第1話

文字数 1,644文字

オバマ大統領も食べたベトナムつけ麵「ブンチャー」

2023年12月29日 金曜日

 代表的なベトナムの麺料理といえば「フォー」、でもハノイに行ったらぜひ味わいたい麺料理といえばやはり「ブンチャー」ではないか。
 あっさりした「フォー」つけ麺風で甘さと酸味が程よい「ブンチャー」はベトナムヌードルの双璧とも謳われ、ブンチャーもまたハノイ名物料理のひとつとして名高く、ハノイ旧市街に行けば歩道まで欧米の観光客で溢れかえるブンチャー専門店をよく目にする。



 甘酸っぱいタレのつけ麺と言ってもこの独特なタレを例えるのは難しく、あえて言うなら寿司酢とでも言うか、薄めの寿司酢にひたして食べる米麺料理、この思いもよらない組み合わせに出会えるのもベトナム料理ならでは。
 麺はそうめんのように細く、つけ汁に薄くスライスした大根の漬物、別皿にボリュームある焼肉やミートボール、さらにベトナム料理に欠かせない山盛り野菜、レタス、バジル、ミント、ネギ、パクチーなどのトッピング葉野菜を好きなだけ加える。
 さっぱりしたつけダレと葉野菜だけでもまさにサラダ感覚、地元だけでなく、健康志向の高い欧米旅行者にも人気があるのも頷ける。

 さて今回は名店がひしめく本場ハノイにおいて、ブンチャーといえばこことまで謳われる有名店「ブンチャーフォンリエン」に行ってみた。
 前回2023年十月のハノイ渡航でも是非行きたかった場所のひとつ。宿があるハノイ大聖堂近くから徒歩2キロ程度に位置し歩いても20分で着く距離に、バインミーの屋台があったりビアホイがあったり様々な誘惑にすべて負け、特にビアホイで生ビールを調子に乗って飲んだ挙句にこれ以上食べる気力も失せ、前回志し半ばでついえた場所でもある。
 まさかその二か月後の年末にハノイを再訪するとは夢にも思わず、ならば今回は必ず行くべしと意を決した店のひとつだ。



 数あるブンチャー専門店の中でなぜこれほどまでに「フォンリエン」が突出して有名なのか、それは2016年当時のアメリカ大統領のムバラク・オバマがハノイを訪問した際、この何も飾らない庶民的な店に立ち寄ったからだ。
 以来ブンチャーという麺料理とこの店の名が世界中に広まり、歴代アメリカ大統領の中でも何ひとつ飾らず庶民的なオバマ大統領の人気からか、アジア系だけでなく欧米の旅行者もひっきりなしに訪れる今やハノイの観光名所のひとつとなった。



 アメリカ大統領が立ち寄った場所だから仰々しく横断幕が飾りつけているわけでもなく、店内を今流行りのレトロ風に意匠を凝らすわけでも、ましてや料理自体の値段もすこぶる高いわけでもない。地元の人が日常的に足を運ぶ食堂、まさにそんな感じの誰でも気軽に行けるそんな店だ。
 各階の壁にはオバマ大統領の写真が飾られ、座った二階のテーブルは当時からそのまま保存しており、ブンチャーを味わいつつオバマ大統領の足跡にも触れることができる。



 待つことなく通された席はそれでも四階、前客の片付けもそこそこにテキパキとしたスタッフから早や注文を聞かれ、今注文しないと後回しにされるのではないかと案じる程の混雑ぶり。
 そこは迷わずブンチャーと海鮮揚げ春巻き、そしてハノイビールがセットになったオバマ大統領も注文した同じメニューその名も「オバマコンボ」を頼んだ。
 この店のブンチャーだけでもなかなかボリュームある一品だが、海鮮揚げ春巻きは具がたっぷり詰まりサクサクしてこれまた絶品。地元ハノイビールとの相性も良く、ブンチャーが食べられるだけでも感動ものだが、オバマ大統領も食べた同じもとなれば感激もひとしお。



 三十数年前、初めて訪れたベトナムホーチミン、固いフランスパンとハムやチーズそして漬物が見事に調和されたバインミーを食べた時も衝撃を受けたが、思いもよらない食材同士の組み合わせに出会えるのもやはり旅の醍醐味。
 一度食べたら何となくクセになるブンチャー、水源に恵まれ豊沃な土壌で育まれたベトナム料理の奥深さを思わず彷彿させる。
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