第1話

文字数 511文字

財布をスられた。
斜め掛けにしていたバッグのファスナーのスライダーは、常に手前にし用心は怠らなかった。
しかし書店で精算をしようとした時、ファスナーがパックリ開けられ、財布が消えていることに気付いた。その日ショッピングモールは結構な人出で、特設会場で私の知らない若手お笑い芸人が、
ミニライブをやっていた。
私の目的はそれではなかったのだが。そこに向かう人波に押され、
バッグが背中に回ってしまう瞬間があった。たぶんその時だ。

すぐにモールのサービスセンターに駆け込み。
警察にも届け出をし銀行に連絡をして、カード類の利用を停止する手続きをした。

すべては徒労だった と
私の頭に立原道造の詩の一節がふとよぎった
いや、そんな文学的悲哀にひたっていた訳ではない ただめっちゃ疲れただけだ。

現金、端数切り上げて13600円は戻って来るまい。
カード類の再発行にも一週間から十日はかかるし、手数料もかかる。
何より財布だ。
私のお気に入りだった、紺に白猫のシルエットがワンポイントの長財布。
きっと現金だけ抜かれて、歩道の植え込みか側溝にでも、投げ捨てられてしまっただろう。
彼女が蹂躙されたことに私の胸は張り裂けそうだった。

くやしい、私は復讐を決意した。
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