第1話

文字数 1,912文字

え?
そうです。
この人もこの人も、みーんな僕が殺しました。
動機?
動機…。
考えたこともなかったな。
殺すことが当然だったから。
でもまあ強いて言えば…悪い奴らだからですよ。
このサラリーマンはね、終電だから起こしてあげたのに、
「気持ち良く寝てんのに起こすな!」
って逆ギレしてきたんです。
ひどいと思いません?
こっちは「お客さん、着きましたよ」って丁寧に起こしてあげたのに。
フツー目的地を寝過ごしたからって誰も起こしたりしないじゃないですか。
本来はこっちの仕事じゃないんですよ?
それを起こしてあげたってのに。

こっちのコはね、毎回違う男と終電で帰ってくるんですよ。
清純そうな顔して。
え?だって明らかに違う男ですから、背丈も髪型も服装もバラバラ。
もしかして結婚詐欺でもやってたのかなぁ。
そういえば明らかに不釣り合いな人もいましたから。
それが僕に何の関係があるのかって?
関係はないですよ、ただそんな女と付き合ったことはありますけどね。
世の中のピュアな男性が騙されないように成敗してやったんです。
ほんとは一匹残らず成敗したいくらいですけどね、まあまずは一匹。
ええ、あの日は珍しく1人でしたから、この機会を逃しちゃいけないなって。
天も僕に味方してくれたみたいです。
ハハハ。
当然ですよね。

この人はね、昔っからの知り合いです。
小さい頃はお世話になったけど、お節介すぎて嫌いだったな…。

あ、こっちの彼女ですか?
彼女はできれば殺したくはなかったな。
ずっと生きていてほしかった。
最初に見たときから好きだったんです。
見てるだけで僕の心は満たされた。
僕が守ってあげたかったから、仕事が休みの日にはよく彼女のあとをついてったりしたなぁ。
今日も会えたって温かな気持ちで1日を終えることができた。
純粋でしょ。
けど、ある日ふと見たら彼女の左手の薬指に指輪がしてあったんです。
誰かのものだったんです。
僕の心は激しく動揺した。
健全な心じゃなくなった。
こんな傷ついた気持ちのままでいたら、僕のヒーロー活動は停止しなければならなくなる。
健全な心に戻す方法は彼女を自分のものにするか、この世から消してしまうか、それしかない。
だけどね、彼女の心を変えるなんて無理じゃないですか。
自分の方を向いてほしいなんて身勝手ですよ。
え?殺したことが身勝手だって?
身勝手なんかじゃないですよ、僕の活動が止まってしまったら悪い奴らがゴロゴロと転がってる社会になってしまうんだから。
彼女はかわいそうですが、そのための生け贄となったわけです。
多数を救うには少数の生け贄が必要なんですよね。
悲しいけど。
結局は全部社会のためです。

方法?
終電で殺してコンパクトにして、始発で別の駅まで運んで、お客さんが乗車してる間にポイっと捨てました。
シンプルでしょ。

そんなことが理由で殺したのかって?
そんなこと、なんて言えるあなたは鈍感な人間なんですね。
そんなんで市民を守る警察の仕事が勤まるんですか?
これだから僕みたいなヒーローが世の中には必要なんじゃないですか。
正義ですよ。
動機…ね、やっぱり今まで話したことなんて、どうでもいいや。
動機はこう記録してください「正義を守るため」!


…もー…ヒロちゃん、なんで泣いてるの?
幼なじみの僕が捕まったことが悲しいの?
もしかして他人行儀に話したのが悲しかった?
ダメだよ、僕まで悲しくなっちゃうじゃないか、キミとは何も関係ないように振る舞ってたのに他の人たちにバレちゃうじゃないか。
水の泡だよ。
それに警察の人は強くなきゃ。
正しくなきゃ。
幼なじみが捕まったくらいで泣いてちゃダメだよ。
じゃないと僕みたいな悲劇のヒーローがまた生まれちゃうからね。
僕はね、小さな時からヒロちゃんに憧れてたんだ。
いつもみんなのヒーローでさ、大人になったら警察の人になってさ。
僕もなりたかったんだよ、正義のヒーローに。
まあ、結果なれたけどね。
だからヒロちゃん、僕が捕まって悲しくても泣いちゃダメだ、前を向いて…。
え?違う?…あぁ、あれか。
ヒロちゃんのお母さんを殺しちゃったからか。
そうだった、ごめんごめん。
仕方ないよ、おばさんが気づいちゃったんだから。
始発に乗った時にね、僕が死体を投げるとこ、見ちゃったんだって。
フツー乗る時こっち見ないよね?
なんで見たんだろ、おばさん。
わざわざ終電に乗ってきてさ、自首しろって説得しに来たんだよ?
そんなこと言わなきゃ、殺したりしなかったのに。
ねぇ、こういう時ってさ、ヒロちゃんは事件の担当から外されたりするんじゃないの?

…うん、そうだよ、本当はおばさんのこと嫌いじゃなかった。
…ウソついちゃったな。
ウソつきな僕はヒーロー失格か…。
そっか。
なら、ウソついた罰、受けなきゃね。
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