ある殺人犯の手記

エピソード文字数 1,192文字

 おれの名前はとりあえずJと称しておこう。
 イギリス生まれ。
 正確な年齢を知らないのは無理もねぇ。なんせ親の愛情ってやつを全く知らないまま、中途半端に成長したからさ。
 こんな手記を書いているのは、じつに滑稽だ。
 だが、おれは今、イタリアの洒落た喫茶店で珈琲をすすりながら、自分の過去を振り返るとしよう。
 帽子をかぶり、サングラスをつけたまま……
 
 今から三十年以上も前に、二十五人の子供たちを殺害してきた。この数だけは取り違えたことあねぇ。
 どうしておれは、可愛い子供たちを見ると、つい殺したくなっちまうんだ? 
 二十五人目の子供を殺害した後、お巡りのご厄介になった。別にヘマをやらかしたわけじゃねえ。ちょっと自分自身のことが知りたくなっただけさ……
 心理学のお偉さんが出した答えはこうだった。
 おれのことを、「精神異常者(サイコティック)」だってよ。
 くそったれが!
 裁判官の先生が下した判決はこうだった。
「被告人は、責任能力がないため精神病院に収容する」
 おいおい、責任能力がねえってのは、心外だぜ――大先生よぉ。

 数年後には、脱獄を果たした。
 殺人と脱獄はお手のものだった。
 ちょろいもんさ。
 現在も指名手配の身だが、捕まっちゃいねぇぜ。
 なんせおれは変装の名人でもあるんだ。
 世界中を逃亡するってのは、じつに気持ちがいいぜぇ――おれの性分にあっている。
 いったい子供たちをどうやって殺したかだって?
 そいつは愚問だぜベイビー。
 だが、この手記を読んでいる同志にだけ、こっそり告白することにしようか……
 まずは人気のない場所で、通りすがりの可愛い男の子と可愛い女の子だけが標的となる――ブサイクとドブスのガキ共は、こちらから御免こうむる――思わず反吐が出るからだ。そんでもって背後からスティックで後頭部を殴りつける。一撃で気絶させるのが名人芸ってやつさ。そしてその後、真綿を締めつけるように、じわじわとCの字のスティックで首を絞めつけて殺すんだ。おぼっちゃんとおじょうちゃんの綺麗な顔は、みるみる青ざめていきやがるんだ。
 この快感はたまらねえぜ!
 経験者のみぞ知る――なかなか渋い言葉だろう?
 おれは煙草に火をつけた。
 
 ある日、おれは本屋で絵本を手にとった。
 とりあえず数ページめくってみた。
 馬鹿野郎、おれはこんな間抜けな格好をしてるわけがねえ!
 
 精神異常者の囚人服を思わせる縞模様の赤と白のボーダーシャツ。
 眼鏡と毛糸の帽子。
 Cの字スティックを持って、無数の人ゴミにこっそり紛れて、奴はとぼけた顔で微笑んでいやがった。

 おれは思わずその絵本をビリビリ破きたい衝動にかられたが――そっと絵本を元の場所に戻してから一礼し――ジャパンから旅立ったのは、つい最近の出来事だ。


 






 
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