#1「考案者と開発者の邂逅」前編

文字数 2,017文字

 出来てしまった。特撮番組ばかり見たきた僕が、ついに自分でヒーローを考えてしまった。アニメだってそれなりには見てるけどね。しかし成人もしていて、なおかつ働いているのにこんな事を真面目に考えているのはいいんだろうか?いや、そんな事は関係ないだろう。好きな物が変わることなんてないと自分では思っている。
 しかし、そのヒーローを書いた紙を落としてしまった。あんなものを人に見られたら恥ずかしくて、表に出られなくなってしまう。絵が苦手な僕が書いた、あんな下手な物を見られたら!
 という訳で、僕は只今その紙の探している真っ最中である。今日は晴れ晴れとしたいい天気だったから、気分がよくなって、外に出て何かをしようと思い、紙と買い物をするためのエコバックを持って近くの公園へとやってきた。公園は僕以外には誰も居なくて寂しい気持ちがあったが、一人だったからこそ、僕は公園にある屋根付きの休憩所のテーブルで頭の中で考えたヒーローの設定を書いていって、ましてや下手な癖に絵までウキウキした気分で描いてしまった。
 それで書き終えて満足した僕はスーパーに行って、昼飯を買いに行った。買い物を済ませて店に出た時に、僕は考えた紙がない事に気づいた。

「紙がない!あんな恥ずかしい物、人に見られたら生きていけなくなる!」

 僕は急いで公園にへと戻った。しかし時すでに遅しであり、戻ったころには紙がなかった。そして現在に至る。昔からそうだ。出かける時に家から忘れ物しても、目的地に着いてようやく気付いたなんて事が今でもあるぐらいだ。それを人に見られたく無い物を忘れるなんて...我ながらものすごい大失態だ。公園に出る前に水を飲んだのがいけなかったか、それとも紙の倍以上あるエコバックを持ったのがいけなかったか、どちらかだ...後者かな...
 僕は風に飛ばされたと思い、公園内を探した。しかし公園の隅々まで探しても見つからなかった。次に公園外の周りを探した。しかし、やはりというか見つからなかった。いっそのこと交番にでも行こうかと一瞬思ったが、あんなものを僕が書いたとバレたらと思うと...というのがすぐに浮かび上がり、瞬く間に自分の中で却下した。年齢も今年で二十四であり、増してや髪はボサボサしていて、顔は肌が汚くて髭も青い。こんな奴が仮にも拾ってくれた人と顔を合わせてみろ。相手に絶対に引かれるに決まっている。
 そして探している内にあっという間に、日が暮れてしまった。本当ならこのまま探すのを続けたい所だけど、明日は仕事だからそうも言ってられない。僕は仕方なく諦める事にして、帰宅するのであった。


 僕は家に帰り、昼飯に食べる予定だった日の丸弁当をテレビを見て夕飯として食べる事にした。物事に集中してつい何かを忘れてしまうのも、昔からの悪い癖だ。僕はアパートで一人暮らしをしている。両親は僕が小さい頃にどちらも病死して、親戚の家で暮らしていた。そして高校を卒業して、僕は家から出て工場で組み立ての仕事をして生活している。一人で生活するのは言うまでもなく大変だけど、やっぱり本当の両親ではないからどうしても遠慮がちになってしまい、正直居心地が悪かった。なので大変だけど一人の方が正直気楽だ。
 テレビにはニュースが映っており、その中に原因不明の失踪事件が相次いでいるというニュースが流れている。ニュースによると失踪事件は一週間前から発生しており、今日で千人を超えたらしい。僕はニュースはあまり見る方ではないので、こんなにも恐ろしい事件がある事を今日初めて知った。

「ニュースも定期的に目を通さないと...もしかしたら、明日は我が身という事だってないとは言い切れないし...」

 僕は夕飯を食べ終え、風呂に入り終えて布団に入りそのまま就寝する事にした。結局見つからなかった、僕が書いた紙の事が気になって、中々寝付けなかった。人がもしアレを見たらどう思うのだろう?しかし見られたらと考えたら、すごく恥ずかしくなってしまって思わず布団を被ってしまった。でも別に名前が書いてあるわけでもないし、言わなきゃ分からないだろう。もうあの紙の事は忘れよう。そう思い続けて、僕は眠りについた。


 紙を無くして一週間が経った。
 僕は今日も仕事に向かう。工場に向かい、仕事を開始する。工場には歩いて大体三十分ぐらいの距離にある。
 僕が働いている工場は車の部品を作っている工場で、僕はメーターの組み立てをする部署に配属している。その中でも僕は、最後の工程である、動作の検査をしている。
 ここで働いて五年経っており、担当する工程は日によって変わる。しかし僕はリーダーというわけではない。
 なぜなら僕は内気な性格で、人ともあまりうまく喋れないため、リーダーに向いていないからだ。なので休憩中も常に一人でいる。
 そして僕は八時間の勤務を終え、帰宅していた。空が夕焼けに染まっており、清々しい気分で歩いていた。
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