第1話 プロローグのような

文字数 930文字

 ひとまずキーボードを叩き始めてみた。二〇二〇年三月二三日、夫の異動通知(依願退職)が社内に公示されるまで一週間。

 女優でも、お洒落ブロガーでもない一個人の随筆にどんな価値があるというのか(無い、という事は確信している)。それでも、何かの拍子でこの文章が世の中の人と広く共有されて、「共感の声多数」なんて事になったら、どれだけ私の人生に彩りが加わり心強いものになるか。若しくは、いつか子供が生まれて、その子が今の私と同じ三十歳になった時にこの文章を読み、時空を超えて少しでも心が通ったならどれだけ楽しいか。きっと初老のおばちゃんになった私と話すより、まだ見ぬ彼/彼女にとったら、鮮度の高い言葉が詰まっているはずだ。そんな妄想をしながら、徒然なるままにあれやこれやを書いてみたいと思ったのである。

 平成元年、東京都生まれ。サラリーマンの父、専業主婦の母の元に長女として生まれる。名前はごく普通の日本人女性のもの。でも漢字にちょっと親のこだわりがあり、一般的には漢字二文字で書くことの多い名前だが、私の場合は漢字三文字。「さんずい」や「チョンチョン」が多く、それが金平糖を散りばめたように見えることに気づいたときから気に入っている名前。二歳下の弟、九歳下の妹がいる三人兄弟、五人家族。去年までは実家にミニチュアダックスフントの櫂(かい)くんもいたけれど、寿命で死んでしまった(櫂は船を漕ぐオールの意味で憧れの青春ドラマ「オレンジデイズ」の妻夫木くんから頂戴した名前。どんな時も、家族が沈まないようにぐんぐん我が家を前に漕ぎ進めてくれますように、という願いを本気で込めて高校生の頃に命名した。言い換えれば、我が家はいつ沈んでもおかしくないような気がしていたあの頃にやってきてくれたのが櫂だった。またどこかでこの話はしたい)。二〇一七年、会社の同期と結婚し、直後に私は海外赴任となった(赴任の話が出たので、彼のプロポーズが決断されたと思われる)。彼の勤務先は日本のままなので、入籍前後の僅かばかりの二人暮らし生活を経て、そのまま遠距離新婚生活に突入している。気づいたら二年半も経つので、もう誰もそして当人たちもそろそろ、新婚、と呼ぶには無理がある事を自覚し始めている。
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