第1話

文字数 925文字

 いとこの稔君は、念力が使えるらしい。
 「僕、裕美ちゃんが来てくれるって、わかってたんだ!!」
そういって、玄関の扉を開けた途端、飛びついてきた。
 「今日は、裕美ちゃんに、僕の念力見せてあげるね。」
 三歳になったばかりの稔君は、この世にはできることとできないことが存在することが分からないらしい。まあ、高校生の私としては、夢の世界で生きるいとこに、現実の厳しさを教えるのは早すぎると大人の判断をして、付き合ってあげよう。
 「それは楽しみだわ。ところで、パパは?」
 「一緒に来るはずだったのに、また、ダメだったんだ。」
 私のママの妹の葉月おばちゃんの旦那さんは、残業だ、日曜出勤だとブラックな会社にお務めで、家族サービスの約束を破ってばかりだ。そのうえ、葉月おばちゃんは、風邪でダウン。38度あるらしい。
 絶対に水族館に行く、という稔君の世話が、私に回ってきた。
 『こんど、裕美ちゃんの欲しがってた服に、カバンと靴をセットで買ってあげるから。』葉月おばちゃんの頼みは、断り切れない。
 手をつないで、駅まで歩いて、水族館行のバスに乗る。

 たくさんの魚が気持ちよさそうに泳いでいる。このビジュアルは好きだ。いつまででも見ていられる。しかし、3歳児の好みではない。
 「ぼく、ペンギンが見たいの!!」
 「わかった、わかった。ペンギンね。」
 手元のパンフレットでペンギンハウスの位置を確かめる。
 「11時から、餌付けを見せてくれるって。あと10分だよ。間に合うね。」
 「えづけってなに?」
 「エサをあげるってこと。」

 ペンギンハウスの中は、子連れの親子でいっぱいだった。
 「じゃ、ぼく、念力を使うよ。」
 稔君は、突然大声で叫んだ。
 「ぼくはペンギンが見たい!!」
 すると、前にいた人たちが一斉によけてくれた。うん、これは念力ではなく、わがままなのでは?稔君は、平気でペンギンがよく見える位置に陣取った。仕方なく、ついていった。恥ずかしい。

 餌付けが始まった。
 「だっこ!!」いうが早いか、なぜか、稔君はすでに腕の中にいた。あれ?いつの間に?

 ペンギンは、われ先にエサを求めて殺到する。
 「だめ!!ペンギン、ちゃんと並んで!!」
 ペンギンたちは、さっと並んだ。


 
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み