4話 王族(2)

文字数 1,504文字




「イヤになったら言って。無理(むり)はしなくていいから」

 そう口にして、おいで。と(やさ)しく言うと、聖くんは花園(はなぞの)の中心にある道に足を動かして。


「聖」
「聖さま」

 聖くんに気づいた2つの人影(ひとかげ)同時(どうじ)に聖くんの名を()ぶ。聖くんは小さな2つの人影に近づくと、念話(ねんわ)を使った。

 念話で会話がされたことに気づかない(おさな)いあたしは、(おそ)る恐る足を動かして聖くんの後ろまで近づく。


「聖さま、その(かた)は──?」

 聖くんが王子(おうじ)と言った左の少年(しょうねん)は、子供(こども)だったあたしは疑問(ぎもん)に思わなかったけど、聖くんに(さま)をつけていた。


「自分で名前、言える?」

 そうあたしをふり返って(たず)ねる聖くん。あたしはこくりと(うなづ)く。


「……アメリア、といいます」

 そう言えば、紅茶(こうちゃ)のロイヤルミルクティーを(うす)くしたような髪色(かみいろ)の少年が口を(ひら)く。


(ぼく)透琉(とおる)

 右に(すわ)透琉(とおる)くんこと(とお)くんの言葉に、横の満瑠(みちる)こと(みち)くんが長椅子(イス)から立ち上がる。そして会釈(えしゃく)した。


「ぼくはこの国の王子、満瑠(みちる)といいます」

 そう満くんが言うと、透くんが(たず)ねる。

「何か用事(ようじ)彼女(かのじょ)紹介(しょうかい)するために来たの?」

「そうだけど。……満瑠(みちる)仲良(なかよ)くして」

 そう聖くんが言えば、仲良く、ですか? と口にする満くん。


「そう。アメリアは国を出て来たばっかだから」

「どこの国の(かた)なんですか?」

 満くんに聖くんは答える。魔界出身(まかいしゅっしん)──、と。満くんは目を見開(みひら)いた。


「それ、ばらしていいの」

 そう、すかさず口にする透くん。(おさな)いあたしには(わか)らなくても、あたしには(わか)る。人間の世界(せかい)(つた)わっている魔族(まぞく)伝承(でんしょう)は、()いモノじゃなかったからだ。


聖族(せいぞく)とでも言えばいいのに」

 そう言った透くんに聖くんは言う。


(かく)すくらいなら(はじ)めから言っといた(ほう)()いでしょ」

「王が(ゆる)す?」

「俺のワガママを許さないって思うの」

 そう聖くんが言えば、透くんは(かる)くため(いき)()いた。


「じゃあそれは聖がどうにかするんだね」

「そうだけど。……だから満瑠(みちる)透琉(とおる)もアメリアと仲良くして」

 聖くんと(とお)くんは見つめ合う。あたしは不穏(ふおん)空気(くうき)に聖くんを見ながらおろおろしてしまう。しばらくすると透くんは口を開いた。


「いいよ。面倒(めんどう)見てあげる」

 そう言って、透くんはあたしを見る。あたしはとっさに聖くんの後ろに(かく)れた。


(こわ)がらせてごめん。……アメリアだったね。よろしくね。仲良くしよ」

 透くんのその言葉を聞いてあたしは(おそ)る恐る顔を出す。透くんは顔を出すと微笑(ほほえ)む。聖くんの顔を見上げれば、聖くんがこっちを見て(うなづ)いた。


「よ、よろしくお(ねが)いします」

 そう言ってあたしはペコリとお辞儀(じぎ)をする。


「あと、アメリアは魔族(まぞく)(ひめ)だから身分(みぶん)(おな)じくらいだから」

「魔族の姫? 聖、まさか(さら)ってきたの?」

 透くんがそう口にして。


「攫うわけないじゃん」

「ならどういう事情(じじょう)?」

 透くんのその言葉にあたしの表情(ひょうじょう)(くら)くなる。当時(とうじ)のあたしは国を()われたのだと理解(りかい)していなかったけど、もう魔界(まかい)にも国にも(もど)れないことは(わか)ってたんだ。


()りたいなら紫桔舞(しきぶ)かレイに()いて」

 聖くんはそう答える。(おさな)いあたしには(わか)らなかったけど、それはあたしに対する聖くんの気遣(きづか)いだった。透くんと満くんに事情を説明(せつめい)することによって、あたしが(つら)出来事(できごと)を思い出すことがないように。


「……紫桔舞(しきぶ)は事情知ってるんだ」

 聖くんの言葉に透くんはそう言う。


「当たり前でしょ。俺を()(もど)したの、紫桔舞(しきぶ)だから」

「……、なら僕から言うことは何もないよ」

 透くんはそう口にしてあたしに視線(しせん)を向けた。そして(ゆる)微笑(ほほえ)むとあたしに向かって話す。

魔族(まぞく)ってことは、普段(ふだん)古代英語(こだいえいご)を喋るの? それとも、6000年(ろくせんねん)(あいだ)言語(げんご)は変わった?」

こだい(・・・)英語……?」

 あたしは聞き(おぼ)えのない単語(たんご)に声を()らした。


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