踊りませんか? 裏

文字数 769文字

建国記念の夜会。俺は幼馴染で学友の第五王子の前で一礼して言った。
「パーシヴァル殿下。よろしければ私と踊りませんか?」
パーシーは顔を強張らせ、それを一瞬で取り繕った。
うん、それでいい。
まさかこんな場所で怒鳴りつけたりできるわけないもんな。

この王子様が俺のことを憎からず思っているのはずっと前から知っている。
これで隠せているつもりなんだから本当に可愛らしい。

パーシーは女性のステップも器用に踊る。
俺と踊れないなんて言わせる気はない。

俺はこの国の宰相の三男。
顔と家柄が良いから昔からモテた。
嬉しくなんかなかった。
ぐいぐい近付いてくる令嬢や侍女たちには随分と不快な思いをさせられてきた。

パーシーは第五王子。
妾腹の生まれで後ろ盾が弱い。
おとなしく優しい彼は周囲からの過小評価を受け入れてしまっている。

「いいじゃないか、パーシー。俺たち、利害は一致しているだろう? 君は逃げた婚約者のことを有耶無耶にしたい。俺は政略結婚なんかしたくない」
耳元でそう囁やけば、王子様のすまし顔が僅かに上気した。

「アドレー。お前……別に僕のことが好きなわけでもない癖に」
震えそうな声を聞いたら、つい揶揄いたくなってしまった。
「偽装結婚できそうなくらいには好きだよ」
少し傷付いたような顔も可哀想で可愛い。

法律で同性婚が認められたばかりの、このタイミングだ。
宰相の息子が第五王子に所構わず愛を囁くようになれば、貴族たちはその噂で持ち切りだろう。

パーシーの婚約者はつい最近逃げた。
第五王子の専属護衛騎士との駆け落ちだ。
手引きをしたのはパーシー自身。
相談されて唆したのは俺だった。

「ほら、王子様。お手をどうぞ?」
手を差し出して微笑みかける。
今は偽装だと思っていればいい。
俺の本気を知った時、君はどんな顔をするだろう。それが楽しみで仕方がない。

………………逃してなんかやらないよ。





ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み