫌いって、程度の問題だよね。」
ちほりん「そうだね」
マナカ 「嫌だなって思うのは、なんかマズいところがあるから。」
ちほりん「うん」
マナカ 「直した方がいいかもしれないっていうシグナル」
ちほりん「なるほど」
マナカ 「けどそれは自分のせいとは限らないし。」
ちほりん「たしかに」
マナカ 「もちろん自分が変わった方がいいこともあるけどね。」
マナカ 「私はいつも苦しんでる。リアルと自分が合ってないこと。」
マナカ 「でも、自分のキャラ変えてみてもうまくいかなかったし。」
ちほりん「そうそう、私も。」
マナカ 「リアルから逃げたいって思うのも普通だし」
マナカ 「けど逃げたい自分が嫌になる。何も良くならないから。」
ちほりん「なるほど、それでか」
マナカ 「で、逃げる逃げないも程度問題だと思う。」
マナカ 「適度に逃げて息抜きもするし、」
マナカ 「いい感じにリアルにも取り組んでいけばいいのかなって思ってる。」
ちほりん「マナカありがとう」

 自分を変えてきた。でもうまくいかなかった。これ以上変われない。世の中が変わらないと生きていけない。
 けれど、私一人で世の中を変えられるとも思ってない。

 この世界もリアルと繋がっている。リアルの一部。私一人じゃなくって、マナカみたいな人もいるんだから、リアルも変えられるんじゃないかな。そんな気もする。少しずつ。
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