おっさんはストーカーになった
文字数 831文字
ツヨシは2003年札幌生まれのホッキョクグマだ。少し前まで、横浜にいた。産まれた時の性別判定でオスとされたので、当時人気を誇っていた新庄剛選手にあやかってツヨシと命名された。ところが数年後、メスだと判明した。可哀想に、まるで人間の失態を隠すかのように、釧路に送られた。
長い間、釧路の動物園にいた。釧路動物園は、市街地からも離れていて、平日に行くと、本当に誰もいない。釧路市内からはバスで二時間近くかかる。行った当時も路線バスは一日五本くらいしか走っていなかった。幼稚園や小学校の遠足だって気軽に来れる距離ではない。まあ、釧路空港の近くで、飛行機なら行きやすい所だから、おっさんは好きだけどね。
今から十数年前のとある秋の平日、朝一番の飛行機で釧路空港に着いたおっさんは、真っ直ぐ動物園に向かった。園内に客は誰もいなかった。人の気配のない動物園は、動物たちの緊張感に満ちている。キリンやシマウマが遠くから恐る恐るこちらを見ている。
「誰だ、あのおっさん」
おっさんは「ごめんよ、邪魔するよ」と呟いて、お目当てのシロクマプールに真っ直ぐ向かった。
柵で囲われたシロクマプールの傍で、おっさんは望遠レンズを構えた。ちょうどツヨシの朝の運動の時間だ。
「どれどれ、その可愛いお顔を撮らせて貰うよ」
プールで遊んでいたツヨシは神経質そうにおっさんを見た。そして突然おもちゃとして与えられている浮きブイをこちらに向かって投げつけた。
「それ以上近寄らないで。このストーカー野郎」
ツヨシは、ブイを投げつけた後、直ぐプールに潜った。隠れたつもりなのだろう。可愛いヤツだ。
タイミングを測った。「サン、ニッ、イチ」
おっさんは連写が嫌いだ。一発で決めるからこそ、記憶に残る一枚になるのだ。
ツヨシはプールから顔を出した。
「もうこれで大丈夫。ブイを投げつけてやったから逃げたでしょ」
……おっさんは目の前にいた。
「なんでまだいるのよ! お願い、もう見ないで」
ツヨシ、天国で会おうな。
長い間、釧路の動物園にいた。釧路動物園は、市街地からも離れていて、平日に行くと、本当に誰もいない。釧路市内からはバスで二時間近くかかる。行った当時も路線バスは一日五本くらいしか走っていなかった。幼稚園や小学校の遠足だって気軽に来れる距離ではない。まあ、釧路空港の近くで、飛行機なら行きやすい所だから、おっさんは好きだけどね。
今から十数年前のとある秋の平日、朝一番の飛行機で釧路空港に着いたおっさんは、真っ直ぐ動物園に向かった。園内に客は誰もいなかった。人の気配のない動物園は、動物たちの緊張感に満ちている。キリンやシマウマが遠くから恐る恐るこちらを見ている。
「誰だ、あのおっさん」
おっさんは「ごめんよ、邪魔するよ」と呟いて、お目当てのシロクマプールに真っ直ぐ向かった。
柵で囲われたシロクマプールの傍で、おっさんは望遠レンズを構えた。ちょうどツヨシの朝の運動の時間だ。
「どれどれ、その可愛いお顔を撮らせて貰うよ」
プールで遊んでいたツヨシは神経質そうにおっさんを見た。そして突然おもちゃとして与えられている浮きブイをこちらに向かって投げつけた。
「それ以上近寄らないで。このストーカー野郎」
ツヨシは、ブイを投げつけた後、直ぐプールに潜った。隠れたつもりなのだろう。可愛いヤツだ。
タイミングを測った。「サン、ニッ、イチ」
おっさんは連写が嫌いだ。一発で決めるからこそ、記憶に残る一枚になるのだ。
ツヨシはプールから顔を出した。
「もうこれで大丈夫。ブイを投げつけてやったから逃げたでしょ」
……おっさんは目の前にいた。
「なんでまだいるのよ! お願い、もう見ないで」
ツヨシ、天国で会おうな。