1 ❀ 「俺の風を分けるから」

エピソード文字数 1,217文字

四月八日。


となりの山鶴村の子も通ってくるという学校へ、初登校する日がやって来た。


今日は始業式である。

今日から萌栄も、中学2年生か。

行ってらっしゃい!


はい、これ。学校までの地図ね

萌栄は、地図を手に歩き出した。


坂のあと、平たんな道が少しつづいて、また急な傾斜の坂が現れる。

あれ、変だな。この地図合ってる?


どんどん森の奥へ入っているような・・・

背後から話し声が聞こえた。


振り返ると、坂道を駆け上がってくる男の子たちが見えた。

あれ、君、この前来た子やね? おはよ

あ、萌栄さん、おっはよ~。

おはよう…。


ねぇ、この坂道のぼれば、学校なの?

そうだよ。この山超えたとこ!
ウソでしょ・・・
萌栄は目をしろくろさせた。
じゃ、お先に~
日高さんも、急いだ方がいいよ~

二人は、急な坂道を息も切らさず、余裕の表情で走りぬける。


その後ろ姿を、萌栄は呆然と見ていた。




おーい、萌栄ちゃん、おっはよぉー


固まってどうしたと?

学校が山向こうって、ほんと?
そうや
呆然としている間に、後ろからやってきた子たちが、次々と萌栄の横を走り抜ける。
どんどん、抜かされていく…

ぬかされてはダメだと思った。


前の学校では、勝っても負けても意地悪を言われていた。


萌栄はくやしくて、誰よりもがんばって、彼らの先を走りつづけた。


けれど…。

( みんなよりおくれている…。くやしい!

 こんなところでへばってどうする! 

こぶしを固く握りしめ、数歩下がり、はずみをつけてタッと駆け出す。


全身から汗がふき出す。


両足は悲鳴を上げる。


とうとう限界になって、坂の中腹でひざをついた。

あせらんでいいっちゃが、萌栄ちゃん
鋼がやってきて、萌栄へかがんだ。
だって、みんな、速くって!!
あのな、おれたちは風遁(ふうとんの術を使っちょっから、こん通学路も楽にいけるとよ
風遁の術?

そうや。気功法をもとにした、風を使う術や。


くわしくは、専門の先生が教えてくれるとよ。


――それまでは

鋼は「のってよ」と萌栄へ背中を出す。

で、できるとこまでは自分でやる。

できないところだけ助けてちょうだい!

じゃぁ、手ぇ握って。おれの風を分けるから

鋼が右手をさし出す。


彼のやわらかい笑みは、萌栄を安心させた。

ありがとう。

(  助けてくれるんだ。優しいなぁ…

さし出された手に萌栄が右手をのせた。


彼は強く握り、

いくよ――、せーの!
萌栄の手を引き、駆け出した。
あれっ!?
( 地面が、トランポリンのようにはずんだみたい! )
二歩目、三歩目からは、つま先が地面をするくらいの感覚である。
すごい、なんて走りやすいの。これが風遁の術?
そうや! 気持ち良いやろ?
うん! 最高!

どんな険路もらくらくと突破する。


萌栄は爽快感にみたされた。


足元へ落ちがちだった視線が道の先へと向く。

( 次は、どんな坂道かしら。よぉーし!

急な坂道もおそれない。


挑んでみようという気持ちが芽生えた。

走るのがこんなに楽しいの、はじめて!

良かった!





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登場人物紹介

日高萌栄 (ひだか・もえ


中学2年生、13才の少女。

カピバラをこよなく愛する。

重黒木 鋼じゅうくろぎ・はがね


中学2年生、13才の少年。機械いじりが得意。

椎葉 発(しいば はつ)


中学2年生、13才。

萌栄の友達。花火師の孫。

黒木 殿下(くろき でんか)


萌栄のライバル

那須 雨音(なす あまね)


殿下の友達。

黒木 媛(くろき ひめ)


殿下の妹

日高 結芽(ひだか ゆめ)


萌栄のお母さん

日高 地平(ひだか ちへい)


萌栄のお父さん

日高 雲水(ひだか うんすい)


萌栄の祖父

重黒木 功(じゅうくろぎ こう)


鋼のお父さん

重黒木 理玖 (じゅうくろぎ りく)


鋼のお母さん

椎葉 康次(しいば やすじ)


発の祖父。花火師

黒木 智子(くろき ともこ)


殿下、媛のお母さん。

黒木 未夏 (くろき みか)


クラスメイト

中武 陽(なかたけ はる)


クラスメイト

那須 貴也(なす たかや)


クラスメイト

那須 由子(なす ゆうこ)


クラスメイト

お殿様。


西方の里を治める、お殿様。

南朝の忠臣、その子孫。

忠平(ただひら)


お殿様が助けた忍者。

加藤清正に仕えていたが、毒殺の濡れ衣をかけられ、逃げてきた。

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