第6話(3)怠惰を吹っ飛ばす

文字数 2,017文字

「あ、あいつは⁉ 『スロースのトーマ』だっぺ!」

「スロース、怠惰か……」

「……君らも転移者だよね?」

 トーマが俺たちに話しかけてくる。

「ああ。それがどうかしたのか?」

「いや、面倒くさいからいいや……」

「な、なんだよ!」

「う~ん……」

「言いたいことがあるなら言えよ!」

「……見たところ、なかなか珍しいスキルを持っているようだから……」

「だから?」

「僕の配下にならないかなって……」

「は?」

「悪くない話だと思うけど……」

 トーマはぼさぼさとした頭を掻きながら呟く。俺が尋ねる。

「それでどうするつもりなんだ?」

「どうするつもりって?」

「俺たちを配下にして、この世界を征服でもするつもりか?」

「ああ、まあ、それも悪くないかもね……」

「お断りだ」

「む……何故だい?」

「何故って決まっているだろう?」

「?」

「俺はこの世界の英雄になる予定の者だ。お前のような悪い転移者を懲らしめてな……」

「‼」

 俺の言葉にトーマの顔色が変わる。

「どうした?」

「なかなか癪に障ることを言うね、逆に懲らしめてあげよう……」

「やれるものならやってみろ!」

「ふん……」

 トーマは懐から端末を取り出す。

「あれは……タブレット?」

「これさえあれば異世界でも怖いものは無いよ……」

 トーマはタブレットを手際よく操作する。俺たちの周囲の骸骨兵士たちが槍を構える。

「くっ⁉」

「終わりだ……」

「そうはさせません!」

「ん⁉」

 衝撃波のようなものが飛んできて、俺たちの周囲の兵士たちが吹き飛ぶ。視線を向けると、両手を掲げた青輪さんが立っていた。俺が尋ねる。

「い、今のは、青輪さんが?」

「ど、どうやらそのようです!」

「どうやらって……」

「……ティッペくん、今の内に彼女のスキルを鑑定してみたらどうだい?」

 監督が冷静に告げる。

「わ、分かったっぺ! ……こ、これは⁉」

 青輪さんの近くに寄ったティッペが驚く。俺が問う。

「ど、どうかしたのか⁉」

「ユ、ユニークスキル、【推し】だっぺ!」

「そ、それはどういうスキルだ⁉」

「分からないっぺ!」

「分からないってなんだ!」

「……察するに自らの推し活動を強力にサポート出来るスキルなんじゃないのかい?」

「そうなのですか?」

 俺の問いに監督は首を傾げる。

「さあね、言ってみただけだ……」

「い、言ってみただけって……」

「いえ、監督のおっしゃることは当たらずも遠からずだと思います……」

「青輪さん?」

「自らの推しである栄光さまを守ろうと思った瞬間、すごい力が湧き出て……衝撃波を発することが出来ましたので……」

 青輪さんが自らの両手をまじまじと見つめながら呟く。

「……ふん、代わりはいくらでもいるんだよ……」

 トーマがタブレットを操作すると、吹き飛んだ骸骨兵士たちが体勢を立て直すだけでなく、さらに多くの骸骨兵士たちが出てくる。俺は舌打ちする。

「ちっ……」

「彼女にもう一度ド派手に吹っ飛ばしてもらおうか」

「青輪さん! お願い出来……⁉」

 監督の提案に頷いた俺は青輪さんに声をかけるが、青輪さんはその場にうずくまっていた。ティッペが声を上げる。

「このスキルを発動させるにはそれなりの体力を消耗するようだっぺ!」

「め、面目ない……」

 青輪さんが呟く。監督が顎に手を当てながら頷く。

「多用は出来ないってことか……」

「ふん……」

「むっ!」

 トーマがタブレットを再び操作すると、骸骨兵士たちが統制の取れた動きを見せて、俺たちや青輪さん、さらにラヴィの三人もあっという間に包囲する。

「ふむ、自らの手足のように骸骨兵士たちを自由自在に動かせるということか……」

「うん、そういうことだよ」

 監督の言葉にトーマが頭を搔きながら頷く。

「さて、これは参ったね……」

 監督は両手を広げる。トーマが尋ねてくる。

「やっぱり降参するかい?」

「……というか、この街のことは特に破壊したりしないんだね? 一目散に我々が滞在する宿屋に向かってきた……」

「転移者らしい集団が入ったという報告が入ったからね。まずはそれを片付けてからと思って……この街の制圧はその後にと考えたのさ」

「そうかい。面倒なことは嫌いそうなのに……」

「骸骨兵士の集団を見せると、案外あっさり済むんだよ」

「ふむ……」

 トーマの説明に監督は腕を組んで頷く。

「とはいえ、これまでいくつか町村や集落を制圧してきたのけど……さすがにちょっと面倒になってきたね。スキル持ちの君らが配下になってくれれば助かるんだけど」

「……君の異世界征服に協力しろと?」

「まあ、そういうことになるかな」

「どうする?」

 監督は俺に問うてくる。俺の答えは決まっている。

「……お話になりません」

「……だそうだ」

「そうか、それなら痛めつけるしかないね……」

「ティッペ!」

「ああ!」

 ティッペが前足を振ると、一枚の紙が現れる。俺はそれを掴む。

「絵を見て……念じる!」

「なっ⁉」

「こ、これは⁉」

 トーマも俺も驚く。俺が紫色の長髪をなびかせた中性的な人物に変化したからだ。
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