第3話
文字数 1,169文字
最後は先週の日曜日だ。僕は暑い真夏の昼、僕は住む街から離れた池袋のマクドナルドで昼食を済ませ、JRの池袋駅に向かって歩いている時だった。目の前に酷くみすぼらしい姿の少女が立っていたのだ。その少女は僕の目を見て、何かを感じ取ったのか直ぐに逃げ出した。僕は不快感を覚えたが、追いかけてなぜ逃げたのかと言う事は出来なかった。
釈然としない気分のまま池袋駅に乗って地元に戻り、それから一日経った学校からの帰り道、再びあの少女に出会った。服装は昨日池袋で出会った時と同じ服装だったが、今度は同じようにみすぼらしい服装の、十七歳くらいの男と一緒に居た。
「あいつだよ」
女の子は制服姿の僕を見て、僕に聞こえる声で男に告げた。不快感を覚えた僕は女の子の目を見ながら「何ですか?」と不快感を露わにして言い返した。
「あんた、俺らの正体がわかるんだろ?」
返事をしたのは若い男の方だった。その言葉を聞いて僕は思い当たる節があった。
「なんだ、あんたら人間じゃないのか?」
「そうだ。俺達はクマネズミだ」
恥じらう様子も見せずに、若い男は僕にそう答えた。もしかして僕は人間に化けた動物に気付かれる能力があるのだろうか。
「こいつは俺の娘だ」
「若いのに随分大きな子どもがいるんだな」
「俺達は成長が早いからな、人間でいうお前くらいの年齢になれば、基本的に子どもを作る」
父親と名乗ったクマネズミはそう答えた。少し前にイノシシの親子に言われた、性成熟しているのに交尾していない。という極めて動物的で野蛮な比喩表現が、僕の前頭葉辺りに不快な電流となって走った。
「昨日、こいつが自分達の正体を見抜ける人間がいるって騒いでいたんだ。それで色々な伝手をたどって、ここに来たんだ」
「そう、お前は私らの正体を見抜けるから」
男が語ったあと、女の子が傍から続けた。僕は人間に擬態できる動物から、何か特別な能力を持っていると思われているのだろうか。その能力があったとしても、僕は人間と動物をつなぐ媒介になるつもりは無いし、なる気も無い。
「言いたいことは、それだけ?」
僕は話を終わらせたい一心で、二人に向かって言った。
「なに?」
意外そうな声で男が漏らす。
「僕が人間に化けている動物が住んでいる事を知っていても、それが僕や君たちの生活に作用するわけではないでしょ」
僕の言った言葉が的を得た言葉だったのか、二人は何も答えようとはしなかった。
「じゃあ、失礼するよ。ネズミごときに構っていられないから」
僕はそう吐き捨てて、二人の前から立ち去った。
この三つの出来事を経て僕が何か変わったかと言われても、大きな変化はない。学校に通い、彼女の紗弓と楽しくすごし高校進学に備える日常が続いている。今後ぼくにどんな試練や奇妙な出来事が起こるか判らないが、特に気にせずやり過ごすような気がする。
(了)
釈然としない気分のまま池袋駅に乗って地元に戻り、それから一日経った学校からの帰り道、再びあの少女に出会った。服装は昨日池袋で出会った時と同じ服装だったが、今度は同じようにみすぼらしい服装の、十七歳くらいの男と一緒に居た。
「あいつだよ」
女の子は制服姿の僕を見て、僕に聞こえる声で男に告げた。不快感を覚えた僕は女の子の目を見ながら「何ですか?」と不快感を露わにして言い返した。
「あんた、俺らの正体がわかるんだろ?」
返事をしたのは若い男の方だった。その言葉を聞いて僕は思い当たる節があった。
「なんだ、あんたら人間じゃないのか?」
「そうだ。俺達はクマネズミだ」
恥じらう様子も見せずに、若い男は僕にそう答えた。もしかして僕は人間に化けた動物に気付かれる能力があるのだろうか。
「こいつは俺の娘だ」
「若いのに随分大きな子どもがいるんだな」
「俺達は成長が早いからな、人間でいうお前くらいの年齢になれば、基本的に子どもを作る」
父親と名乗ったクマネズミはそう答えた。少し前にイノシシの親子に言われた、性成熟しているのに交尾していない。という極めて動物的で野蛮な比喩表現が、僕の前頭葉辺りに不快な電流となって走った。
「昨日、こいつが自分達の正体を見抜ける人間がいるって騒いでいたんだ。それで色々な伝手をたどって、ここに来たんだ」
「そう、お前は私らの正体を見抜けるから」
男が語ったあと、女の子が傍から続けた。僕は人間に擬態できる動物から、何か特別な能力を持っていると思われているのだろうか。その能力があったとしても、僕は人間と動物をつなぐ媒介になるつもりは無いし、なる気も無い。
「言いたいことは、それだけ?」
僕は話を終わらせたい一心で、二人に向かって言った。
「なに?」
意外そうな声で男が漏らす。
「僕が人間に化けている動物が住んでいる事を知っていても、それが僕や君たちの生活に作用するわけではないでしょ」
僕の言った言葉が的を得た言葉だったのか、二人は何も答えようとはしなかった。
「じゃあ、失礼するよ。ネズミごときに構っていられないから」
僕はそう吐き捨てて、二人の前から立ち去った。
この三つの出来事を経て僕が何か変わったかと言われても、大きな変化はない。学校に通い、彼女の紗弓と楽しくすごし高校進学に備える日常が続いている。今後ぼくにどんな試練や奇妙な出来事が起こるか判らないが、特に気にせずやり過ごすような気がする。
(了)