8.イチヤお兄ちゃんを大好きなのは、優しいからだけが理由じゃないよ!

文字数 2,494文字

 



 今日はね、大好きなお兄ちゃんを紹介するよ!
 女の子にも、下の男の子たちみんなに優しくてね、リーヴもそのお兄ちゃんにはよく笑ってるのを見かけるんだよ。
 タグお兄ちゃんが一番目なら、二番目のわたしたちのお兄ちゃん。

 イチヤお兄ちゃんは、わたしよりも二つくらい上だから、もうすぐ十三歳になる。
 髪の色はスウィンお姉ちゃんと似てて、金色じゃないんだけど茶色でもない、薄い色。優しい色なの。ふんわりやわらかくて、わたしなんか朝はぐしゃぐしゃに飛び跳ねちゃうから、すごく羨ましいな。
 瞳も薄い色でね、何色っていうのかな?
 ちょうど大きいお兄ちゃんたちが来てたからきいてきたよ! 蜂蜜かなあって言ってた! ほんと! おいしそうな色ね!

 誰にでも優しいイチヤお兄ちゃんみたいな人を、「穏やか」っていうんだって。
 怒ることはほとんどないし、笑うときは大きな声を出すんじゃなくて顔だけで笑ってて、小さな子みたいに泣いちゃうこともない。
 でもね、イチヤお兄ちゃんは、他のみんなみたいに怒ったり笑ったりしないけど、すごく豊かな心を持ってるって、大きいお兄ちゃんたちからよく言われてるんだよ。
 イチヤお兄ちゃんはね、みんなのことをそれぞれよく見てくれてるの。
 一番年上のタグお兄ちゃんは、大きいお兄ちゃんたちのご用事でいないことが多いから、イチヤお兄ちゃんはスウィンお姉ちゃんを手伝って、家の中のことをたくさんやってくれるんだ。
 もちろんイチヤお兄ちゃんも学校にも行ってるから、家のことをするのはそのあとになるんだけど、うちに帰ってから大きいお兄ちゃんたちがよく来る部屋を掃除したり、毎日のお料理だってやってる。
 お料理はスウィンお姉ちゃんより美味しく作ってくれるかも。ふふ、そんなこと言ったらスウィンお姉ちゃんに怒られるかな。
 わたしたちがスーザに来る前、リラの町でリーヴがいたときに、みんなでご飯を作って食べたの。
 スウィンお姉ちゃんが中心になって、もちろんわたしとシースも少し手伝って、ゴウトはつまみ食いばっかりして、ロクレイはそんなゴウトになにか顔に落書きされてたけどかまわずに料理の手順を思い出してはイチヤお兄ちゃんたちに伝えて、ニキお兄ちゃんはゴウトを叱ってて、シチェックはロクレイの落書き顔にケラケラと笑ってた。
 すぐ近くでリーヴが料理ができるのを待っててくれてたのに、わたしたちがけっこううるさくしちゃって、焦っちゃってうまくできなくって、わたしとシースはしょんぼりと気落ちしてたら、イチヤお兄ちゃんがわたしとシースの頭を撫でてくれてね、「大丈夫だよ」って、お料理のほとんどをやってくれたの。
 焦らなくていい、失敗してもなんとかできるよって。
 そう言ってくれたのが嬉しかった。
 ね、優しいでしょ?
 できた料理をリーヴに食べてもらって、褒めてもらったとき、イチヤお兄ちゃんは笑顔になってた。イチヤお兄ちゃんも、リーヴのことが大好きだから。
 イチヤお兄ちゃんは、わたしたちを大事にしてくれて、大きいお兄ちゃんたちのことも大事だって思ってる。
 大きいお兄ちゃんたちが警護のお仕事で怪我をしたら、わたしたちのいる近くで休んでもらって、ごはんを届けたり、お怪我のお世話をすることがあるんだけど、イチヤお兄ちゃんはそのお世話をなによりも一番先にするの。
 わたしたちきょうだいはみんなで助け合ってやっていけるけど、大きいお兄ちゃんたちには家族がいないから、お怪我をして体が動かないときにはお世話をする人がいないと大変なの。
 わたしやシースはまだお勉強しないといけないことばかりで、なにをすればいいのかわからなくて、それにね、お怪我も痛そうで、怖くて、わたしたちは全然お役に立てない。わたし、大きいお兄ちゃんのほうが痛いのに泣いちゃった。
 でもイチヤお兄ちゃんはそういうお怪我をしてる人のお世話の勉強もしてて、お医者さんが来てるときにはそのお手伝いもして、いろんなことをがんばってる。
 だからセリュフはイチヤお兄ちゃんをすごく頼りにしてるんだって。
「おまえがいれば、後方は気にしなくて済むな」って言ってた。イチヤお兄ちゃんがいなかったら、後ろが気になっちゃうようになるの?
 うーん、どういうことかよくわからないけど、とにかく、イチヤお兄ちゃんはすごい人なの! 
 イチヤお兄ちゃんはがんばりやさんで、セリュフもエヴァンスもヴィイも、それにリーヴだって、イチヤお兄ちゃんをすごく可愛がってくれてるんだってわかるんだ。
 大きいお兄ちゃんたちって、わたしたちのことみんなを大事にしてくれてるよ。その中でもイチヤお兄ちゃんは大きいお兄ちゃんたちの一番近くにいるから、もっと大事に思ってくれてるんだ。
 わたしが大事にされてることよりも、なんだかとっても嬉しい!
 だってね、イチヤお兄ちゃんがどうしてそんなにがんばってるのかを、わたしは知ってるから。
 あのね、わたしたちは本当のきょうだいじゃないでしょ、でも、イチヤお兄ちゃんには、本当のお兄ちゃんがいたの。
 わたしが小さいときのことだから、はっきりとは覚えてないけど、そのお兄ちゃんは、お怪我のせいで死んでしまった。
 イチヤお兄ちゃんも本当は、お怪我をしてる人を見ると泣きそうな顔になる。でも泣かないで、お怪我をしてる人が早く治るように、一生懸命にお世話をして、ごはんを作ってあげてるんだ。
 イチヤお兄ちゃんは、お怪我が怖いことよりも、大事な人がいなくなってしまうことのほうが怖いって言うの。
 うん、わたし、よくわかるよ。
 大きいお兄ちゃんの誰かがいなくなっちゃったら、すごく怖いよ。
 みんな、大好き。
 いやだ。
 いなくならないで。

 わたしが大好きになるあなたは、いなくならないでね。
 ずっとずっとそばにいてね。

 泣いてないよ、泣いてないからね。
 お母さんたちがいなくなったことは、もういいんだ。きっとどこかで生きてるって思うから。
 いまはお母さんたちより、大きいお兄ちゃんたちときょうだいたちのほうが大事だもん。

 誰もお怪我しませんように。
 誰もいなくなりませんように。



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登場人物紹介

サンゼ


読み聞かせで読んでもらった、王子様とお姫様の恋物語に憧れている、夢見る女の子。十歳。

いつか自分だけの王子様が現れると信じている。

彼女の周りには、カッコイイお兄さんとカッコイイ戦士たち、綺麗なお姉さんがいるので、血が繋がっていなくてもみんな家族!

悲しいこともあったけど、いまはみんなと一緒で幸せいっぱいです。

スウィン


「リクのうち」の子供たちの面倒をよく見ている、みんなのお姉ちゃん。小さい子たちのお母さんみたいな人でもある。

薄色の髪、くすんだ翠の瞳。十五歳。

化粧っ気は皆無だが、スッピン美人さん。リクやヤトゥの男たちが貧しい彼らの村にやってくるまで、少女であった彼女が年老いた者らや子供たちをまとめ導いていた。

セリア


「剣と鞘のつくりかた」主人公リーヴに恋する十六歳。金髪碧眼。

おしゃれは全部リーヴのため。彼にふさわしい女になる努力は惜しまない。

周りにどんなにいい男がいても、リーヴしか目に入ってない。

リーヴにはその気がないのはわかってる。でも諦めない。

見た目はキラキラした派手目の美少女だけど、とても健気な乙女。

エヴァンス


「剣と鞘のつくりかた」に登場する「リーヴ」の仲間。主要人物。書き手の予定以上に最も登場が増えた人。

おしゃれ好きな伊達男。柔らかな物腰で、いろいろなところへと行かされる情報係。情報収集では優秀な人。少しくすんだ色の金髪、薄青の瞳。現状髪は結べないくらい。女性ぽくはないけど、男臭さも少ない。美系イケメン。

歳は人に訊かれてもはぐらかすが、秘密にしているのは、年若いことで人に侮られないようにしているため。様々な人格を装い、闇の人物とも接触して情報を収集していく。

シース


サンゼよりひとつ下のおとなしい女の子。

肩くらいに揃えたキラキラとした茶髪は癖っ毛。瞳の色は、サンゼの好きな晴れた空の色。

ぼうっとしていることが多いけど、精霊の気配を感じ取っているのかもしれない。人間とはあまりうまく接することができないけど、未来の彼女は精霊に言葉を伝える力の強い魔法士、になることをセリュフにほんのりと期待されている。

ロクレイ


九歳男子。人の後を誰でもついて回るのは人恋しいから。寡黙な天才。一度聞いたことはなんでも記憶し、人が疑問に思ったことには敏感に察して訊かれてもいないのに答えを発する。生きた知識庫。エヴァンスがロクレイの才能を気にかけていて、人に悪用されないように見守っている。

樺茶けたような、朽葉色の髪。濃い緑に杏の虹彩・いわゆるアースアイ。


(アイコンは十代後半以降。子供時代のいいアイコンがなくて。とくに外見を決めていなかったので、このアイコンからもありかな)

タグ


生まれ育ったフッサの村が一時期無頼者の溜まり場になったこともあって、老人と子供だけになった村をタグ含む年長組で守ってきた。大人がおらず苦労していたところにヤトゥの男たちがやってきて助けてくれたことで、彼らをまとめていたリーヴを大尊敬している男子。

茶髪茶眼、マンダルバ人よりも肌色は薄い。外見特徴がリーヴに似ていることが嬉しい。

まだまだ大人になりきれていないが本人は大人のつもりでいるので、大きいお兄ちゃん(ヤトゥの男)たちから小生意気に見られているが、大尊敬しているリーヴの命令(直接に言うことはない)と側近ル・イース(リーヴ至上主義)の命令は絶対服従。普段は大きいお兄ちゃんたちに雑用を命じられることが多い。

雑用をしてくれる人間はヤトゥ内では少なく貴重であるので、大きいお兄ちゃんたちはタグのことをちゃんと評価しているが、大きな仕事を任されることがないのでタグ本人は大変不満に思っている。それをまだまだだなあと思われていると本人は気づいていない。

セリアとスウィンは歳が近いこともあって、よく一緒に過ごしてきたため、彼女らを一番身近で守る存在でもある。ムトンでは女性は無頼者から危険な目に遭うことも多く、スーザでもいろんな人種がいるために、美少女セリアの警護を大きいお兄ちゃんたちから命じられているので、二人は共に行動することが多い。

セリアとは、リーヴ大好き人として同志である。リーヴに対してタグは恋愛感情ではないので、むしろセリアがリーヴと恋人になればずっと近くにいられると思っているので、セリアを応援している立場をとっている。

下の子たちの世話は村にいるときにさんざんしてやったので、みんなあれから成長してきたいまは基本放置のスタンス。でも可愛がってないわけじゃない。ツンデレなだけ。

作者からは本来もっと陰湿な性格にされかけたが、リーヴを尊敬する子がそんなイヤな子になるわけがないと考え直され、イイ子になった(笑) 


(アイコンはツンデレそうな近そうなのを選んだ。ごめん、そんなに容姿の設定に力が入ってなくて。)

イチヤ


タグの次に年長の男子。

金よりも薄い色の髪はスウィンに似ている。二人とも穏やかな性格なので、本当の姉弟のように見える。瞳は薄い琥珀系だが、誰かが蜂蜜色と言ったせいで、美味そうとからかわれることもある。

料理男子。手先が器用で、手慣れるとスウィンよりも料理は上手。味付けも抜群。大きいお兄ちゃんたちによくからかわれて「嫁に来い」と言われるのがすごく困っている。

ヤトゥの警護部の仕事が危険性があるので、たいてい誰かしら怪我をしていて、スーザで養生するときに「リクのうち」を使うことがあり、そのお世話役を担っている。

小さい頃に実の兄を事件による怪我が元で亡くしていて、その悲しみから怪我人には特に優しく、早く治るようにと医療系の勉強もがんばっている。

医療、福祉、補給、そういった後方支援の第一人者となるべくセリュフは黙々と仕込んでいる。本人も意識せずその方面に行こうとしている。


(アイコンは、一番優しそうなのを。うん、イイんじゃないでしょうか。いまよりも成長後かな。)

ゴウト


やんちゃないたずら男子。ロクレイやシースと同じ九歳。

ロクレイと常に一緒にいて、彼にたくさんちょっかいをかけている。ヤトゥの戦士たちが来てくれるまでは、小さいながらも、女子や、ロクレイ、シチェックを守ることを頑張っていた。いまは自由に生きている。

ロクレイはなにをしても許してくれるし、一番近い存在と思っていて、みんなも大好きだけどロクレイと一緒に生きていられることが嬉しくて仕方がない。

大きくなってからは、ロクレイを一番近いところで守りながら、みんなを守れる男になる。はず。

赤みの強い茶金の髪(デットの赤銅色ほどに濃くはない)、黒に近い茶色に薄茶の混じった瞳。外で遊びたがる子で、マンダルバ人ほどではないが日焼けしていて、健康的で活発が目に見えてわかる。

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